福島原発事故の処理費用について、経済産業省が設けた東電委員会は12月9日、当初(2014年1月)示されていた11兆円から21兆5000億円にまで膨らむ見通しであると発表しました。この金額は「中間見積もり」で、最終的にいくらかかるのか、誰がどう負担するのかは相変わらず曖昧なままです。国や東京電力の資金計画は複雑で根拠に乏しく、また状況が明らかにされる機会もほとんどないため、まもなく訳がわからなくなり、そのうちすっかり誤魔化されてしまう恐れがあります。闇に隠そうとする者がいれば、闇を明かそうとする者あり。刺激的な金融メルマガ『闇株新聞プレミアム』が解説します。
福島原発事故の処理費用は、一応は東京電力が30年ほどをかけ、15兆9000億円を負担することになっています。単純計算で年5000億円強になりますが、結局は電気料金の値上げ等で消費者にツケが回されることになるのでしょう。
当初11兆円であると見込まれた費用が21兆5000億円に膨らんだ内訳は、賠償費用が5.4兆円→7.9兆円、除染費用が2.5兆円→4兆円、中間貯蔵施設費用が1.1兆円→1.6兆円、廃炉費用が2兆円→8兆円です。以下、東電と国がどうやって返済していくつもりなのか、ずさんな青写真を見ていきます。
国が国債を交付して貸した賠償費用は
東京電力の「特別利益」なのか!?
「賠償費用」については国が原子力損害賠償・廃炉等支援機構(以下「支援機構」)に交付した国債を償還させ、その資金を東京電力に対して一時的に立て替えており、その累計はすでに6.5兆円にもなっています。
つまりは国が支援機構に国債をタダであげて(交付して)、支援機構がその償還金を受け取るというスキームです。もちろん、支援機構は償還金を国に返還しなければならず、その費用は東京電力など原発を抱える大手電力会社から徴収することになっています(なっているはずです)。
交付国債の上限は現在の9兆円から13兆5000億円まで増額されるようですが、上記費用のどこまでに利用できるのかよくわかりません。交付国債の償還金はすべて支援機構経由で東京電力に入っていますが、奇怪なことに東京電力はその入金分をすべて特別利益に計上しています。
つまり東京電力が「タダで貰った」経理処理になっているのです。したがって賠償費用も東京電力の経費とはなっておらず、これで本当に返還されるのかと心配になります。
もっとすごいのは、賠償費用の今回の増加分2.5兆円が、2020年から2059年まで40年をかけて送電線の利用料に上乗せして徴収することに「いつの間にか」決まっていることです。これも当然、消費者にツケが回されます。
「もともと原発で事故が起きた際の賠償費用は消費者が負担すべきであるが、日本で原発が運転開始してから45年間の電気料金にはその分が転嫁されていなかった。ゆえに、これからすべての(そのあとから出来た新電力会社の消費者も含めて)消費者が負担しなければならない」という理屈です。
それが報道されている「新電力にも2400億円ほどの負担を求める」の意味です。いかにも官僚と学者(東電委員会の伊藤邦雄委員長など)が考え出しそうな理屈ですが、相当の無理筋と言わざるをえません。だいたいどの電力会社がどの消費者にいくら請求しているのか、そもそも正確な金額が請求されているのかも絶対にわからないのですから。
官僚と学者が描いた夢物語の返済計画
結局、全てのツケは消費者に回される
「除染費用」については、当初の2.5兆円は東京電力と、国(支援機構)が東京電力の優先株を1兆円分引き受け、株式市場で売却した利益から返済することになっていました。今回その費用が4兆円に拡大されたわけですが、東京電力の負担が曖昧になっています。
ちなみに国(支援機構)が引き受けた1兆円分の優先株は2012年5月に発行されたもので、30~300円で普通株に転換できることになっています。現在の株価水準では300円となり33億3333万株が発行されますが、東京電力の発行済み株数は16億株なのでざっと2倍強の株が新たに発行されるわけです。
絶対にありえない話ですが、12月9日時点の株価(521円)でこの33億3333万株がすべて売却できたとしても、7366億円にしかなりません。4兆円すべてを株式の売却益から捻り出そうとすれば、売却価格は1株1500円でなければなりません。
