他にも、多くの日本人IT起業家がシンガポールに続々と移住していますが、この理由としては税制や規制環境以外に、ベンチャー企業への投資という観点からもシンガポールの重要性が高まっていることがあげられます。シンガポールはASEANのヒト・モノ・カネに加え情報が集積する場所ですから、シンガポールに移住することでリアルタイムにASEAN全域の有望ベンチャーの情報を集めることができます。
IT起業家の多くは、自分自身の会社を大企業にエグジットし一定の資産を築くと、ベンチャー企業に初期資金を提供する、いわゆるエンジェル投資家として活動します。ASEANのIT業界は未成熟ですから、IT業界の発展に精通した人であれば、有望なベンチャー企業を見極めやすく、ASEAN各国のベンチャー企業への投資機会にアプローチしやすいシンガポールの魅力が高まっているのです。
シンガポール政府の官僚たちによる必死の勧誘も
シンガポール政府の積極的なアプローチも、IT起業家の移住に一役買っています。
シンガポールは、リー・クアンユー/リー・シェンロン親子を頂点とする一つの企業のような国家で、官僚であっても大きな成果を残せば年収数億円の高給が得られます。そして、シンガポールにベンチャー企業を誘致する担当官僚の給与は、自分が誘致してきたベンチャー企業がシンガポールにおいてどれだけ企業価値を高めたのか、雇用を生んだのかというパフォーマンスと、ある程度連動するように設計されています。
法人税を大幅に下げたり、シンガポール人スタッフの給与を補助したりといった優遇策も、各担当者の裁量で機動的に行われます。
もちろん、いろいろな優遇をしたにもかかわらず、誘致したベンチャー企業が成長せず、シンガポールへの貢献が少なかった責任も、各担当者は問われます。この苛烈な信賞必罰により駆り立てられたシンガポールの官僚たちが、世界中のベンチャー企業から有望企業を必死で探しだし、本拠地をシンガポールに移させることにつながっているのです。
シンガポールに移住する富裕層はベンチャー起業家だけでなく、大企業の経営層にも広がっています。株式会社HOYAの鈴木洋CEOがシンガポールに移住したことは、昨年日本でも広く報道されました。
このような日本人富裕層・起業家のシンガポール移住は、日本のメディアなどでは批判的に報道されることが多いですが、こうしたトレンドが生まれる背景を理解した上で、対策を打たなければ流れは変わりません。批判するばかりでなく、シンガポールなど海外で活躍する富裕層・起業家の活動を、どうすれば日本にも還流できるのかという骨太な議論が起きることが期待されます。
次回(記事はこちら→日本人のお金持ちYさんがシンガポール移住を決意した3つの理由)は、知り合いの日本人超富裕層のシンガポールでの暮らしぶりについて詳しく紹介します。
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