成長する米国&世界に投資する最強のFIRE計画(プロジェクト)

米商務長官が言う「何百万人もが小さなネジを締めてiPhoneを作るような仕事が米国に戻ってくる」は実現する? 米国の製造業空洞化問題は関税では解決しない

2025年4月16日公開
ポール・サイ
facebook-share
twitter-icon
このエントリーをはてなブックマークに追加
RSS最新記事

 めまぐるしく変更されるトランプ政権の関税政策。市場参加者はその動向を血眼になって追いかけ、新しい政策が発表されるたびに一喜一憂しています。

[参考記事]
衝撃的なトランプ大統領の関税政策に株価暴落! こんな時、投資家はどう対処すべきか? トランプ関税は今後どうなる? 考えられる2つのシナリオとは?
●株価暴落時の対処方法は2つ! 1つは何もしないこと。もう1つは下がった銘柄を拾うことだが、トランプの関税撤廃に賭けるのはギャンブル。長期で時間分散を

 そのような短期的な動向はともかくとして、このところ、「関税」がグローバル経済における、1つの大きなテーマになっていることは間違いありません。今回はその根本のところを今一度、考察してみたいと思います。

ラトニック商務長官「何百万人もが小さなネジを締めてiPhoneを作るような仕事がアメリカに戻ってくるだろう」

 アメリカは、関税によって、製造業を国内に呼び戻そうとしています。

 アメリカのラトニック商務長官は、「何百万人もが小さなネジを締めてiPhoneを作るような仕事がアメリカに戻ってくるだろう」と述べました。

 しかし、それは現実的なことではありません。そもそも、それは"Make America Great Again"(MAGA)の支持者たちが本当に望んでいる仕事とも思えません。

トランプ関税の問題点は、テクノロジーレベルの低い製造業とハイテク産業を区別せず、一律に扱っていること

 トランプ大統領の関税政策の問題点は、テクノロジーレベルの低い製造業とハイテク産業を区別せず、一律に扱っていることです。

 1980年代以降、アメリカをはじめとする先進国では、製造業の雇用が長期的に減少してきました。アメリカでは1979年をピークに、数百万人規模で雇用が失われ、雇用全体に占める割合も大きく低下しました。特に2000年代以降はそれが著しく、産業構造は製造業中心からサービス業中心へと移行しました。

 アメリカがサービス業中心になったのには理由があります。

 コンテンツや知的財産といった輸出可能な分野もあるものの、多くのサービスは国内で消費される性質があるためです。

 また、グローバル化により、企業は人件費の安い新興国へモノの生産を移し、自由貿易の拡大もこの流れを後押ししました。

 中国のWTO加盟以降、アメリカでは安価な製品の輸入が急増し、それによって、アメリカの製造業では数百万人規模の雇用が失われました。しかし、こうした動きによって、いわゆる「3K」(きつい・汚い・危険)の仕事が国内から減ったという側面もあり、必ずしも悪いこととは言い切れません。

技術革新と自動化も雇用減少の大きな要因。労働市場は高賃金と低賃金の仕事に二極化

自動化された工場自動化された工場 イラスト:いらすとや

 技術革新と自動化もまた、雇用減少の大きな要因です。

 工場の生産性は劇的に向上し、少ない人数で大量の生産が可能となりました。その結果、特に中程度の技能職が減り、労働市場では高賃金と低賃金の仕事に二極化が進みました。

 中間層を支えていた製造業の安定雇用が減少し、多くの人が低賃金のサービス業に流れ、所得格差が拡大。工業地帯では人口流出や失業が深刻化し、社会的な不満も高まっています。

近年は製造業の再評価が進んでいるが、製造業の雇用を再び増やす方策は?

 雇用減少の速度には国ごとに違いがあります。

 アメリカやイギリスでは製造業の比率が急激に低下した一方、ドイツや日本ではある程度の水準を維持しています。ドイツは中小企業や職人制度により国際競争力を保ち、日本は海外調達と国内生産のバランスを取る戦略で影響をやわらげました。

 近年は製造業の再評価が進んでいます。

 リショアリング(国内回帰)や経済安全保障の観点から、重要産業の国内生産が奨励されるようになりました。

 AIやロボット技術などの先端技術と製造業の融合によって、新たな雇用の創出も期待されますが、こうした分野は高度なスキルを要するため、従来の大量雇用の代替となるには限界があります。

 製造業の雇用を再び増やすには、労働者の再教育やスキルアップ、地域経済の再生、バランスの取れた産業政策が必要です。

 単なる保護主義では根本的な問題は解決できません。

[参考記事]
トランプ政権による関税政策の影響は? 関税をかければ必ず国内産業が発展するとは限らない。第二次世界大戦への道を開いたスムート・ホーリー関税法とは?

「アメリカにおける製造業の空洞化」という本質的な問題は、関税では解決できない

 アメリカにおける製造業の空洞化を元に戻すには、技術と社会構造そのものを変化させなければなりません。これはそのような本質的な課題なのです。産業革命の時代も同様に、多くの人が失業し、新しい社会に順応する必要がありました。

 安全保障上、戦車・艦船・戦闘機などを製造できる体制を整える必要がありますが、それには包括的な関税よりも、そうした特定の製造業をアメリカ国内で直接的に促進する政策のほうが効果的です。または同盟国、たとえば、日本、韓国などと協力することによって、そのキャパシティを保つことが可能です。

 関税によってこうした問題が本質的に解決されるわけでないことは、トランプ政権内のエリートも理解しているはずです。

 トランプ大統領が繰り出す現状の乱暴な関税政策は、いずれ、より焦点を絞った戦略に変わっていくことでしょう。

 AIがもたらす変化は、産業革命や中国のWTO加盟を超えるインパクトを持つ可能性があり、今後は本質的な問題解決がこれまで以上に重要になってくると考えられます。

[参考記事]
関税や地政学リスクと関係ないのが、AIやテクノロジーの進化! アメリカの政治不安で株安のときが、長期のトレンドに乗るチャンス!

