【今回のまとめ】
1.非農業部門雇用者数は+12.6万人にとどまった
2.寒波、石油関係者のレイオフ、ドル高、港湾ストなどが原因
3.平均時給は上がった
4.フェデラルファンズ・レートの利上げは9月の線が濃厚に
非農業部門雇用者数
先週金曜日に雇用統計が発表されました。非農業部門雇用者数は予想+24.5万人に対してわずか+12.6万人にとどまりました。

このショッキングな数字を、どう受け止めれば良いのでしょうか?
まず非農業部門雇用者数の数字はブレやすいので、あまり今回の数字を深読みし過ぎないことが肝心だと思います。
それを断った上で、今回の数字は確かに悪かったと思います。米国北東部ならびに中西部を襲った寒波のせいだとするエコノミストも居ますが、調査の中で「悪天候で仕事に行けなかった」と述べた回答者は普段と変わりませんでした。つまり全ての悪天候のせいにすることはできないのです。
原油価格の低迷でシェールオイルの油井がどんどん休止しており、石油関係の労働者がレイオフされています。これが原因だと考えるエコノミストもいます。

彼らは「高給取り」なので、ノースダコタ州やテキサス州などのシェールオイルの産地での地域経済に与える影響が懸念されています。さらに油井で使用される鋼管や各種レンタル機器の動きも鈍くなっています。
また最近のドル高で、輸出企業は設備投資に慎重になっています。
加えてカリフォルニアの港湾労働者が長期ストを行った関係で、コンテナの積み下ろし作業が滞りました。これは輸入、輸出両方に打撃を与えました。
これらの要因全てが今回の悪い非農業部門雇用者数の背景にあるのだと思います。
平均時給には明るい兆し
ただ、今回の雇用統計がすべてダメだったわけではありません。平均時給は前月比+7¢上昇しました。下のグラフの、2015年(黄色)3月に注目して下さい。これはパーセンテージに直すと+0.3%です。また前年比では+2.1%です。

つまり平均時給は強かったわけです。
先日、マクドナルド(ティッカーシンボル:MCD)が米国の直営店舗の従業員の時給を+10%引き上げると発表しました。さらにウォルマート(ティッカーシンボル:WMT)が先日発表した+24%の賃上げが実施されるのは4月からです。つまりこれらの賃上げが、今後確実に統計に反映されてくるわけです。
賃金は米国連邦準備制度理事会(FRB)が注目しているデータポイントのひとつです。なぜなら賃金インフレは一度上昇モメンタムがつくとなかなか冷やすことが出来ないからです。
フェデラルファンズ・レートの引き上げは9月が濃厚
先の連邦公開市場委員会で声明文の中から「辛抱強く」超低金利を維持するという表現が消えました。
これはFRB独特の言い回しで、「辛抱強く」というあいまいな表現には、実は正確な意味が込められています。それは「辛抱強く」という表現が消えたら、その後2か月たてば、どこで利上げをしても良いと言う意味なのです。言い換えれば5月以降なら、いつ利上げしてもおかしくないということです。
しかし今回の非農業部門雇用者数の数字が悪かったので、利上げは早くても9月という線が濃厚になったと思います。

FOMCメンバーは、今年の米国の消費者物価指数を0.7%と予想しており、インフレは、ほとんどないに等しい状態です。さらに原油価格も、まだ下がるかもしれません。
それなのになぜ今、利上げをする必要があるのでしょうか?
これは利上げというのは必要になってから、つまりインフレが荒れ狂い始めてから慌ててしても手遅れになるからです。
別の言いかたをすれば、上げられる時に、金利を引き上げ始めるという心構えが大事なのです。
ノーマルな政策金利の水準をテニスにたとえて説明すれば
それを説明するためにテニスの試合を想像してください。いま、実質ゼロ金利という状態は極端なポジションです。
テニスコートでいえば、端っこの方に追い詰められた状態です。すると自分の居る位置と逆の方向にボールを打ち込まれたら、負けます。
だからプレーヤーとしては、早くコートの真ん中に戻らないといけないのです。
FRBが考える中心的なフェデラルファンズ・レートは3.5%です。いまは0~0.25%なので、今すぐ利上げを開始し、FOMCがあるたびごとに0.25%利上げしたとしても、1年に8回しかFOMCは開催されないので2.25%ということになります。
すると3.5%にもってゆくには1年半かかるわけです。仮に9月から利上げを開始したとして、3.5%に届くのは2017年の春になるのです。
これが今回の非農業部門雇用者数が悪かったからといって、「今年はもう利上げはない」という極端な議論に行ってしまってはいけない理由です。
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