英国のEU離脱騒動から約2週間が経ちました。直後には世界の株式市場・為替市場が大混乱に陥りましたが、今週はダウが史上最高値を更新するなど、そのインパクトは早くも消化されたようにも見えます。が、闇株新聞はこの騒動で世界各国の経済が抱える問題点と格差が浮き彫りになったと論じています。経済のプロも愛読する刺激的な金融メルマガ「闇株新聞プレミアム」は世界市場に何を見たのか? そして日本が抱える深刻な事態とは!?
英国のEU離脱問題に限りませんが、市場を大きく揺るがすイベントがあると、それまで世界経済や金融市場で膨らんでいた「歪み」が急速に修正されます。つまり、相場の過熱や行き過ぎが収まる「調整」が起こるわけですが、それによって近い将来に迫っていた大爆発が回避される効果があります。
ところが、市場がこの「調整」の意味するところを誤解して、垣間見えた問題点を軽視するなどしてしまうと、逆に大爆発を引き寄せてしまう逆効果になることもあります。EU離脱問題による大混乱を経て急回復している今こそ、いろいろな市場(相場)を真剣に観察する必要があります。
こういう時期には決して頭で考えてはいけません。理屈で論じる評論家のコメントには特に注意が必要です。事実がすべてテーブルの上にあるなら理屈で論じることも可能ですが、今は多くの事実が闇の中にあって、結果だけが見えている状況です。
このような時期には理屈で「こうなるはず」と論じるのではなく、見えている結果(つまり現実の相場です)から考え、答えを探すのが正しいアプローチです。これは本紙の基本スタンスでもありますが、「答えは常に相場の中にある」のです。
英国のEU離脱騒動後の2週間で
世界の株式市場はどう動いた!?
英国のEU離脱決定から2週間で主要国の株式市場がどう動いたか、国民投票前日の6月23日と先週末7月8日の株価を比べてみます。
なんと当事者である英国FTが最も上昇しており+3.9%、(あまり参考になりませんが)上海総合が+3.3%、ブラジルBovespaが+3.0%、NYダウも+0.7%の上昇でした。逆に下落した国では、イタリアMIBが-10.5%、日経平均が-6.9%、さらにドイツDAXとフランスCACが-6.1%でした。
張本人の英国は、通貨ポンドが31年ぶりの安値になっていることが経済活性化につながると捉えられていることや、追加金融緩和が盛り上がっていること、銀行規制強化の凍結などがあって、本年最高値となりました。リーマンショック以降の英国(イングランド銀行)の金融緩和は大変控え目で、追加金融緩和の効果はそれなりに期待できるはずです。
NYダウは、今回の英国騒動で利上げ予想がほとんど消えた影響で、本年最高値となりました。米国(FRB)は、減速する世界経済の中でも比較的マシな状況で「なぜ利上げに拘るのか?」という議論もあったのですが、これで「全く余計な利上げ」が遠のきました。
同時に、米国の利上げ懸念が遠のいたことで、新興国経済が資本流出から悲惨な状況になってしまう事態も回避されました。これらが今回の英国EU離脱騒動が良い方向に働いた例です。
逆にイタリアでは資本基盤がぜい弱な銀行が、今回の英国騒動でさらに不良資産を積み上げてしまう可能性があり、6月23日以降の株式市場は世界最大の下げとなっています。日経平均は「とばっちり」の円高に直撃され、ドイツ・フランスも基本的には英国離脱とポンドが対ユーロで下落することによる経済面の(とくに貿易面の)悪影響と、やはり国内銀行に対する不安などでそれぞれ下落しています。
明暗が分かれた世界主要国の株式市場
英米と日独仏では何が違っていのか!?
