「iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)」を活用するにあたって、気になる問題のひとつが「金融機関(運営管理機関)の変更」です。「iDeCo」口座の金融機関変更にはさまざまなデメリットがあるため、基本としてはあまりおすすめしませんが、変更を検討したほうがいい場合もあります。
今回は、「iDeCo」で金融機関を変更する場合のデメリットと、デメリットを被ってもあえて金融機関を変更すべきケース、さらに具体的な変更の手続きについて解説します。
「iDeCo」の金融機関変更にはデメリットがたくさんある!
4000円以上の変更手数料がかかることもあるので要注意
「iDeCo」に関するガイド本の多くで、「口座を作る金融機関(運営管理機関) はしっかり選ぼう」というような記述があります。それというのも、「iDeCo」で金融機関を変更する場合、いろいろとデメリットがあるからです。
普通の株式投資なら、売買手数料がより安くなったなどの理由で証券会社を乗り換えるのはよくあることですし、実際、乗り換えはそれほど難しいことではありません。持ち株をそのまま(手続きは必要ですが)違う証券会社に移すこともできます。
ところが、「NISA」「つみたてNISA」と「iDeCo」では、金融機関を変更するのはちょっとやっかいです。まず「NISA」「つみたてNISA」については、一年ごとに1つの非課税枠を設定する考え方なので(これは税法上の処理のためでもある)、同一年度内での金融機関変更は行えません 。また、翌年に変更する場合も、口座開設手続きが改めて必要になります。
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⇒「つみたてNISA」で投資デビューした人が抱きがちな疑問に回答!「運用商品や金融機関を変更したい!」「積立投資を中止したい!」などの悩みを一挙解決!
「iDeCo」については、「同一年内は不可」という縛りはないものの、他の金融機関へ口座変更する場合、やはり手続きが必要になります。さらに多くの場合、変更の手数料がかかります。この手数料には「現在iDeCo口座がある金融機関が、他社へ資産(iDeCo口座)を移すにあたって徴収する手数料」と、「新しくiDeCo口座を作る金融機関が、他社から資産(iDeCo口座)を受け入れるにあたって徴収する手数料」があって、金融機関により取り扱いと価格設定が異なります。
他社へ資産(iDeCo口座)を移す場合については、手数料がかかる金融機関では、おおむね4320円です(手数料が発生しない金融機関もある) 。ホームページに明示していないところもありますから、コールセンター等で確認しておくといいでしょう。
他社から自社への資産(iDeCo口座)受け入れについても記載の有無がバラバラです。大手の金融機関の多くはこの場合の手数料(「運営管理機関変更時手数料」などと表記される)を無料と明記していますが 、「詳しくはコールセンターにお問い合わせを」というところも少なくありません。
「iDeCo」の金融機関を変更する場合は、運用商品をいったん
現金化しなければならず、しばらく売買もできなくなる
「iDeCo」で金融機関(運営管理機関)を変更する場合の注意点はそれだけではありません。積み立てた資産は移換されますが、投資信託などの運用商品をそのまま持ち運ぶことはできず、一度売却して現金化しなければなりません。そのうえで、新しく「iDeCo」口座を作った金融機関の運用商品を選択し直すことになります。もし新しい金融機関に、それまで運用していたものと同一の投資信託があるとしても、「売却」→「再買い付け」の手続きを踏む必要があるのです。
ただ、これについては、今までの金融機関になかった魅力的な運用商品を購入したい、あるいは今の運用商品を手放したいなどの理由で、売却して買い直すことには異存がない、という人もいるかもしれません。
また、数カ月(少なくとも1~2カ月) の事務処理期間が生じるため、しばらくの間は運用商品の売買ができなくなります。問題は、前の金融機関で売却した時点と、新しい金融機関で買い付けする時点とで、どうしても株価の騰落がありうるということです。これが数週間ならともかく、数カ月となるとやっかいな条件が増えることになります。
さらにもうひとつ面倒なのは、運用利回りの情報がリセットされることです。「iDeCo」では一般的に、金融機関(運営管理機関)が加入者の、毎月の積立履歴を踏まえた年率換算の運用利回りを示してくれます。これは個人が計算するには難しい数値ですが、長い目でみて積立投資を行う場合、どうしても欲しい情報です。
ところが、通算運用利回りの引き継ぎは法律上では義務づけられていないため、運営管理機関を変更すると「自社に引き継がれて以降の期間の運用利回り」という表示になってしまうというわけです。
それでもあえて金融機関を変更したほうがいいのはこんなケース!
