先月「グラウカス・リサーチ・グループ」(以下、グラウカス)なる米国の空売りファンドが日本に上陸を果たしました。不正の闇を抱える企業に狙いを定めて空売りを仕掛け、レポートでそれを暴き株価の大幅下落を待つ――「グラウカス」とは毒を持つ生物を食らう海洋生物のことで、まさに同ファンドのスタイルを象徴しています。そして同ファンドが日本での最初の標的に定めたのが、伊藤忠商事(以下、伊藤忠 証券コード8001)です。刺激的な金融メルマガ「闇株新聞プレミアム」が、グラウカスvs伊藤忠の闇のバトルを解説します。
不正をネタに空売りを仕掛け
発覚を煽って儲けるファンド
グラウカスは2011年創業のカリフォルニア州を本拠とする投資ファンドです。粉飾決算など不正を抱えた企業を探し出し、自己資金で空売りを仕掛けた後レポートでそれを「暴露」して、株価の値下がりを待ちます。
これまで米国や東南アジアで22社の投資実績(空売り実績)があり、うち5社の経営者が証券詐欺などで告発されているそうです。
そのグラウカスが7月27日に発表したレポートが注目を集めています。前置きとして東芝(6502)が2008~2014年に税引前利益で1518億円の水増しをしていたことを認め、株価が70%も下落したことを“紹介”し、次に同様の不正会計が発覚するのは伊藤忠(8001)であると書いてあるのです。
グラウカスが指摘する
伊藤忠の3つの不正とは!?
グラウカスが指摘する「伊藤忠の不正」とは次の3点であり、伊藤忠もすぐさまIRで反論しています。
①「コロンビア炭鉱」の減損処理がなされていない
伊藤忠が出資するコロンビア炭鉱の価値が著しく減損していたのに不適切な区分変更で1531億円もの減損処理を回避し、2015年3月期の当期利益を大幅に水増しした。
【伊藤忠の反論】2014年度にジョイントベンチャー契約を見直し、重要事項に対しての決定権を失ったため総額1979億円の持分投資を一般投資に区分変更した。
②中国「CITIC」の持分利益計上は不適切
伊藤忠は中国のコングロマリットCITICに約6020億円を出資しているが、機関決定に参画できない同社の持分利益を自社利益として計上しているのは不適切である。
【伊藤忠の反論】取締役を派遣する権利も有しており、議決権も行使できる。
③中国「頂新」の特別利益に疑義がある
伊藤忠は2015年3月期に中国食品流通大手の頂新に対する非支配株主持分の区分変更として認識された600億円の特別利益も、頂新の収益性低下の時期に照合すると疑義がある。
【伊藤忠の反論】2014年度に株主間協定書を改訂し、経営関与度が低下したため持分投資から一般投資に区分変更した。
偏ってはいるが的外れでもない?
問題のレポートをどう読むべきか
グラウカスのレポートは非常に偏った印象を受けます。決算内容に疑義を呈するのは良いとしても、それが不正が発覚することを前提として書かれているのは問題です。
さらにレポートの結論として、伊藤忠が発表した2015年3月期の当期利益3600億円はコロンビア炭鉱の減損処理をするだけでも51%減の1475億円になっていたはずで、伊藤忠の株価はレポート発表前日の1262円の50%減となる631円と評価する、としている部分には全く合理性・整合性がありません。
決算で減損処理すべきか否かの認識には多少の期ズレがあるのが普通で、伊藤忠も2016年3月期連結決算で、欧州タイヤ事業や豪州石炭事業など合計1250億円の減損処理をしています。仮に、コロンビア炭鉱のそれが2015年3月期に減損処理すべきだったものとしても、その分を現在の株価から差し引くことにはほとんど意味がないからです。
グラウカスとは異なる切り口
闇株新聞は伊藤忠をこう見る
では、グラウカスのレポートが一から十までピント外れで一笑に付せるかと言うと、そうでもありません。
コロンビア炭鉱については持分投資であろうと一般投資であろうと、資産性(収益性)が棄損していれば減損の対象となるため、伊藤忠の反論には説得性がありません。あくまで投資対象の資産価値あるいは回復の可能性で反論すべきでした。中国「頂新」に関しての指摘に対する反論も同様です。
逆に伊藤忠は、2015年にタイのCPグループと共同投資した中国CITICの持分利益は自社利益として計上しています。要するに、問題のある投資企業は持分から外し、儲かっている投資企業は利益として計上しているという矛盾したことをやっているのです。
この中国CITICの持分計上については、本紙も以前から「やや疑念がある」とは感じていました。が、それはグラウカスが指摘する「機関決定に関与できるか否か」とは少し視点が違っています。
つまり伊藤忠はタイCPグループと6020億円ずつ同額出資して合弁会社を作り、その合弁会社がCITICの株式を23.4%所有しているのですが、だとすると伊藤忠のCITICへの出資分は実質は23.4%の半分の11.7%となり、これだと持分計上することは適切ではないのではないか、という疑念です。
さらに伊藤忠は2015年10~12月期からCITIの持分例益を取り込み始め、その総額は2016年3月期に64億円であるはずですが、伊藤忠は取得時にわかっていたCITICの巨額損失(豪州鉄鋼石事業)を織り込んでいたからとかで404億円もの持分利益を計上しています。これも意味がわかりません。
また2017年3月期には700億円もの持分利益を予想しているようですが、それだと投資利回りが年率11%にもなります。あの中国でそんなにウマい話があるものでしょうか(これはあくまでも持分利益でキャッシュで入ってくるわけでもありません)。
グラウカスの手口は99%「クロ」
舶来モノに一目置く当局は動くか
話をグラウカスvs伊藤忠に戻します。グラウカスのレポートは大変に偏ってはいるものの、それほどピントを外しているわけでもありません。対して伊藤忠の反論は、明らかに説明不足です。
しかしながら、これが(グラウカスが引き合いに出した)東芝級の不正経理なのかと言われれば、そこまでではありません。
とはいえ、結果としてレポートが出た7月27日に伊藤忠の株価は最大10%程度も下落し、グラウカスにとってはそれなりの「成果」を挙げたことになります。が、自ら空売りを仕掛けた後でこうしたレポートを出す手法は、明白に「風説の流布」に該当します。
仮に「オリンパス事件の闇」を暴いた本紙があの時、オリンパス株を空売りしていれば証券取引等監視委員会は即刻、刑事事件の対象としたでしょう。グラウカスのビジネスモデルはこれと同じことですが、舶来モノには一目置く当局が今後どのように対応するかにも注目しておきましょう。
参考記事:闇株新聞とはいかなるメディアか? 「オリンパス事件の闇」を振り返る(2015年9月1日公開)
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