「株価チャート分析は難しい」とか、「株価チャートなんて役立たない」などと思っている人は結構多いようです。しかし、株価チャート分析は基本的な考え方といくつかのコツをきちんと押さえればそんなに難しいものではありませんし、実際に投資をする上で実に多くの役立つヒントを与えてくれます。じゃあ、株価チャート分析の基本的な考え方や使い方のコツってなんなのか。その話を今回から3回にわけてしていこうと思います。
まずはトレンドを意識すること
下の株価チャートを見てください。ホテル予約サイトを運営する一休(2450)の月足チャートです。月足チャートは1本のローソク足で1カ月の動きを示すかなり大雑把な株価チャートですが、株価の大きな流れをつかみやすいです。
この一休の株価チャートを見て、第一印象はどうでしょうか?
「下降、横ばい、上昇のトレンドがわかりやすい」という印象ではないでしょうか。細かく上下動しながらも、大きな方向性としては比較的くっきりと下落、横ばい、上昇というトレンドが局面ごとに見て取れます。
もちろん、すべての株がこの一休のように見やすい株価トレンドを描きながら動いているわけではありません。
「説明用に特にわかりやすい事例を選んで掲載しているんだろう」と思われる方もいるでしょうし、それはその通りです。
しかし、チャートの形が見やすい綺麗な形になるか、すこし複雑で見づらい形になるか、という程度の違いはあるものの、ほとんどの株は何らかのトレンドを描いて動くことが多いのです。
日々の株価の動きを見ると、株価はランダムに上下動しているようにも思えます。また、「株価は何か新しい情報が出るとすぐに株価に織り込んでしまうし、いつどのような情報が出るかは予想がつかないので、株価がトレンドをなすというのは錯覚で、株価チャートで株価の方向性が予想できるというのも間違いだ」という主張をする人もいます。
しかし、この一休のチャートを見ると、「新しい情報がすぐに株価に織り込まれている」とは言い難いような感じがします。株価は時間をかけて悪い情報を織り込んで下落したり、時間をかけて良い情報を織り込みながら上昇したりしている・・・というように見えます。
また、世の中のいろいろな動きを見渡しても、物事はトレンドやサイクルをなして動いていることが多いのではないでしょうか。
仕事や勉強やスポーツでも、低迷期、横ばい期、好調期などがあり、それらが繰り返されてサイクルをなしている面があります。
たとえば、仕事で行き詰まった時には打開策をいろいろ模索したり様々な努力をしたりします。そうした時期はとても苦しくて先が見えない感じがしますが、そうした努力はやがて実って徐々に調子が良くなり好調期に入ります。しかし、好調期はいつまでも続くことなく、やがて何かの壁に打ち合って行き詰まり低迷期に入ります。こうしたサイクルを繰り返すのが普通でしょう。
企業業績や景気などもそのようなトレンド・サイクルを描くことが多いですし、それを反映して株価もトレンド・サイクルを描くことが多くなる、ということです。
トレンドの背景を考えよう
株価が上昇トレンドや下降トレンドの動きを続けているのだとすれば、その背景には何かファンダメンタルズ的な理由があることが多いです。
株価は直接的には需給(つまり、投資家の売買行動)によって動きます。買いたい人がたくさんいれば株価は上がるし、売りたい人がたくさんいれば株価は下がる、というわけです。だから、「株は需給だ」と主張する人もいます。
それはそれで間違いありません。しかし、そもそも投資家はどうして株を買いたくなったり売りたくなったりするのでしょうか。その最大の要因は事業や業績の調子が良かったり、悪かったり、というファンダメンタルズ的な要因(企業や経済の実態面の要因)によります。
下の図2を見てください。図1の一休の株価チャートのAの部分を週足チャートにして拡大したものです。1年ほど3万円台で横ばいの動きを続けていたのですが、力強く上昇して4万円台に突入しています。
出来高が急増している点にも注目しましょう。買い注文がドッと押し寄せはじめて、株価が上昇し始めた様子がうかがえます。
結局この動きがサインとなり上昇トレンドが開始して、約半年間でなんと18万円台まで行くことになります。
株価チャートには、実践上売買サインとして有効性が高いといわれるいくつかのパターンが知られており、「もみ合いからの上放れ」というのはその一つです。
もみ合いというのは、狭い範囲で上下動する動きであり、上放れというのは従来の値動きの範囲から上に飛び出すような動きです。これは上昇トレンドスタートのサイン(買いサイン)として知られています。この図2はまさにその典型的なパターンであり、実際にそのあと4倍程度の大幅な上昇となったわけです。
では、なぜこの時に一休の株価がこのような動きになったのでしょうか?