“やる気”のない金融機関はどこかで見切りをつけるべき!
最初にいきなり、「iDeCo」では金融機関の変更をおすすめできない理由ばかり並べてしまいましたが、それでもあえて変更したほうが“マシ”というケースも考えられます。たとえば以下のような場合です。
●変更を検討すべきケース1:口座管理手数料が無料ではない
一番悩ましいのは、早い時期から「個人型確定拠出年金」(かつては「iDeCo」という名前すらありませんでした!)をスタートしていて、「金融機関の口座管理手数料無料」の対象になっていない人たちです。
現在「iDeCo」では、金融機関の口座管理手数料(事務手数料、運営管理手数料) は無料とするビジネスモデルが主流になっています。この場合、毎月かかる手数料は、国民年金基金連合会や信託銀行が必ず徴収する月167円のみとなります。
ところが古い「iDeCo」プランでは、これに金融機関の口座管理手数料を月300~400円くらい上乗せしている場合がまだあります。こうしたケースは、金融機関変更を検討してもいいと思います。
ただし、資産残高がそれなりに積み上がっている場合、投資信託のラインナップが魅力的なら、今の金融機関を継続する選択肢もあります。このとき、重要なのは投資信託の運用コスト(信託報酬等)です。
たとえば300万円くらい資産が積み上がってきた場合、信託報酬が0.5%高いだけで年1万5000円のコスト増となります(全額を投資信託に回した場合)。これなら口座管理手数料のコストが数百円高いとしても、信託報酬の低い投信がラインナップされたプランのほうがお得ということになってしまいます。
もちろん、口座管理手数料無料で、かつ投資信託の信託報酬も低廉なプランもありますから、両方低めの金融機関がベストです(皮肉なことに、口座管理手数料が高いところは信託報酬も高く、金融機関を変更したほうがいい場合が多いのが実情です)。
金融機関の口座管理手数料と投資信託の信託報酬、2つの手数料のバランスで考えてみてください。
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●変更を検討すべきケース2:運用商品のラインナップに問題がある
先述のように、「iDeCo」で金融機関を変更すると、運用成績の情報がいったんリセットされてしまいます。投資履歴を継続するためにも、できれば今の金融機関のままで運用していきたいという人もいると思います。しかし運用商品のラインナップが魅力的なものではなく、その面での条件の変化がない場合、どこかで見切りをつけることも検討するべきです。
チェックポイント①:運用商品の追加が行われているか?
まず、「iDeCo」の運用商品の追加が過去行われていない場合、その金融機関では今後も積極的な追加を行う意欲が低いと思われます。
運用商品の追加は難しいことではなく、多くの金融機関が競争を繰り広げるなかで商品追加をしてきました。特に行われているのは、信託報酬の低い商品の追加です。「追加をずっとやっていない」というところは、こうした取り組みが遅れていることを意味します。
10年以上前から「iDeCo」のプランを運営している金融機関が商品を一度も追加していない場合、要注意でしょう。
ちなみに、「iDeCo」の制度では、運用商品の追加は簡単でも、入れ替え・除外が難しいという面がありました。2018年5月から法律の改正で運用商品の入れ替え、特に除外が実施しやすくなっていますが、実際に取り組むのはこれからのところが多いようです。ただ、2020年以降も追加や除外の動きがない金融機関は、改善の期待薄と判断して、変更を考えてもいいでしょう。
チェックポイント②:運用商品の手数料(信託報酬)は十分低いか?
