トランプ政権から突然発せられた関税引上げ報道で日経平均株価は急落
2月4日火曜日からメキシコとカナダには25%の関税、中国には10%の追加関税を実施―。
2月1日土曜日にトランプ政権から発せられた突然のニュース。かなりのサプライズだった。この報道を受けて一番最初にオープンした株式市場が他ならぬ東京市場だった。2月3日月曜日の日経平均株価は1052円安と急落。世界経済に与える影響への懸念が意識され、特に関税の影響が大きい自動車株が売られた。売りはアジア市場全体に波及してややパニック的な様相となった。
トランプ氏は大統領選の最中から「関税引上げ」を公約の筆頭に掲げてきた。自身のSNSにおいて「大統領に就任したら直ちに、メキシコとカナダに25%の関税、中国には10%の追加関税を課す」と公言してきた。ところが、1月20日月曜日の大統領就任初日に署名した26本もの大統領令の中に肝心の関税強化に関するものがなく、「メキシコやカナダを中心に不公正な貿易慣行がないか調査を命じる」との大統領令のみだった。自らを「タリフマン(関税男)」と称するトランプ大統領が米国第一主義の御旗としていた関税引上げの第一歩は、拍子抜けとも言える穏当なものだった。
「しばらく発動はない」と楽観論が占めていた市場に冷や水を浴びせる
1月28日のコラム『トランプ政権がスタート、ビジネスマン大統領の目指すもの』において、私は次のように述べた。「トランプ大統領の思惑は“関税”を武器に相手国と本当の意味での経済的ディール(取引)を行いたいことだ」「一方的に関税を発動してしまえば、ディールすることはできず、高関税が米国民の負担にストレートに繋がり自国民にデメリットをもたらすことをトランプ大統領は承知している」と。
メキシコ、カナダ、中国の3カ国のみを名指しでターゲットにしたのは明白だ。これら3つの国が米国の輸入国のトップ3だからである。内訳はメキシコが15%、カナダが14%、中国が14%であり、3カ国で全体の43%を占めている。「麻薬が米国に流れる元凶」というのは表向きの理由であり、米国に影響度の大きいこれらの国々からまず手を付けようということだ。
大統領就任初日に具体的な関税引き上げ政策が発表されなかったことで、マーケットには楽観論が広がった。「しばらくは関税の発動はない」との見方が優勢となり、「トランプ関税が実行される可能性は20%程度」と試算する証券会社もあった。実際、トランプ政権内で実施を阻止したり、延期させたりする動きが出ているとの現地報道も伝わってきた。財務長官に就いたスコット・ベッセント氏が関税率の段階的引上げ論者であることも市場の楽観を増幅した。
カナダとメキシコには1カ月延期したが、中国には予定通り10%の追加関税
ところが、である。トランプ氏が週末に突然の関税発動の大統領令に署名し、交渉のテーブルにつかない状態で一方的な関税引上げを宣言。「これは大変なことになった」となるのは当然のことである。さらに驚いたのが、関税発動の直前になってカナダとメキシコへの関税を1カ月延期する一方、中国に対しては予定通り10%の追加関税を行う方針を示したことだ。カナダとメキシコが合成麻薬フェンタニルや不法移民対策として国境警備体制を強化するとの発表を受けたことによるものだ。ただし、中国は米国に報復関税を課す姿勢を打ち出したため、予定通りの関税発動となった。第一次トランプ政権では関税合戦による米中貿易戦争が注目の的だったが、今回は延長戦のようなものであり再び米中貿易戦争の様相を呈し始めている。
今後、関税引上げが中国以外にも広がった場合の経済への影響はどうなるのか? メキシコにおいては対GDP比における米国の輸入依存度が2%であるのに対して、メキシコの輸出依存度は38%。カナダにおいては1.3% vs 3.1%、EUでは1.2% vs 4.2%である。米国は経済規模が大きいため輸入依存度が低いのに対し、相手国は輸出依存度が高いという構図である。心配されている米国のインフレへの影響だが、米国の過去10年間のドルの実効為替相場は26%上昇しており悪影響は軽微にとどまると予想される。ちなみに、米中貿易戦争時の米国のインフレ率は2018年が2.4%、2019年は1.8%の水準だった。関税引上げの影響はほとんど見られない。
高関税で世界経済は破壊されない。バカげた安値で追加投資するチャンス
株式市場において、今回の件はいわゆる「経済イベントがもたらすシステマティックリスク」であり、冷静に対処していただきたい。「勝者のポートフォリオ」のスペシャル講義において、2024年にシステマティックリスクに関する講義を10回に渡って解説した。関税問題はすでに第一次トランプ政権下で激しい「米中貿易戦争」で十分に経験してきたことであり、高関税で世界経済が破壊されることはありえない。むしろ、安値で投資できる好機が到来してきたことは周知の事実である。2018年から2019年にかけて日経平均は1万9000円~2万4000円のレンジで動き、NYダウは2万2000ドル~2万6000ドルのレンジから最終的には2万8000ドルに切り上がった。要するに日経平均は2万円を切るレベル、NYダウでは2万3000ドルを切るレベルで絶好の買い場が到来したというわけである。
とはいえ、ヘッジファンドなど短期筋の投資家にとっては「売り」で儲ける格好の材料となり、度重なる売り仕掛けが行われることは容易に想像できる。システマティックリスクを引き起こす最大の要因となる。だが、それも恐れるに足りずだ。我々としては、泰然自若の姿勢を保ちつつ、むしろ「バカげた安値」で追加投資できるチャンスを窺っていく姿勢が大事である。
トランプ政権による関税引上げがどれくらい続き、どれくらい他の国々にも影響を及ぼすかは今後注視が必要だ。高関税はいずれ是正される。とにかく大事なのは、メディアのネガティブで無責任な煽りや、インフルエンサーたちの過激な言動、そして目先の株価下落に惑わされないことである。最も影響を受けると思われるトヨタ自動車の利益へのインパクトは17%の減益をもたらす程度である。冷静になるべきだ。
2月6日セミナー録画を見てトランプ関税が与える影響と投資戦略を学ぼう
さて、太田忠投資評価研究所とダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチ(DFR)がコラボレーションして投資助言を行っている「勝者のポートフォリオ」。毎週のメルマガ配信による運用の指南だけではなく、2大特典として毎月のWebセミナー開催とスペシャル講義を提供している。
2月6日木曜20時よりWebセミナーを開催した。テーマは『トランプ政権が関税発動、今後のマーケットと投資戦略を考える』。平日の夜にもかかわらず256名が参加して22時30分に終了。録画した動画を会員ページにアップ済みである。次回は3月6日木曜20時より開催予定である。10日間の無料お試し期間を使えば誰でも参加が可能。オープンな開催は行っていないのでご注意願いたい。
動画による最新のスペシャル講義は『新NISA 2年目の投資戦略』をアップしている。内容は「1年目を総括する」「2年目は何を買うか?」の2本立てだ。「勝者のポートフォリオ」の会員は2025年の新NISAへの取り組みを積極的に行っている。読者の皆さまはきちんと取り組まれているだろうか?
●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもDFRへのレポート提供によるメルマガ配信などで活躍。
※この連載は、ワンランク上の投資家を目指す個人のための資産運用メルマガ『勝者のポートフォリオ』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、メルマガ配信の他、無料期間終了後には会員専用ページで「勝者のポートフォリオ」や「ウオッチすべき銘柄」など、具体的なポートフォリオの提案や銘柄の売買アドバイスなどがご覧いただけます。原則毎月第一木曜夜は、生配信セミナーを開催。
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