FP花輪陽子のシンガポール移住日記
【第38回】 2018年9月28日 花輪陽子

世界中の富裕層が集まるシンガポールの「富の格差」
の現状とは? 日本も他人事ではない、富裕層と国民の
2割を占める低所得者の「富の格差」問題をリポート!

シンガポールには、全身ハイブランドで身を固めて、
フェラーリなどの超高級車を乗り回す富裕層が多い!

 ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子です。

 シンガポールの超富裕層の生態を描いた、映画「クレイジー・リッチ!」(原題「CRAZY RICH ASIANS」)が、全米で大ヒットしています。日本でも、2018年9月28日から劇場公開されるそうです。舞台はシンガポールの社交界なのですが、シンガポールの名所もたくさん登場するので、観光気分も味わえる楽しい映画だと思います。

 この映画にも出てくるように、シンガポールには“超富裕層”がいて、街中ではフェラーリなどの高級車をしょっちゅう目にします。以前、この連載でも紹介しましたが、シンガポールでは車に課せられる関税が非常に高く、大抵の車は日本で買うときの3~4倍の価格で売られています。よって、シンガポールでフェラーリなどを所有できるのは、超富裕層ということになります。

(※関連記事はこちら!)
⇒シンガポールで自動車を持っているのは金持ちの証!? トヨタ・カローラでも1000万円の超高級外車になるシンガポールのマイカー事情・交通事情を紹介!

 また、子どもの学校や習い事の送迎をしていると、全身デザイナーズブランドで身を固めている保護者を大勢見かけます。大人ばかりでなく、大学生がシャネルのバッグを持つのも、こちらでは当たり前のこと。それどころか、ハイブランドのバッグを持ったティーンエイジャーを見かけるのもしょっちゅうです。

税務署に追求される恐れがないから、
財産をインスタグラムで公開する富裕層も

 シンガポールには、“富裕層インスタグラマー”も多いです。興味本位で覗いてみると、ある女性は、エルメスの高級バッグ・バーキンのコレクションが趣味。超高級車のランボルギーニなど、複数の高級車(もちろんマイカー)と、自分が一緒に写っている写真をポストする若い男性も。

先日参加した、高給レストランでの富裕層イベント。チャリティー目的のファッションショーでした。先日参加した、高級レストランでの富裕層イベント。チャリティー目的のファッションショーでした。

 家業がうまくいっている人、親が裕福な人、配偶者(あるいは元配偶者)が富裕層で、生活費や慰謝料を使い切れないくらいもらっている人など、彼らの背景は十人十色です。シンガポールでは、街中を歩いたり、インスタグラムをチェックしたりするだけで、多様な富裕層の生活の一端を垣間見ることができます。

 これが日本だと、インスタグラムで自分の富を公開している富裕層など、それほど多くはありません。彼らはどちらかといえば、ひっそりと生活している印象があります。目立った動きをして嫉妬されたり、税務署に目をつけられたりすることを恐れているのかもしれません。

 その点、シンガポールは富裕層の人数も多いため、日本よりは嫉妬されにくい状況と言えるかもしれません。また、シンガポールには贈与税も相続税もなく、税金の面では富裕層に優しい国です。そのため、堂々と持ち物(資産)をSNSに投稿しても、税務署につっつかれる心配もないのです。

富裕層は多いが「月収10万円以下」の低所得者が人口の2割!
社会保障が手薄で、資金不足により働き続ける高齢者が多い

 シンガポールが富裕層の国であることは事実ですが、その一方で「月収10万円以下」の低所得者層は、人口の2割程度にも及ぶとされています。

 彼らの職業は、工事現場の作業員や清掃員など。街中では、ランボルギーニが疾走する横を、上半身裸の労働者を荷台に何人も乗せた軽トラが走っている光景もよく見かけます。最初見たときは衝撃でしたが、あまりにしょっちゅう見かけるので、私にとっても“日常の風景”になってしまいました。

 また、シンガポールには高齢になっても低所得で働き続けている人が、少なからず存在します。理由は、生活費の高さ。それから年金の不足です。

 シンガポールは日本と比べると社会保障が手薄なので、医療費などの自己負担が大きくなっています。そのため、老後資金が不足するケースもしばしばです。

 年金は、自分が勤め先と折半で保険料を拠出し、運用した分だけをもらえるという「積立方式」です(※日本は相互扶助の考えに基づいた「賦課方式」を採用)。

 シンガポールの年金は、55歳に達すると、(一定金額は残すルールになっていますが)一括で引き出すことができます。この点が、日本の年金制度とは大きく異なるところ。つまり、お金の管理に関して「自己責任」とされている領域が広いのです。

 といっても、当然のことながら、すべてのシンガポール人がお金の管理を得意としているわけではありません。時折、定年世代の男性が、若い女性に老後資金をつぎ込み、生活費を失ってしまった――といった話も耳にします。そのような事態になると、いつまでも働き続けるしかなくなってしまいます。