金融機関の“やる気”をチェックする方法として、運用商品の手数料(信託報酬)水準をみる方法もあります。
簡単にいえば、「つみたてNISA」で商品採用の条件とされる以下の水準をクリアしていない商品ラインナップしか持たない「iDeCo」プランであれば、その金融機関は問題があります。
・国内株式のインデックス型ファンド
⇒信託報酬率0.5%(税込0.54%)以下
・海外株式のインデックス型ファンド
⇒信託報酬率0.75%(税込0.81%)以下
・海外株式を含むバランス型のインデックス型ファンド
⇒信託報酬率0.75%(税込0.81%)以下
これも古いプランほど、そうした傾向が顕著です。例えば国内株のインデックス型ファンドにおいては0.16~0.17 %(税込)の信託報酬率で最安競争が行われていますが、1%の信託報酬を取るファンドもいまだあります。
近年ではバランス型ファンドの信託報酬引き下げ合戦も過熱しています。こちらも年1%以上の信託報酬を払うようなら、もはや超割高です。
このような商品を提供する金融機関は、正直、加入者本位とはいえません。今後の改善も期待薄ですから、乗り換えたほうがいいでしょう。
手続きは変更先の「新しい金融機関」から書類を取り寄せて提出!
内容は簡単だが不備があるとタイムロスが増えるので注意
最後に、「iDeCo」の金融機関(運営管理機関)を変更する場合の具体的な手続きについてまとめておきます。
まず、金融機関の変更の手続きは、変更先となる「新しい運営管理機関」のほうで行います。
具体的には、新しく「iDeCo」口座を作る金融機関のWEBサイトないしコールセンターで、「加入者等運営管理機関変更届」という書類を取り寄せて、必要事項を記入し、取り寄せた金融機関に提出します(正確には運営管理機関を経由して国民年金基金連合会に提出)。
この書類自体はシンプルですが、不備があると1カ月タイムロスが増えるリスクがありますから、しっかり記入したいものです。
*記入例はこちら(国民年金基金連合会のiDeCo公式サイト)
併せて、新しい金融機関における毎月の掛金と引き継ぐ資産の、資産配分を設定します。細かな引き継ぎルールは各金融機関によって異なりますが、気になる人は「とりあえず元本確保型商品で全額引き継ぎ、任意のタイミングで投資信託に戻す」としたほうがいいでしょう。
後日、新しい運営管理機関(正確にはレコードキーピング会社)から「移換完了通知書」と新しいID、パスワードが交付されます。変更手続き時に運用商品の配分指定を行っていない場合は、ログインして忘れずに商品を指定しておきましょう(何も指定しないままだと、現金でプールされるか、金融機関が定めた商品に自動的に配分されます)。
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⇒「iDeCo」で運用指図をしないと掛金はどうなる!? 銀行の窓口販売解禁、指定運用方法の預金→投信へのシフトなど、iDeCo加入時に注意すべき変更点とは?
なお、それまでの金融機関(運営管理機関)の加入者用サイトは、変更手続きが終了後アクセスできなくなります。そちらで運用していた商品は、新しい金融機関に資産が移換される際に強制的にすべて売却されてしまうので、事前に自分で「全額を定期預金等の元本確保型商品にスイッチングしておく」という対策を取るといいでしょう。
資産を売却したり引き継いで買い付けし直したりするときのマーケットの状況が気がかりな人もいるかもしれませんが、「iDeCo」の運用を今後も長期にわたって続けるのであれば、タイミングをあまり気にする必要はないと思います。
以上、「iDeCoの金融機関を変更したほうがいいケース」と具体的な変更方法についてまとめました。長い目でみて、変更に伴うデメリットをメリットが上回ると思えるなら、ぜひ実践してみてください。
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1995年株式会社企業年金研究所入社後、FP総研を経て独立。ファイナンシャル・プランナー(2級FP技能士、AFP)、1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)、消費生活アドバイザー。若いうちから老後に備える重要性を訴え、投資教育、金銭教育、企業年金知識、公的年金知識の啓発について執筆・講演を中心に活動を行っている。新刊『読んだら必ず「もっと早く教えてくれよ」と叫ぶお金の増やし方』(日経BP社)が好評発売中。
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