パウエル議長はダイレクトな言葉は使わなかったが、アメリカが「スタグフレーション」へ陥る可能性を示唆した
4月16日、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長の講演がシカゴ経済クラブでありました。講演後の質疑応答の中で、パウエル議長は、関税の短期的影響として失業率の上昇とインフレの加速が予想されると警告しました。
このパウエル議長発言は「スタグフレーション」(経済成長の停滞とインフレの同時発生)を示唆していますが、彼はこの言葉自体を使うことは避けました。そして、「FRBの使命は雇用の最大化と物価安定だが、今年はこれらの目標の達成が困難である可能性が高い」と述べました。
トランプ大統領はパウエル議長を「負け犬」と罵ってまで、なぜ激しく攻撃しているのか?
現在、ホワイトハウスは利下げを強く望んでおり、このところ、トランプ大統領はパウエル議長を解任する可能性について言及してきました。4月21日にはパウエル議長は「負け犬」だと厳しく批判したほどです。
パウエル議長のFRB議長としての任期は来年(2026年)5月までであり、次期議長は政権と市場の両方を納得させる人物である必要があります。
トランプ大統領がパウエル議長を激しく攻撃している理由の1つは、インフレを望んでいるからだと思われます。
低金利とインフレは、不動産業出身のトランプ大統領にとっては都合の良い組み合わせなのです。アメリカの債務利払いは2026年にGDPの3.2%、1兆ドルを超える見込みで、短期国債中心の資金調達が好まれるでしょう。
低金利政策はインフレを加速させますが、実質金利(名目金利-予想インフレ率)をマイナスにすることは、多額の債務を抱える政府にとって、その債務を実質的に軽減できる古典的な解決策とされてきたことです。
なぜなら、インフレによって名目GDPは増えるため、名目GDPに対する債務の比率が相対的に下がるからです。インフレによって債務の実質的価値を下げ、過剰な債務を解消する方向へもっていくことが可能となるのです。
中国が米国債をさらに大量に売却し、米長期金利が急上昇すれば、市場は大混乱に陥るだろう
FRBのバランスシートは新型コロナのパンデミック時に拡大し、現在でも6.7兆ドルと過剰な規模になっています。
関税や政策不安から、最近、アメリカの長期金利は上昇しています。

さらに関税によってアメリカの貿易赤字が減少すれば、アメリカの貿易相手国が得る米ドルは減ることとなり、そのような諸外国からの米国債買い需要も減少することになります。
中国は10年以上前から米国債の保有額を徐々に減らしてきていますが、もし、中国がここから米国債をさらに大量に売却し、アメリカの長期金利が急上昇するようなことがあれば、それは市場に大混乱をもたらすことでしょう。その場合、FRBが量的緩和を再開する可能性があります。
中国や日本は依然として大量の米国債を保有しています。不動産の世界では「借金が大きければ、それは借り手ではなく、貸し手の問題だ」という格言があります。
短期金利を低下させ、インフレ率が高まれば、アメリカの債務削減と景気刺激の両方に寄与する。このシナリオで損する人は?
短期金利を抑えたうえで、たとえば関税などによってインフレ率が高まれば、やがて実質金利はマイナスとなり、これはアメリカの債務削減と景気刺激の両方に寄与します。
このシナリオで損するのは、まず現金を保有している人々、そして債券を保有している投資家です。
その一方、金や原油などのコモディティはインフレ下で強く、不動産や優良株も中長期的には悪くない資産と言えます。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
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