 

●ポール・サイ  ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。

※メルマガ「ポール・サイの米国株&世界の株に投資しよう!」募集中! 米国株&世界の株分析毎週届き、珠玉のポートフォリオの提示も! 登録から10日以内の解約無料。


auじぶん銀行の公式サイトはこちら!
最短翌日!口座開設が早い証券会社は? おすすめ!ネット証券を徹底比較!おすすめネット証券のポイント付き
ZAiオンライン アクセスランキング
1カ月
1週間
24時間
楽天カードは年会費永年無料で、どこで使っても1%還元で超人気! 【マイルの貯まりやすさで選ぶ!高還元でマイルが貯まるおすすめクレジットカード! 新しいFXの自動売買!「世界通貨セレクト」の3つの魅力とは?ザイ編集部が動画で解説!
マネックス証券の公式サイトはこちら 楽天カードは年会費永年無料で、どこで使っても1%還元で超人気! 【マイルの貯まりやすさで選ぶ!高還元でマイルが貯まるおすすめクレジットカード! 新しいFXの自動売買!「世界通貨セレクト」の3つの魅力とは?ザイ編集部が動画で解説!
ダイヤモンド・ザイ最新号のご案内
ダイヤモンド・ザイ最新号好評発売中!

最強日本株
第1四半期絶好調株
ふるさと納税

10月号8月21日発売
定価950円(税込)
◆購入はコチラ!

楽天で「ダイヤモンド・ザイ」最新号をご購入の場合はコチラ!Amazonで購入される方はこちら!

[2025年夏の最強日本株]
◎巻頭特集
人気20銘柄の最新判断も!
初速がスゴイ!第1四半期絶好調株
●2025年後半の主役はコレ!快進撃の人気株
●配当&値上がりの両狙い!即買い高配当株
●業績好転で上昇に弾み!急騰狙いの逆襲株

◎第1特集
高利回りも大化けも!
買いの105銘柄を一挙紹介
2025年夏の最強日本株
●買い時は9~10月!日経平均は4万8000円
●強気派VS弱気派の戦い方
●安心して持てる人気株!大型優良株

1位:ソニーグループ 2位:NEC
●配当利回り4%以上がズラリ!高配当株
1位:伊藤ハム米久HD 2位:INPEX
●優待+αが狙える!株主優待株
1位:サイバーエージェント 2位:ラウンドワン
●お手ごろ価格で買え分散も!10万円未満株
1位:ソフトバンク 2位:野村不動産HD
●まだ上がっていない割安株!出遅れ株
1位:SRE HD 2位:ウエストHD
●大化け期待の中小型株!新興市場株
1位:Aiロボティクス 2位:タイミー
●リスクをとって資産増を狙え!1年で2倍株
1位:インティメート・マージャー

◎第2特集
サボったら家族がこんなに困る!
投資家のための終活大全

●「口座情報の共有」が第一歩!財産の一覧表を作ろう
●信用取引やFXは特に注意!株の相続の基本を知ろう

●子どものいない夫婦は要注意!30代でも遺言書は必要!?

◎第3特集
☆☆☆の数を見るだけでOK!
NISAで売れてる投資信託をズバ斬り!
投信格付240

●見直し!NISAで買う投資信託の選び方
●NISAで最安投信!インデックス型
●大きな利益を狙う!アクティブ型
●リスクを抑えられる!バランス型

【別冊付録】
ポイント還元終了の駆け込み直前!
ふるさと納税45品

●ポイント還元が終わる前におトクなサイトで寄附を!
●10月以降はどのサイトで寄附する?
●肉/魚介類/果物野菜/お菓子/日用品

◎連載も充実
​●NEWS:「ホームラン級の爆騰も⁉ 大谷翔平スポンサー株本命3選」 
●次の1カ月何が起きる?プロが今の株式相場のポイントを解説!
「米国の値下げ狙いで再び4万円台が定着か」
●ZAi編集部の新人・ザイゼンがチャレンジ!目指せ!お金名人
「車は買う? 借りる?」
●10倍株を探せ!IPO株研究所2025年7月編
「初値4倍超の銘柄も! ただし過熱感に注意」
●17億円トレーダー・ジュンのFX成り上がり戦略
「セル・ザ・ファクトには要注意!」
●連載・おカネの本音 レンタルなんもしない人さん
「令和の新しい生存戦略。“なんもしない”で家族と生活していく!」
●マンガ恋する株式相場「100g175万円! 恋のゴールドラッシュ」
●マンガ「デメリットの回避策も! 事実婚のお金事情」


>>「最新号蔵出し記事」はこちら!


「ダイヤモンド・ザイ」の定期購読をされる方はコチラ!


>>【お詫びと訂正】ダイヤモンド・ザイはコチラ

「キャッシュレス決済」おすすめ比較 太田忠の日本株「中・小型株」アナリスト&ファンドマネジャーとして活躍。「勝つ」ための日本株ポートフォリオの作り方を提案する株式メルマガ&サロン

ダイヤモンド不動産研究所のお役立ち情報

ザイFX!のお役立ち情報

ダイヤモンドZAiオンラインαのお役立ち情報