子どもの心をおもんぱかる「佐藤ママ」
1年浪人して和田氏が勧めた大学に進学

「このような価値観を持つ親に育てられ、プレッシャーを感じていた子どもの心理を考えると、精神科医として不安を覚える。合格できそうな医学部があるのに、合格の可能性が低い医学部だけを受験させるのは、返金してもらうための虐待だとすら感じる」と和田氏は憤る。

 4人の子ども全員が東大理三に合格した「佐藤ママ」こと佐藤亮子氏は、冒頭の母親の証言について「子どもが生まれたときから東大に入る運命を感じたというのなら、幼児教育に力を入れ、医学部に強いといわれる中高一貫校を受験するといった王道を歩めばよかったと思う」と疑問を呈す。

「合格保証制度に注釈を入れなかったのは和田先生の落ち度ですが、だからといって恩をあだで返すような訴訟はよくないし、子どもを幸せにしないのでは」と子どもの心をおもんぱかった。

 この生徒は幸い翌年1年浪人して医学部に合格したが、翌年もその4校は不合格。現役のときに和田氏が勧めた大学に進学したという。結果、1年間が無駄になり、医師としての収入も1年分減ることになる。

出身大学で医師のキャリアが
決まる時代は終わった

「以前は、旧帝国大学などの歴史がある大学に進学した方が研修病院に恵まれ、医師としてのキャリアに影響したから、大学名にこだわるのも理解できた」と和田氏。「しかし、2004年に臨床研修が必修化されてからは、出身大学の付属病院ではなく、初期研修の2年間は希望する病院で研修できるようになったため、大学名にこだわらず、1年でも早く医師になった方がいいと指導している」

 人気の臨床研修病院の採用基準は、例えば東大で下位の成績の者より、他大学でトップの成績の者の方が採用される傾向になっているという。研究医になりたい場合には東大、京都大学、大阪大学などの旧帝大に進んだ方がいいが、臨床医希望ならば、今では大学名にこだわらずに1年でも早く医学部に入った方がよい。

 13年に東大理三に27人の合格者を出した灘でも、以前は、浪人してでも東大や京大の医学部を目指す生徒が多かったが、近年は臨床医希望だと関西の国公立大を志望する生徒も増えているという。灘のような日本屈指の難関校でも、東大理三一辺倒ではなく、1年でも早く医師になった方がいいと考える生徒が増えているということだ。