FP花輪陽子のシンガポール移住日記
【第34回】 2018年6月7日 花輪陽子

シンガポールに移住しても相続税から逃げられない!?
徐々に厳しくなってきた日本の「相続税」の概要と、
海外移住しても節税できない「10年ルール」を解説!

 ファイナンシャル・プランナー(FP)の花輪陽子です。今、私が暮らしているシンガポールには、贈与税・相続税がありません。また、シンガポールと同じように、世界には相続税がない国が多くあります。たとえば、香港、スイス、オーストラリアなどには、相続税がありません。

 ところが、みなさんもご存じのように、日本はそうではありません。贈与税・相続税の最高税率は55%と、非常に高くなっています。さらに、2015年から相続税の基礎控除が引き下げられ、相続税を支払うことになる人の割合は、約12人に1人となりました(※2016年の場合)。基礎控除の引き下げ前と比較すると、相続税を負担する人の割合は倍増したことになります。

 いまだに「相続税を支払わなければいけないのは、お金持ちだけでしょう?」と思っている人も多いかもしれません。しかし、実はすでに、普通の会社員などでも、相続税対策を考えなければならない時代になっているのです。

都心部にマイホームを持っていると、
相続税が発生する可能性は極めて高くなる

 2015年以降、相続税の基礎控除は、以下の計算式で算出することになっています。

「3000万円+600万円×法定相続人の数」
  
 相続人が一人の場合、基礎控除は3600万円ということになります。例えば、資産運用などによって金融資産が3600万円以上あり、子供は一人という場合、その子どもは相続税と無縁ではなくなるわけです。

 なお、地価の高い都心にマイホームを持っている場合、評価額が数千万~1億円を超える場合もあります。しかし、自宅の場合は、一定の基準を満たすと限度面積の330平米 (100坪)まで、評価額を80%減額してもらえる特例(小規模宅地等の特例)があります。

 つまり、評価額1億円の土地を相続したとしても、特例を受けることができれば、評価は80%オフの2000万円になるのです。特例を受けることができる相続人は、被相続人の配偶者、同居親族、持ち家のない親族、生計を一にする親族などに限られます(配偶者以外が相続する場合は「申告期限まで売らない」などの要件あり)。

 なお、都心にマイホームがあって、金融資産もあるような場合、いずれその相続人が高額な相続税を課されることは免れられないでしょう。そのため、日本からシンガポールなど、海外に移住する富裕層もいます。贈与税や相続税のない国に逃げてしまえば、課税されずに済むだろうと思うかもしれませんね。

海外移住しただけでは逃れられない!
相続税・贈与税に関する「10年ルール」を知っておこう

 ただ、日本政府もこのような“相続税逃れ”への対策をしています。それが、相続税法の「10年ルール」と呼ばれるものです。

 「10年ルール」とは、海外に住む日本国籍を持つ人が、資産を子や孫などに相続させる場合、日本の相続税や贈与税が課されないためには、海外での最低居住期間が10年超必要、というものです。

 課税対象となる資産は、原則として日本にある財産だけではなく、海外にある資産も含まれます。ただし、被相続人(あるいは贈与者)と相続人(あるいは受贈者)の双方が、10年超海外に居住していた場合に関しては、日本にある資産のみが課税対象となり、海外の資産は課税を免れます。

超富裕層の邸宅が多いセントーサコーブの友人宅から眺めた景色。近隣にはゴルフ場やカジノなどがあります。超富裕層の邸宅が多いセントーサコーブの友人宅から眺めた景色。近隣にはゴルフ場やカジノなどがあります。

 ちょっと複雑なので、大雑把にまとめると、家族全員で海外に移住して、10年超待てば、海外に移した資産に関して、原則的に日本の相続税や贈与税を課せられずに済む、ということです。

 以前は「10年ルール」ではなく「5年ルール」だったのですが、富裕層を海外に逃さないために、ルールが厳しくなりました。このような環境になっているため、資産承継のために、ただ時が過ぎるのを待ちながら海外で暮らしている日本人の富裕層も、シンガポールにはたくさんいるのです。

 ちなみに、資産承継のためにシンガポールに住んでいる富裕層の中には、ヒマを持て余してしまう人も多いようです。そのために、自宅で頻繁にパーティーを開いている方なども珍しくありません。シンガポールは国土が狭く、娯楽が買い物などに限られているため、特に高齢の方にとっては、10年過ごすのは厳しいものがあるのでしょう。

節税のために国籍を捨てる富裕層もいる!
米国の厳しい相続税法とは?

 政府がどれだけ厳しく取り締まっても、富裕層は税務のスペシャリストを雇って対策をするので、いたちごっこになっています。例えば、「フェイスブック」の共同創業者のドゥアルド・サベリン氏は、日本と同じく相続税の制度がある米国籍を捨てています。国籍を捨てて、他国で市民権を獲得することなど、超富裕層にとっては容易いことなのかもしれません。

 米国には、日本以上に厳しい「外国口座税務コンプライアンス法FATCA(Foreign Account Tax Compliance Act)」という税法があります。米国で納税義務のある人が、海外の金融機関の口座を利用して、米国の税金を逃れることを防止するために制定されました。

 この法律があるために、米国市民は現在の居住地に関わらず、米国で納税義務が発生する可能性があります。そのため、海外の金融機関の中には、米国籍の人が口座を開く際に、米国での納税義務があるかどうかを厳しくチェックするところも多いのです。

 さて、相続が発生しそうで心配な方は、富裕層にならって、早めに対策を練ったほうがいいでしょう。さまざまな手段がありますが、例えば「生前贈与(暦年課税による贈与)」で相続財産を減らす、不動産を活用して財産の評価額を下げる、生命保険を活用する、などの方法が考えられます。

 とはいえ、人それぞれに適した節税対策は異なるので、自力で解決しようとするよりは、一度、相続に強い税理士などのプロに相談してみることをおすすめします。