【今回のまとめ】
1.米国経済の好調がドル高バイアスの原因
2.米国の雇用統計はよかった
3.歳出強制削減でFRBは現状維持を選好
4.長期で見れば、最初に引締めに転じるのは米国
なぜドル高のバイアスがかかっているか
これまでのところ、「アベノミクス」は具体的な金融政策が矢継ぎ早に打ち出されるというよりも、もっぱら“口先介入”的なトークが先行しています。それにもかかわらず、円安のトレンドが上手く演出できているのは、なぜでしょう?
私はその一因として、比較感で見た場合、米国の経済がしっかりしていることが、大きく影響していると考えています。
先週金曜日(3月8日)に発表された2月の非農業部門雇用者数は、+23.6万人と市場予想の+17.1万人を大きく上回る数字でした。

2012年の12月の数字は+2.3万人、1月の数字は-3.8万人修正されています。

2月の失業率は7.7%と、予想の7.8%よりよい数字でした。

ただし労働力参加率は63.5%と前月より0.1%下落しており、1981年以来の過去最低でした。もしこの数値がリーマンショック前の66%程度だったと仮定するならば、現在の失業率は10.7%であることになります。
言い換えれば失業率の改善は、長引く不況で求職を諦めてしまった人(=失業者には算入されません)に助けられた、下駄を履いた数字だということです。
そういう割り引いて考えなければいけない点があるものの、全体としては今回の雇用統計は、米国経済の底堅さを確認するものだったと言えます。
歳出強制削減の影響をどう見るか
3月1日から始まった米国の歳出強制削減によって、米国議会予算局(CBO)は約75万人の失業者が生まれると試算しています。2012年の11月から2013年の2月にかけての非農業部門雇用者数は平均して20.5万人だったわけですから、新たに約3.66カ月分の雇用が失われるリスクがあるということです。
今回、雇用統計がよかったにもかかわらず、米国連邦準備制度理事会(FRB)が追加的量的緩和政策を堅持し、引締めには転じないと大部分の市場参加者が考えている理由は、ここにあります。
つまり株式市場的には、歳出強制削減の材料は「FRBがゆるゆるの金融政策を維持することをダメ押しするという意味で、プラス材料」と解釈されているのです。
なおFRBは、追加的量的緩和政策をいつ見直すか? という問題に関しては、明示的なガイドラインを示しており、それは:
1.失業率が6.5%以下になったとき
2.インフレ率が2.5%を上回った時
のどちらかが起きたら、再考するというものです。

現在の消費者物価指数は+1.6%であり、FRBが危険水域と考える+2.5%よりはるかに低い値です。このことからも当分の間、金融政策に変更はないと考えられます。
ドル高バイアスの背景とは
ただ現在の先進各国のGDP成長率を比較すると、米国が一番高くなっています。

2013年の米国のGDP成長率の予想は+1.9%です。今回の米国の歳出強制削減でCBOはGDP成長率にとって0.5%のマイナス効果があると見ています。それを加味した上でも、米国の成長は他の国々を圧倒しているわけです。
これは「当分の間、FRBの政策に変更は無いけれど、次に一番最初に引締めに転じる国は、米国だぞ」という認識を市場参加者に植え付けており、それが自然なドル高バイアスを生んでいるわけです。
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