国内3位の広告会社であるアサツーディ・ケイ(9747)が、ベインキャピタルによるTOBに応じ非上場になると発表しました。ベインキャピタルと言えば東芝の半導体事業売却でも「日米韓連合」の主軸として名の上がったファンドです。非上場となる理由は「目先の決算や株価に影響されない大胆な経営で企業価値を増大させるため」という、この手の案件には「ありがち」なものですが…。刺激的な金融メルマガ『闇株新聞プレミアム』が解説します。
提携先の英WPPに喧嘩を売るやり方は
まるで東芝vsWDの再現を見るよう
ベインキャピタルが2日発表したTOB価格は、アサツーディ・ケイ(以下、アサツーDK)の直近終値3170円に約15%のプレミアムを乗せた3660円、TOB成立の最低買入れ株数は議決権の50.1%、上限は定めておらず最大買収金額は1517億円となります。
アサツーDKは1998年に世界最大の広告会社である英国のWPPグループ(以下、WPP)と資本提携し、現在でもWWPはアサツーDKの25%を保有する筆頭株主です。アサツーDKも同時期にWPPの2.4%を取得していますが、当初は共に300億円で相手会社の株式を取得していました。
為替変動もありますが、現時点でアサツーDKが保有するWPP株式の時価総額は640億円、WPPが保有するアサツーDK株式の時価総額は378億円しかありません。
アサツーDKは2014年頃からWPPに提携解消を申し入れていたようですが、今回の件はWPPが承諾していない見切り発車のようです。契約書には一方が通知すれば12カ月後に提携を解消できると書かれているそうですが、最初から喧嘩を売るような発表は「まるで東芝とWD」のようです。
こういったTOBのスキームは共通しています。まずベインキャピタルはTOBのための「特別目的会社(SPC)」を作り、そこに資金の3割(450億円)ほどを出資して、残り(1000億円超)は銀行からの借り入れでTOBを行います。
買収が完了してアサツーDKを非上場にしたら、ベインキャピタルはSPCとアサツーDKを合併させます。つまり銀行から借りた1000億円超は、その後アサツーDKがせっせと返済しなければならないのです。TOBの3割だけ自腹を切って全株式を握ったベインキャピタルは、アサツーDKを再上場させるときにその株を売りガッツリ儲けるという仕組みです。
再上場で儲けるしか頭にないハゲタカに
自ら買収される道を選んだ愚かな経営陣
ハゲタカファンド(正確にはLBOファンド)は買収で「企業価値の増大させる」などはなから考えていません。彼らの頭には「再上場による売却益の確保」しかないのです。
報道によると売り上げが10倍あるWPPとの間に経営スタイルや価値観の違いが出ていたそうですが、かといって負債を最大1000億円も押し付けられてべインキャピタルの傘下となる道が真っ当な判断と言えるのかどうか。
この選択をしたアサツーDKのサラリーマン経営陣は、業績が上がらなければ(再上場が遅れると)即刻自分たちがクビになることを知らないようです。このあたりも「まるで東芝」です。
さらに考えると「TOB価格が安すぎる」でしょう。6月30日現在のアサツーDKの純資産は1080億円ですが、882億円ある投資有価証券にはこのWPP株式だけでなくかなりの含み益があるはずで、TOBの最大金額(全株取得金額)1517億円は「実質純資産だけ」となります。アサツーDKの収益力(今年度の純利益予想が55億円)やのれん代や各種無形資産は「ゼロ評価」なのです。
TOBが発表されて以降の株価はTOB価格の3660円を上回って推移しており、市場もTOB価格が安すぎる(対立するTOBが発表され価格が引き上げられる可能性がある)と感じているようです。
ベインキャピタルは東芝の半導体事業売却でも主導権を取りました。投資家の皆さんはハゲタカファンドが日本企業を食い散らかすヤリクチをよく見ておくといいでしょう。
報道によると最大株主のWPPは「われわれは売るつもりがない」とTOBに応じない方針を表明しているとのこと。これからまだ一悶着も二悶着もありそうで、ことの成り行きが注目されます。刺激的な金融メルマガ『闇株新聞プレミアム』は、政治・経済・金融・文化・社会構造などあらゆる事象を独自の視点で分析しているメルマガです。本連載は毎週配信されている中からほんの一部を抜粋してお届けしています。興味のある方はこちらより登録して、他のメディアでは読めない「本物の情報」に触れてみてください。
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