それは12年10月29日付けで通期業績の予想を上方修正したからです(図3)。
拡大画像表示
それまで一休は業績の低迷に苦しんできましたが、優良なホテルの部屋の確保、リピータ客の囲い込み、休眠客の呼び起こし、高級ホテル予約サイトとしてのブランドイメージの確率などの経営努力をコツコツ続けてきたことが実り、この時点になってそれが業績として現れてきたわけです。そこで修正された業績は過去最高益になり、株価の調整が進んだおかげでPERが10倍台前半と割安感も出てきました。
このニュースをサプライズと捉えた投資家が多く、彼らの投資行動が変化して、その資金がドッと押し寄せ始めた様子が伺えるチャートの動きになっています。
ここで大事なのは、チャートの動きを見ただけでも、「一休に何か大きな変化があったのではないか」と感じられるところです。それまで1年近くも3万円台で力なく上下動していたのが、突然力強く4万円台に上昇しているのですから、その背景に何か変化があったのではないかと考えるのが普通だと思います。そして、すこし調べて見れば、実際に上記のような業績の変化があったことがわかったはずですし、絶好の投資チャンスを捉えられたはずです。
このように、ファンダメンタルズと合わせて使うと、チャート分析は大きな威力を発揮しやすくなります。
隠れた真実を株価チャートから気づくこともできる
それから、株価は誰もが確認できる公表されたデータや事実に基づいて動くだけではなくて、ハッキリとは公表されていない事実に気づいた人たちの売買によって動くこともあります。
たとえば、下の株価チャートを見てください。これは、あるマンションメーカーの株価チャートです。
同社はBの地点で業績が大幅な増収・増益、そして業績予想の上方修正を続け、PERも1桁と低かったのですが、株価の下落が止まらない状態になっていました。上昇トレンドが崩れてしまい、株価は直近の高値の3分の1以下になっていました。
表面的な業績やPERだけを見ると、「なんでこんな好業績株がこんなに下がるのかわからない」ということになりますし、「こんなにPERが低くなったら買いチャンスだろう」と考える人も多かったようです。
しかし、株価はそのあとも下がり続け、この4カ月後に株価がさらに半値になったところで業績の下方修正や、減益予想などの悪い数字が出てきて、株価がさらに下がっていきました。最終的にはB地点から約1年後に株価は100分の1になってしまいました。
改めてB地点の状況を振り返ってみると、ファンダメンタルズは表面的には絶好調で割安感も強かったのですが、株価はその裏にある悪い動きを織り込んで動いていたことになります。
こういう時に大事なことは、「なんで株価はこんなに下がり続けるんだろう」と考えてよく調べてみることです。そうすれば、このケースでも、「この会社は借金を大きく膨らませながら不動産の在庫を大量に抱え込んだ状態で、急激にマンションの売上が減速して、資金繰りが苦しくなっている」という状況がわかったはずです。
このように、株価というのは裏側に隠れているファンダメンタルズ的な状況までも映し出しなから動いていることが多く、投資家には重要なヒントを与えてくれることが多いのです。
特に個人投資家としては、ファンダメンタルズ面の情報収集や分析が完璧にできるわけではありません。その完璧ではない分を補うためのツールとしてもチャート分析を使う意義は大きいと思われます。
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