混迷極める波乱の経済。「闇株新聞プレミアム」が2016年を大胆予測する全3回の緊急特集。今回は第2回、世界的な株価下落の原因とされる原油安を招いたアメリカの失策について。決断できない男・オバマ大統領の任期も残すところ1年あまり。新大統領が見えてくる頃には風向きは変わるのか…!?
オバマ大統領の安直なレガシー作りが
中東の政情不安と原油安の原因だった
原油価格の暴落が止まりません。1月18日にはWTI原油先物価格が一時1バレル=28ドルにまで下落しました。本シリーズ第1回でお伝えした「中国経済の闇」と並んで、今の世界的な株価下落の最大の要因の一つです。
根本的な背景には、原油生産を巡る米国とOPECの盟主であるサウジアラビアの対立があります。サウジアラビアは原発を輸入して石油の国内消費をセーブしてでも輸出に回して原油価格を低迷させ、米国のシェール産業を完全に潰して価格決定力を取り戻そうと本気で考えています。
米国とサウジアラビアは長らく盟友関係にありましたが、なぜこの関係が壊れたか。その発端は任期を1年以上残して国内では完全に指導力を失い、何とか外交で実績を残したいと「レガシー作り」に走ったオバマ大統領が、イランと安直な核合意を結んだ所為です。
同じ「レガシー作り」でもキューバとの国交回復とは意味合いが異なります。オバマ大統領が結んだイラン核合意とは「小型の核兵器をゆっくり製造するならどうぞ続けてください」というもので、世界中の紛争地帯に粗悪なイラン製の小型核兵器が広まることになるでしょう。
最も恐ろしい核兵器とは、ミサイルに搭載して飛ばす核兵器ではなく(撃ち落とす時間があるからです)、カバンに入れて持ち運べて遠隔操作で爆発させられる核兵器です。イスラム過激派が紛争地帯にこんな核兵器を持ち込むことは恐怖以外の何物でもありません。
イランに財政的な余裕が出てくると、パキスタンと北朝鮮を合わせた「闇の原爆開発グループ」が勢いづきます。1月6日の北朝鮮の自称「水爆」実験とは、このグループ内での自らの存在感を示すもので、わかりやすく言えば「セールスプロモーション」だったと考えます。
そもそもオバマ大統領がここまでイランに歩み寄ってしまった理由は、イラク北部を実行支配している自称イスラム国(ISIS)に全く歯が立たず、唯一対等に戦えるシーア派のイラン兵の協力が必要だったからです。イラン兵に対抗してもらえばオバマ大統領は任期中に米国地上軍を派遣しなくて済みます。
袖にされたサウジアラビアは原油増産
減収を賄うべく市場で保有株を売る
ところがシーア派の盟主であるイランと決定的に対立していたのが、スンニ派の最大盟主であるサウジアラビアでした。核合意の見返りにイランは経済制裁を解かれ、原油輸出を再開することができます。
その資金で小型核兵器を量産して中東地域の紛争をますます激化させ、原油価格でも振り回されるとすれば、サウジアラビアは米国と対立せざるを得ません。OPECを率いて、原油価格に影響を及ぼす米国のシェールを潰し、イランの収入源を細らせるべく原油価格の増産を続けるでしょう。
しかし、原油価格の低迷はサウジアラビアと周辺の湾岸産油国にとってもダメージがあります。サウジアラビア王室のサウド家は1932年にサウジアラビアを統一した比較的新しい王室で、たまたまその直後に巨大油田が発見されたため大きな力を持ち、現在に至ります。
つまり、サウド家はイスラム社会では新興の「世俗の王」でしかなく、原油収入が減少するとその足元は大変に危ういものとなります。となると、収入減を補うために運用資産を取り崩さざるを得ません。そうなるといちばん困る国はどこでしょう? ロンドンにシティを構えるイギリスです。
サウジアラビアと周辺の湾岸産油国がシティで運用する資産は2兆ドルを大きく超えます。原油価格が低迷するとイギリスの地位は急激に低下するのです。だからイギリスはAIIBへの参加や中国の原子力発電所の設備輸出にも手を挙げたのです。もともと中国は原油の最大輸入国でもあります。
その中国に対してオバマ大統領は終始一貫して弱腰です。中国が、特に習近平時代に入ってから傍若無人に振る舞っていられるのは、教養が邪魔をして必要な時にも喧嘩ができず、なんでも格好をつけようとするだけのオバマ大統領の無能ぶりと無関係ではありません。
次期大統領は無能なオバマ大統領に
輪をかけて日和見主義のヒラリー氏か
しかし、そんなオバマ大統領の任期も、残り約1年(2017年1月まで)で終焉します。ご存じの通り、今年は大統領選挙が行われ11月には新大統領が決まります。それでは、大統領が代われば米国の中東政策が変化し、原油価格も下げ止まるのでしょうか。
結論から言えばその可能性は極めて小さいと言えます。というのも、次期大統領と目されるヒラリー・クリントン氏が、オバマ大統領に輪をかけて強い相手とは戦わない人物だからです。
つまり、中国と戦わず、ロシアやイランとも戦わず、米国産業界(あるいは労働組合)とも戦わず、(人口が多くて選挙で重要な)黒人やヒスパニックとも戦いません。ヒラリー・クリントン大統領では世界をさらに混乱させてしまう恐れがあります。この辺の弊害を微妙に反映させ始めたのが、最近の金融市場の「尋常ではない混乱」ではないでしょうか。
原油価格に関して言えば、そもそも1984年~2003年の20年間はおおむね年平均1バレル=15ドル~30ドルで推移しており、20年間の取引レンジを突破して上昇しはじめたのが2004年でした。2004年~2014年夏までが「異常に原油高の10年間」だったのです。
この時期は中国経済が人民元を緩やかに上昇させていた時期(2005年~2013年)にほぼ一致しています。中国経済が発表されていたほど成長していたのかはかなり怪しいですが、そのツケは中国経済が明らかに変調していった2014年から一気に噴出し、ほぼ同時期に原油価格の急落が始まりました。
10年間の過大評価のツケを払う株式市場
もう「金融緩和=株高」の公式は使えない!
現在の原油を始めとする商品市場の混乱は、この10年間の「過大評価」のツケを一気に払っている状況と言えます。ただ、そうした中にあって株式市場だけが、例外的に上昇を続けていました。これは、とりもなおさずリーマンショック以降に世界の株式市場がお世話になってきた「金融緩和・量的緩和=株高」という公式が使えてきたからです。
しかし、もはや「困ったときには金融緩和あるいは量的緩和さえ行えば(実際の効果はさておき)株高・通貨安にはなるため、景気が回復するとの期待を持たせることだけはできる」は通用しなくなりました。
これからの世界の金融市場は政治や外交の混乱に影響を受けるフェーズに入ります。中国経済の実態が明るみに出たのも、原油価格の急落も、明らかに政治的要因によるものです。これまでは少なくとも株価にさしたる影響を及ぼすとは認識されていなかった政治や外交といった要因が、今後は重要になります。
米国のオバマ大統領はもちろん、次期大統領の最有力候補であるヒラリー・クリントン氏にも対抗馬と目されるドナルド・トランプ氏にも、混迷する世界の政治経済の闇を晴らす能力はありません。そうした中で日本が生き残り、立ち回っていくためにはどうするのが最善か次回、考えていきたいと思います。
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