官僚と学者が計算すると、こういう夢物語になるようです。投資家は東京電力の株価が1500円に近づいたら国の売却を警戒する必要がありますが、絶対に近づかないので忘れていても大丈夫です。
残る「廃炉費用」「中間貯蔵施設の建設費用」などは具体的に説明されていませんが、東京電力の合理化と値下げ抑制により4兆円を捻出するようです。合理化によるコスト引き下げ分は電気料金の値下げで消費者に還元することになっていますが、その値下げを抑制することにより(期間は不明ですが)4兆円を捻出するつもりのようです。
結局はこれも消費者に対するツケ回し。見方を変えれば、東京電力は(期間は未定ながら)4兆円以上の合理化効果が出るほど「甘い経営」をしていることにもなります。
決算短信に見る東京電力の「返済」
今後も確実にアテにできるものなし
ちなみに東京電力の2016年4~9月期の決算短信では、売上に相当する経常収益が前年同期比15.4%減の2兆6771億円、経常費用が同14.1%減の2兆4029億円、経常利益が同24.9%減の2742億円となっています。そこから国に立て替えてもらっていた賠償費用を1685億円返済したようで、最終純利益が66.3%減の941億円となっています。
ただ、経常費用の中の燃料費は、円高・原油安が進んだ2016年4~9月期は4962億円で、前年同期の8519億円から大幅な減額となっていました。足元では円安・原油高となっており、もちろんその増加分は電力料金に転嫁するものの、2016年4~9月ほど良い経営環境が続くわけではありません。
つまり、営業利益から返済する賠償費用も、廃炉費用とする合理化効果も、除染費用にする株価上昇も、すべてアテにできるほど確実なものではないことがわかります。
2016年9月30日現在、東京電力には純資産が2.2兆円ほどありますが、先ほど書いたように国(支援機構)が立て替えている6.5兆円が負債から除外されているため、この段階ですでに大幅な債務超過となります。
このまま詳しい情報が提供されないと、次に問題が出てきたときはもっと悲惨な状況になっているばかりか、我々は知らないうちにいろいろ誤魔化されることになります。今のうちに、もっと根本的に考えておく必要があるのではないでしょうか。
海外の息がかかった正体不明の組織が
東電解体と利権持ち去りを進めている!?
まず思いつくのが「原発再開」です。日本にある原発は「福島」や「もんじゅ」など廃炉もしくは廃炉にせざるを得ないものを差し引くと42基で、これは米国の99基、フランスの48基に次ぐ世界第3位です。
さらに世界の原発市場は、GEと日立、東芝とウェスティングハウス(子会社です)、アレバと三菱重工と、3大グループにすべて日本企業が入っています。つまり日本は、否応なく「原発大国」であるわけです。
原発は新たに建設するとべらぼうな費用が掛かりますが、すでに出来上がっているものを放置しておくのは国家的損失です。要は「消費者から誤魔化しながら回収していく」のではなく「堂々と国民に提案して20兆円を取り戻す原発政策」を考えればいいのです。
東京電力では柏崎刈羽原発(1~7号機)のように、地方自治の反対で稼働できない原発が多いようですが、「東京電力だから信用できない」といったニュアンスもあるのではないでしょうか。であるならば、他の大手電力会社を含む日本の民間企業の活力・技術・知恵を集結させて「一大産業」に仕上げればいいのです(原発だけを国家管理にするといった安直で利権の絡む方法にすべきでない)。
実は東京電力には東日本大震災直後に「原子力改革監視委員会」という正体不明の組織が立ち上げられています。委員長は米国人、副委員長は英国人、委員は国籍だけ日本の大前研一氏(あと2名の委員が加わっているようです)という海外主導の委員会で、東京電力の「解体」を進めているわけです。
まずこの委員会の活動内容を明らかにすべきと考えます。一応HPはありますが、具体的なことは何も書かれていません。最終的に20兆円は国民が何かしらの形で負担することになるのですから、そこで「大きな利権」が海外に抜き出されてしまうようなことは絶対にあってはなりません。
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