短期での投機的トレードが理路整然と行われている為替市場に注目!
このところの金融市場を取り巻く外部環境は目まぐるしく動いており、非常に活発なトレードがなされている。「トレード」というのは文字通りのトレードであり、長期投資を前提としたものではなく、きわめて短期的なリターンを狙った投機的な投資行動である。私はそれを非難しているわけではなく、「むしろそうなるのは当然だな」というのが正直な感想だ。理路整然とした投機的行動が行われているのが昨今の為替市場であり、やや曖昧な動きをしているのが株式市場である。
為替市場の動きは非常に分かりやすい。今一度2024年のドル円相場を検証してみよう。2023年12月25日に140.25円の水準にあったが、2024年7月1日には161.95円まで円安が進んだ。チャートを見ていただくと分かるが、ほぼ一直線の上昇で、約半年間で実に22円もの円安が進んだ。ドルが買われて円が売られる理由は何だったのか覚えておられるだろうか? 答えは同年8月5日に起きた「令和のブラックマンデー」の背後で行われていた円キャリートレードである。
円安を加速させたキャリートレードで積みあがったポジションは3000兆円
日本のゼロ金利に対して、米国は利上げを停止していたものの高金利。そこで、低金利の円で借り入れて高金利の金融商品で運用しようという動きが活発化した。日本の短期金融市場で調達した円を外貨に換えて運用するとなると、それは即、円売り要因となる。要するに円を売ってドルを買い、そのドルで「マグニフィセント7」などの米ハイテク株への投資が加速した。 運用益に加えて、金利の利ざやを獲得しようとする取引であり、さらには継続的に円安進行すると為替益も稼ぐことができるというトリプルメリットだった。民間金融機関のレポートによると、日本の国内総生産(GDP)の500%に相当する巨額のキャリートレードが存在し、金額にして20兆ドル、3000兆円ものポジションが積み上がっていた。
日銀の植田和男総裁は2024年3月にマイナス金利を解除し政策金利を-0.1%から0%に引き上げたが、同年4月の金融政策決定会合においては「利上げは急がない」という姿勢を示したことに加え、記者会見の席で「現状の円安なら物価への影響は無視できるのか?」と問われて即、「はい」と返事をしたことで円安容認の姿勢が鮮明に示されたのは記憶に新しい。円キャリートレードで稼いでいる欧米のヘッジファンドたちは安心して円を売っていたのだ。
史上最大の下落幅を演じた令和のブラックマンデー以降、円高が急加速
ところが、令和のブラックマンデーを契機に急速な円高が進んだ。円キャリートレードの巻き戻しである。米国は高金利是正のため利下げへの準備を進める一方、日本は追加利上げに向けて動き出すという構図の中で、円を買い戻してドルを売り、保有していた株のポジションを整理する売りの連鎖が起こった。これにより2024年9月16日には139.55円のレベルにまで一気に為替水準が動いた。わずか2ヶ月半で22円もの円高、すなわち「行って来い」の状況が実現したのだ。凄まじい動きである。
さらに普通の常識では理解しがたかったのが2024年後半の動きである。実際、米連邦準備理事会(FRB)は、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で4年半ぶりの利下げを行った。しかも0.5%という「倍速」の利下げを行い金融政策転換の初っ端での大胆な決断、サプライズだった。一方、日銀は7月に追加利上げを決定しており「米国利下げ、日本利上げ」=「日米金利差縮小」=「円高、ドル安」とのシナリオになるはずがそうはならず、2025年1月10日には158.85円まで円安が進んだ。
しかし、トランプ大統領誕生の先読みで金融政策に反し、再び円安が加速
FRBは11月に0.25%、12月にも0.25%の追加利下げを行って円安が進んだのだから、中央銀行の金融政策では説明できない動きである。ここにはトランプ大統領誕生による先読みがあった。要するに。減税や規制緩和による経済政策を推進すれば当然ながら財政支出は拡大してインフレ懸念が再燃し、さらに関税発動となれば米国内の物価上昇率を押し上げる形でインフレ要因が加わる。このシナリオを睨みつつ米長期金利は急激に上昇し、それがドル買い、すなわち円売りをもたらした。
そして、今年に入ってからドル円を攪乱する要素が日々入れ替わる目まぐるしい動きとなっている。雇用統計などの労働指標が鈍化することで「利下げスピードが速まる」と喜び、消費者物価指数などのインフレ指標が強含むことで「2025年の利下げはないかも」と不安になり、日々の理路整然たるトレードの材料になっている。しかも「わずか0.1%上回った、下回った」という事態を誇大視することで値動きが大きく増幅されるのが実態だ。1日であっという間に2~3円の幅で為替が動く。ポジションを持っているトレーダーたちは、片時もマーケットから目を離すことができず、過度な緊張状態にあると思われる。
東証グロース250など金融相場の胎動も見られるが株式市場の動向は緩慢
それに比べれば株式市場は、のらりくらりの「ぼやけた動き」しかしていない。FRBが昨年9月に利下げを開始した時点で「金融相場」の号砲が鳴った。マーケットサイクルにおいて金融相場が最も株式市場に追い風が吹き、米金利低下で金余りが起こってマネーが流れ込む。前回の金融相場を思い出していただきたい。すなわち、コロナショックで自主的に経済活動を自粛した2020年は企業業績が急激に悪化して不況となった。その状況を打破するために、FRBは一気に政策金利をゼロ金利まで引き下げたのだ。これが火付け役となり、世界の株式市場が急騰した。「マネー供給が爆発すれば不況なんて関係ねぇ。さあ株を買え、株を買え」という大合唱が起こったわけである。
ところが、今回の金融相場を見てみると、昨年9月17日の利下げ直前と現在の2月14日の比較ではNYダウは4万1606ドルから4万4546ドルへと2940ドル上昇の7.1%高、日経平均は3万6380円から3万9149円へと2769円上昇の7.6%高となっており、金融相場初動に見られる急上昇という現象は起きていない。「FRB利下げ&日銀利上げ」という金融政策の方向性の相違はあるが、株式市場はFRBの政策に支配されるため日米の株価は基本的に連動する。今後の株式市場の上昇率を決めるのはFRBの利下げスピードだ。その先行指標として注目されるのが、これまでおとなしかった小型グロース株の代表的指数の東証グロース市場250指数だ。徐々に動き始めており、昨年7月以来となる700ポイント寸前にまで上昇している。要注目である。
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●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもDFRへのレポート提供によるメルマガ配信などで活躍。
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