シンガポールの「富の格差」は大きいものの、
近年は政府の努力で格差は少しずつ縮まってきている

 このように、格差社会であるシンガポールですが、「ジニ係数」で見ると、徐々に状況は改善してきていると言われます。

 ジニ係数は、”所得や資産の不平等さ”を測る指標。0から1までの値で表すもので、1に近づくほど格差が大きい状態を示します。全員の富が同一で完全に平等なら、値は「0」。すべての富が1人に集中すれば、値は「1」です。

 ジニ係数には「再分配前」と「再分配後」の2種類があります。再分配前のジニ係数は、税金や社会保険料を支払う前の収入で、公的年金などの社会保険の給付金も含めずに算出したもの。再分配後は、逆にそれらを反映して算出した所得で、どちらかといえば後者のほうが実態を表していると言えるでしょう。

 2017年の統計によると、シンガポールの再分配後のジニ係数は「0.356」(再分配前は0.417)でした。ちなみに日本は、2012年の統計で「0.33」(再配分前は0.488)となっています。

 格差が広がりすぎて、社会騒乱の多発が警戒されるラインは再分配後のジニ係数が「0.4」だと言われています。数年前まで、シンガポールはこの警戒ラインをほんの少し超えてしまっている状態が続いていたのですが、外国人への優遇を減らし、貧困層に再配分をするなどの政府努力によって、近年はOECD加盟国の平均値並みになってきました。

 日本とそれほど変わらないというのは意外に思われるかもしれません。ただ、ジニ係数をカウントするうえでは、バングラデシュなどからの出稼ぎ労働者や、街の中心地などに住む富裕外国人が含まれていない可能性が高い(彼らは外国人であって、シンガポーリアンではない)ので、多少実感とのズレがあるようです。

子どもの教育現場では経済的な格差を実感するシーンが多く、
勉強だけでなく余暇の過ごし方でも格差は顕著に表れる!

 実際、シンガポールでの日常生活において、格差を感じる機会は頻繁にあります。個人的には、子どもの教育現場で格差を感じる瞬間が多くあります。

 私の子どもが通うインターナショナルスクールでは、年間の休みが合計3カ月程度あるのですが、休みが長くなると、その過ごし方に大きな差が出ます。たとえば、知人である超富裕層の中華系ファミリーは、休みのたびに世界中を家族旅行して、その様子をSNSにポストしています。

 一方、富裕層ではない両親共働きの家庭では、祖父母やヘルパーもおらず、休み中は子どもが“Youtube漬け”になってしまった、などという話も。

 余暇の過ごし方だけでなく、もちろん子どもへの教育費のかけ方にも、格差は顕著に表れています。

 教育に対する富裕層のお金のかけ方には、目を見張るものがあります。さまざまな調査で指摘されているとおり、親の収入と子どもの学歴の因果関係ははっきりしているので、シンガポールでは「富の格差」が「学力の格差」にもつながっています。

日本は教育への公的な援助が少なく、自己負担が高い国!
「富の格差=学力の格差」を解消する政策も効果は限定的

 日本においても、状況は同じです。「富の格差」と「学力の格差」の関連性は、今に始まったことではありません。

 しかも、日本はOECD諸国の中で、GDP比で見た公教育支出が最低水準の国。つまり、国が子どもの教育にお金をかけていないので、教育費は各家庭における自己負担の割合が高いのです。

 対策として、政府は消費税増税による財源の一部を用い、子ども・子育て支援にお金をかけようとしています。2019年10月からすべての3~5歳児と、住民税非課税世帯の0~2歳児について、幼児教育・保育の費用を無償化する予定です。認可外の保育施設も一部対象になります。

 また、私立高校の授業料に関しては、年収590万円未満の世帯を対象に2020年度までに全国で実質無償化されます。大学生向け給付型奨学金は住民税非課税世帯で高い成績を収めるなどして高校から推薦を受けた学生を対象に、月額2万~4万円を支給し返済は不要にします。

 しかし、これでもまだ十分だとは言えないでしょう。親に経済力がないと、子どもが十分な教育を受けづらい状況は、これらによって大幅に改善されるというわけではありません。

日本でも「贈与税の非課税措置」の恒久化などで、
教育面での経済的な格差がまずます拡大する可能性も…

 そんな中、祖父母らが孫らに教育資金の一括贈与をした場合の「贈与税の非課税措置」について、文部科学省が平成31年度税制改正要望で、恒久化を求める方針であることが、2018年8月27日に判明しました。

 国が教育費などの政策的な支出に大きな予算を割けない状況下で、これまで以上に、お金を持っている祖父母から孫への教育投資を促そう、という流れなのでしょう。そうなると、富裕層は孫への教育費にお金をかけるでしょうが、当然かけられない家庭も多いわけで、日本でもますます格差は広がりそうな予感がします。

 シンガポールにいると、富裕層ではない、中流家庭の中国人や韓国人の知人から、子どもをあえて一人っ子にして、一人に集中投資をする、という話をよく聞きます。その良し悪しはさておき、過酷な格差社会で子どもに世界標準の教育を与えるために、教育費がかかることは事実です。

 特に、国の支援が薄い日本においては、自己責任で計画的に教育費を準備していく心構えを持ったほうが良さそうです