台湾系アメリカ人の私は、台湾、中国、アメリカ間のコンフリクトと戦争のリスクについてよく聞かれます。
結論からいうと、従来のような戦争になる可能性は低いと考えています。しかし、市場の奪い合い、市場ルールの設定の仕方を奪い合う動きは激しくなると思います。
戦争のリスクについて考えることに、なぜ「市場」が出てくるのでしょうか? 以下、説明していきましょう。
アメリカは第2次世界大戦に勝利したのになぜ、占領した国から最終的には軍をほとんど引き上げたのか?
ここで1つ、歴史について、考え方のフレームワークを紹介したいです。
第2次世界大戦に勝利したアメリカは、領土争いの戦争に勝利したにも関わらず、欧州、日本など占領した国に軍は駐留させたものの、独立を許しました。従来の戦争の勝利者とはまったく違う動きをしたのです。
なぜそうなったか。
農業中心の社会では重要だった土地よりも、現代では市場と経済の方が重要になったからです。
市場は国境に制限されません。アメリカが戦争に勝利した果実は土地ではなく、市場でした。
アメリカが勝利したことで、米ドルが準備通貨になり、アメリカ主導で一連の組織が作られました。国連(国際連合)、IMF(国際通貨基金)、NATO(北大西洋条約機構)といったものです。これらはアメリカが戦争に勝利した果実です。
戦後、アメリカに有利なこのシステムを維持するということを主な目的として、アメリカは外交交渉を行なってきました。このシステムが維持されていることによって、アメリカは大きな利益と富を手にすることができました。
アメリカに有利なこのシステムへ、誰を入れて、誰を追い出すのか、決めるのはアメリカ
アメリカはこのシステムのボスで、誰を入れて、誰を追い出すのか、決める/制裁する権利が一方的にあります。
当初、アメリカは中国をこのシステムから追い出しましたが、まず、ニクソン大統領時代に米中の国交正常化が行われ、さらにその後、中国はWTOへ加入することができました。中国は米国中心のこのシステムへ入れてもらえたのです。そして、中国はこれによって経済発展してきました。
しかし、今、中国は大きな存在となりました。政治体制の違いにより、アメリカと中国の間では利益を巡って衝突が多くなりました。アメリカは中国を警戒し始めました。中国はアジア圏のボスにならないと中国の国益を守れないと考え始めました。
中国が勝利しても台湾が焼け野原になってしまったら得られる果実はない
そして、台湾問題の話になりますが、中国が台湾を占領するとしたら、その目的は従来からある、「領土を拡大する」という考え方によるものとなります。これは意味がありません。
台湾は抵抗しますし、中国が勝利しても台湾が焼け野原になってしまったら、得られる果実はないのです。その代わり、アメリカが築いてきたシステム全体との衝突によって、中国経済は大きな代償を払うことになります。
そのことはウクライナ戦争で中国に示されました。
中国は数日間の戦いだけでは台湾を征服できないとわかっています。数日間で終わらないとなると、大きな代償を払うことになる、とよくわかっているはずです。
中国が台湾を放棄することも考えられず、現状維持の可能性が高い
その一方、中国が台湾を放棄することもないでしょう。中国は実は大きく異なったいろいろな地方/文化が連合している国であり、台湾を放棄することになると、国内の連合が緩むので、放棄もできないのです。
そして、メディアにとって、一般市民にとって、台湾を支配下に置くことは中華民族復興の重要なマイルストーンなので、放棄しづらいのです。
台湾は地理的に重要な場所にあり、中国が必要とする半導体技術も持っています。なので、中国にとって台湾は歴史的意味合い以外の観点からも重要な存在です。
台湾は中国にとって市場として、戦略的拠点として重要です。戦争して台湾を占領することは本末転倒になります。
なので、中国と台湾の市場がしっかり結びついていれば、中期的に中国は台湾を攻めることはないと思います。その反面、台湾を放棄することも考えられないです。現状維持の可能性が高いです。
突発的な事件などがない限り、中台戦争は起こらないだろう
中国とアメリカの市場の奪い合いは続きます。中国は経済的な手段で台湾、日本、韓国、アジア圏全体への影響力を増し、市場をより一層、コントロールしようとし続けるでしょう。
戦争によって影響力、支配力が増すのであれば、中国は戦争するでしょうが、日本/台湾/韓国と中国との貿易が増え続けている中、戦争よりは平和的な、市場を利用した手段の方が効果的だと見ているはずです。突発的な事件などがなければ、戦争にはならないでしょう。
過度に戦争を意識して投資する必要はありません。日本をはじめとしたアメリカの同盟国と中国が戦争するリスクは大きくないと思います。
また、中国は中長期的に米国のシステムから脱却することはまだできないと考えています。
米中の衝突もあって中国株は下落していますが、投資チャンスはそんな中に潜んでいると思います。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリスト&ポートフォリオマネジャーとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
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