大混乱の後にプラスに転じた英・米と、マイナスに転じた伊・日・独・仏の違いはどこにあるのでしょう? 世界経済全体が減速する中で、今はどの国も多かれ少なかれ問題を抱えています。
そんな中でも英国は、これまで安直な金融政策を控え、キャメロン政権が地道に財政収支・経済収支の改善を図ってきました(といってもまだ大幅な財政赤字・経常赤字ではありますが)。金融政策を含む経済政策には十分な余地があります。米国も、利上げを検討する余地がある程度には、マシな成長を続けていました。
一方で、伊・日・独・仏はじめ英国EU離脱騒動でマイナスに転じた国々は、これまで金融緩和を極限まで進めてきたので、さらなる対策の余地がほほとんどありません。
ここのところ世界の株式市場は全体的に株高傾向にありましたが、今回の「イベント」でなんとなく上げていただけの市場はメッキが剥げ、市場間の格差が改めて認識されました。世界は相変わらずカネ余り・投資難の状況であるため、期待できる市場へはますます資金が集まり、そうでない市場はじり貧になっていく――市場間格差は今後ますます拡大していくでしょう。
そうなると心配なのは日本の状況です。日本(日銀)にはいまだに追加金融緩和への期待があり、もっと気になることは黒田総裁も大半の評論家や経済学者やマスコミもいまだに「まず物価を上昇させなければならず、そのためには躊躇なく追加金融緩和に踏み切るべし」と固く信じているようです。
英国EU離脱騒動の影響で、円高・株安に加えて長短金利(国債利回り)が「恐ろしいほど」低下している中で、さらに追加金融緩和に踏み切ってしまうなら、ますますデフレ圧力を高める結果にしかなりません。日本にも工夫すれば新たな効果のある経済政策がないわけではありませんが、いずれにせよ「追加金融緩和を行わないこと」が絶対条件となります。
市場の期待を裏切っても日銀は
もう金融緩和をしてはいけない!
日本の国債利回りは先週末(7月8日)、2年国債がマイナス0.36%、5年国債がマイナス0.37%、10年国債利回りが一時マイナス0.30%、20年国債利回りまで週央に一時マイナスとなり週末は0.04%と「恐ろしくなるほど」低下しています。
日本の政策金利は300兆円を超える日銀当座預金残高のうち、ほんの10兆円ほどにマイナス0.1%を適用しているに過ぎないのですが、国債利回りは「さらに0.1%ずつの金融緩和(マイナス金利幅の拡大)を2~3回分織り込んでいる」ことになります。
2~10年の国債利回りがほとんど同じマイナス幅になっているということは、すでに日本では長期運用のリスクが完全に麻痺し、10年国債までが短期債とみなされているということです。
これは大変に困ったことです。長短金利差がなくなっているということは、資金を健全な投資やビジネスに投入するインセンティブがほとんどなくなっていることを示すからです。それはつまり、経済成長の可能性が全くなくなっていることと同義です。
ここからの一層の金融緩和=長短金利の一層の低下は強烈なデフレ圧力となり、日本経済を沈没させてしまう結果にしかなりません。しかし、追加緩和期待があるので長短金利が「恐ろしいほど」低下していることも事実で、負のスパイラル現象が起こっているのです。
マイナス金利政策を即刻中止し、「異次元」量的緩和による資産買い入れを半減させる(現在の年間純増80兆円を、国債の年間純増額である25兆円に近づける)必要があると考えますが、そうなると経済に対するプラス効果(経済活動に対するインセンティブが増える)が出る以前に円高と国債市場の大混乱と(たぶん)株安に襲われてしまうため、今となれば踏み切ることもできません。
だから少なくとも「追加緩和を行わない」ことを祈るしかありません。誠に深刻な問題です。
すべての答えは相場の中にある――闇株新聞は世界の株式・為替・商品市場をいつも注意深く観察しています。状況・情勢が刻々と変わる中で、金融メルマガ「闇株新聞プレミアム」では、「いま何が起こっているのか」「それが何を意味するのか」を毎週、分析・配信しています。本連載もその一部を抜粋・要約の上掲載していますが、より早く・より広く・より深い情報をお求めの方は、ぜひ金融メルマガ「闇株新聞プレミアム」のご購読をご検討ください。本編では、ここに本連載では掲載しきれなかった、株・為替・国債の詳細や、新興国経済の情勢と動向などで、さらに突っ込んだ議論が展開されています。
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