「勝者のゲーム」と資産運用入門

DeepSeekショックでエヌビディアなどAI関連急落。
真偽不明だが、ゲームチェンジに至る程の影響なし。
生成AIや高性能GPUを手がける米企業の攻勢は続く。太田忠の勝者のポートフォリオ 第174回

2025年2月4日公開
太田 忠
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DeepSeekショックでエヌビディアの時価総額がわずか1日で91兆円消失

 世界中に衝撃が走った。1月27日の米国市場。中国のスタートアップの人工知能(AI)企業であるDeepSeekが低コストで生成AIを開発したことを受けて、株式市場がパニックとなり、関連銘柄の株価が暴落した。最も衝撃的だったのがAI半導体大手の米エヌビディアの株価が17%安とわずか1日で時価総額が91兆円失われたことだ。91兆円という金額はトヨタ自動車の2倍。要するに、トヨタ自動車2社分に相当する企業価値が一瞬で消失したことになる。単一銘柄の1日の時価総額の減少額としては史上最大だ。

 「DeepSeekはAI業界のスプートニクショック」「中国が変えたゲームのルール」「ついに中国が最先端技術で米国を凌駕した」など、注目を浴びたい一心でメディアはこぞって過激なタイトルでこの件を報道した。

 DeepSeekが開発した大規模言語モデル(LLM)は、エヌビディア製の「H800」という低性能なチップを使って開発費がわずか600万ドル(約9億円)未満で作り上げたとされている。にもかかわらず、その性能評価において「メタプラットフォームズのAIを上回り、オープンAIの一部モデルより精度が高かった」と報道された。

高性能な生成AIを低コストで開発できるなら成長シナリオが崩れると懸念

 高性能な生成AIの開発には巨額の資金がかかるのが常識だ。ソフトバンクグループ(9984)やオープンAI、オラクルなどが掲げるAI開発の「スターゲート」計画では4年間で最大5000億ドル(約78兆円)の対米投資を目指すと発表。すでにハイテク大手はデータセンターなどへの投資を競ってきた。低コストで高性能なAIが作れるなら株式市場の成長シナリオが崩れかねない。

 今回のニュースを受け、渦中のエヌビディアのジェン・スン・フアン最高経営責任者(CEO)は賛辞を送り、「訓練から推論への完璧な例をDeepSeekが見せた」とコメント。卓越した生成AIの開発における従来の決め手はAIに膨大なデータを学習させることであり、それに費やすコストが膨大なことだ。弱点を克服した生成AIが登場したことに対してポジティブな反応を示した。

DeepSeekショックと今後の展望は?

 株式市場ではさまざまな投資家が入り乱れて日々取引されている。この1件で「もう米国のAI関連企業は終わりだ」と判断して関連銘柄を投げてしまった投資家もいれば、「しばらく静観しよう」と様子見をする投資家、逆に「安くなれば、買いのチャンス」と考える投資家もいるなど、さまざまだ。

 私自身にも早速、「DeepSeekの影響でエヌビディアの今後の展望を教えて下さい」と個人投資家から問い合わせが飛んできた。1月29日の時点での私の回答は次の通りである。

・「DeepSeekが開発した生成AIによるエヌビディアへの今後の影響については、現状において不透明な点があまりにも多く、今後を見通せる人は誰もおりません」
・「中国発の情報はウソやまやかしが多く“10分の1の開発コスト”を真に受けるのは愚かです。オープンAIから大量のデータを不正入手したとの報道もあります。また、中国に対する追加関税への対抗措置の一環である可能性もあります。さらに、DeepSeekの思考や回答の内容にかなり言論の統制や誘導がかかっており、そのようなサービスが欧米で本格的に受け入れられるとはとても思われません
・「今回の件はあくまで業界の競争激化の一側面に過ぎず、エヌビディアの競争力が大きく失われることはなく、マーケットの反応は大げさのように思います。生成AIの市場はこれまでのシナリオ通り大きく伸びていくのではないでしょうか」
・「『イノベーションが進み開発の裾野が広がれば広がるほど、高性能GPUが必要となるパラドックスが起きる』とコメントする市場関係者がいますが、おそらくこうしたシナリオが自然でしょう」。そして締めくくりの一文は「最終的な投資判断はあくまでご自身で行ってください」である。

DeepSeekの性能に疑問符。中国政府の統制も含めて大きな発展は期待薄

 29日から2日が経過し、本稿を執筆中の1月31日。私の判断はさらにDeepSeekに疑問を投げかけるようになった。それは、以下の事実が明らかになったからだ。

 「DeepSeekがプライバシーポリシーに基づいてユーザーから収集したデータは“中華人民共和国にある安全なサーバに保存する”と明示されている」と。「これは、これは…。なるほどそうか…」となる。当然のことながら、世界の主要企業や政府機関の間でDeepSeekが開発した生成AIの利用を制限する動きが広がっている。しかも数百社がDeepSeekへのアクセス自体を遮断する措置を講じている。

 そもそも本当に低コストで開発できたかも怪しいが、オープンAIからデータを不正入手したとの報道、中国の言論規制がかかったシステムであり、報道分野での正答率が著しく低く、利用者のデータは中国政府に筒抜けの可能性もある。そんなシステムを一体誰が利用するのだろうか? 関税強化など対中貿易政策に備えて、中国政府が後ろ盾となってプロパガンダを行っているとしか思えない。さらに、驚いたことに中国のクラウドサービス事業者であるアリババグループが「DeepSeekよりも優れた生成AIを開発した」との報道も流れて失笑してしまった。DeepSeekにせよアリババにせよ情報公開が一方的すぎて、信憑性に疑問が付く。

 今後どのような展開になっていくのかは興味深いところだが、こうした中国発の話題の後で、米国のメタ・プラットフォームズが「AI関連投資を今後積極的に行っていく」と決算説明会の席で述べた。中国企業と米国企業、皆さんはどちらに軍配が上がると思われるだろうか?

「勝者のポートフォリオ」は最高値更新。2月6日セミナーで詳しく解説!

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●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもDFRへのレポート提供によるメルマガ配信などで活躍。

 

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