石油元売り大手の出光興産(5019)は2015年7月30日の取締役会で、ロイヤル・ダッチ・シェルが保有する昭和シェル(5002)株式を買い受け、経営統合をめざすと決議しました。ところがこれに創業家が反発、対立はドロ沼の様相を呈しています。この内紛は何が原因でこれからどこに向かうのか!? 経済のプロも愛読しネタ元にしている刺激的な金融メルマガ「闇株新聞プレミアム」が“出光の御家騒動”を解説します。
合併か買収か!? 経営統合で
出光興産が残した「火種」
出光興産は2015年7月30日の取締役会で、昭和シェルの33.24%を保有する欧州最大石油メジャーのロイヤル・ダッチ・シェルから全株を取得すると決議しました。
取得価格はその時点の株価に約15%のプレミアムを乗せた1株=1350円で、取得総額は1691億円。また、株式取得後は速やかに経営統合する方針も確認されました。ただし許認可を得るのに1年程度かかるため正式取得もその後になるとのことでした。
経営統合の方法は「合併」で合意していたようですが、出光昭介・名誉会長をはじめとする創業家に十分な説明をしていなかったようで、あとで大問題となります。
経営統合が「買収」ならば出光興産が全株を買い取るため、5000億円以上の資金が必要となりますが、出光興産の発行済み株数は増減せず創業家の持ち株比率(後述)もそのままです。
ところが「合併」となると、昭和シェル株主に出光興産株が割り当てられます。ロイヤル・ダッチ・シェルには1691億円を支払うとしても、それ以上の資金は不要。その代わりに出光興産の発行済み株数は大幅に増え、創業家の持ち株比率も減少してしまいます。
出光興産の経営陣は、単純に「資金負担が少なくて済む方で」と考えたはずですが、大株主である創業家にはおいそれと承諾できるものではありません。
さらに昭和シェルにはサウジ・アラムコという第2の大株主(サウジアラビアの国営石油会社で14.96%保有)がいます。彼らもまた日本の石油元売りビジネスに見切りをつけて撤退するため、ここで出光興産株を受け取る「合併」に合意するはずがありません。
出光興産の経営陣は「サウジ・アラムコの承諾はなくとも合併承認の株主総会で3分の2の賛成を取れば問題あるまい」と考えたのでしょうが、わざわざ「揉める種」を残したことになります。
創業者一族が「合併」に反対
浜田弁護士が講じた策とは!?
さて、6月28日に出光興産の定時株主総会。合併承認を求める臨時株主総会は2016年中には改めて開催される予定で、このときは現経営陣の取締役選任と一部監査役の選任を承認するだけのものでした。
ところが、その席で創業家の代理人である浜田卓二郎弁護士(元衆議院議員)が、合併と現経営陣の取締役選任に反対を表明しました。また、創業家は出光興産の33.92%を保有しているとも表明しました。合併承認は出席者の3分の2以上の賛成が必要なので、これが本当なら「合併」そのものが承認されません。
さらに8月3日になって浜田弁護士は、次なる一手を放ちます。創業家の出光昭介・名誉会長が昭和シェル株式を40万株(全体の0.1%)取得したと発表したのです。なぜ0.1%なのか!? これには理由がありました。
浜田弁護士によると、出光興産はロイヤル・ダッチ・シェルが保有する昭和シェル株の33.24%を「相対で」取得することになっていますが、出光昭介氏が0.1%を取得したため、出光興産が合意通りに33.24%を取得すると合計33.34%の昭和シェル株が出光興産“側”に渡ることになります。
証券取引法では、有価証券報告書提出会社の3分の1(33.33%)以上を取得するときはTOB(株式公開買付け)で全株主に公平な売却機会を与えなければならない決まりになっています。ゆえに、出光興産は昭和シェル株を相対で取得することはできない、というのが浜田弁護士の主張です。
創業者一族が「合併」に反対
浜田弁護士が講じた策とは!?
ただ、浜田弁護士の主張には、かなりの無理があります。そもそも出光昭介氏の所有する昭和シェル株(0.1%)を、出光興産が取得する予定の33.24%と合算して出光興産“側”とすることは適当ではありません。
確かに出光昭介氏は出光興産の名誉会長ですが、この件では明らかに対立しており「利害関係人」とは言えないからです。仮に「利害関係人」であるとするなら、出光昭介氏が昭和シェル株を取得した事実にはインサイダー取引の疑いが出てきます。
それに出光興産の経営陣にすれば、ロイヤル・ダッチ・シェルから取得する昭和シェル株を少し減らして33.32%までにすれば済んでしまいます。事実、経営陣はその方向で検討しているとも報道されています。
しかし、出光興産の経営陣に昭和シェルとの経営統合を成し遂げる強い意志があるなら、堂々と「出光昭介氏が利害関係人ではない」との判断を裁判所に求めるべきでしょう。当局はすべて「現時点で会社の経営陣に座っている方の味方」であるため、十分に勝てる主張だと思います。
ただ、今回の対立は明らかに出光興産のサラリーマン経営陣が安直に「経営統合を仕上げてしまおう」としたことが招いた事態であり、彼らにそこまでの強い意志があるかはかなり疑問です。事前に創業者一族に話を通していなかったことといい、サウジ・アラムコに根回しをしていなかったことといい、詰めが甘すぎるのです。
出光経営陣も創業者側も
詰めが甘過ぎ下手をうち過ぎ
対して、浜田弁護士も大変に「頼りない」と感じます。定時株主総会で議題でもない経営統合に反対を表明したり、創業者側の持ち株比率が33.92%であると公表したりと、まったく余計なことをしています。
創業者側の持ち株比率が本当に33.92%であるなら、いずれにせよ合併承認は否決できるのですから黙っていれば良かったのです。わざわざ言うということは「実際にはまだそこまで固めていません」と白状しているようなものです。
いずれにして見ていてワクワクする対立にはならず、所詮はサラリーマン経営者と亡くなった創業者(出光佐三氏)が偉かっただけのお金持ち一族が、悠長な争いをしているようにしか見えません。
そして、そのツケはしっかりと出光興産と昭和シェルの一般株主に回されています。一連の騒動で出光興産の株価は2483円(6月10日)から先週末(8月5日)には1831円、昭和シェルの株価も1210円(6月9日)から先週末には870円となってしまいました。
今後の成り行きいかんにかかわらず、この体たらくでは出光興産も昭和シェルも、業績も株価も「負け組」のままであるはずです。
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