FIREは高所得者だけが達成できるものなのか?
FIREを達成するのは理論的には可能だけれど、実際には達成できそうにない──読者のみなさんの多くはこのように考えているのではないでしょうか。FIREは高所得者だけが達成できるもの。そう考えている人が多いように思います。
しかし、本当にそうでしょうか?
今回は高所得者でなくてもFIREを達成することは可能ということを示唆してくれる、ある事例を紹介したいと思います。
63歳でソーシャルワーカーが亡くなったとき、1100万ドルの資産が残されていた
FIREの両エンジンは節約と投資ですが、もしもこの2つをうまくやっていければFIRE達成は不可能ではない、と思える事例が私の在住するシアトルにありました。
私は2018年末にこういう記事を読んだのです。
「ソーシャルワーカーは1100万ドル(約12億円(※))を子供のチャリティーに寄付しました」
(※編集部注:2018年末現在の米ドル/円レート、109.58円で換算)
このソーシャルワーカーはアーランという方でした。
アーランは63歳のとき、癌で亡くなりましたが、すべての財産を障害があったり、病んでいたりする子どもたちを助けるチャリティーに寄付したのです。
彼には奥さんも子供もいませんでした。お兄さんはいましたが、2013年に亡くなっていました。
実はアーランは最初、150万ドル程度を相続していました。この金額は小さなものではありませんが、相続があったとしても、最終的に残った遺産の規模はさらに大きなものでした。
給料が高いとは言えないソーシャルワーカーは靴を何度も修繕して履き、スーパーの特売品をいつも狙っていた
ソーシャルワーカーの給料は決して高いとは言えません。彼は20年間、ワシントン州の社会福祉・保健局で働いていて、年収はおそらく6万~7万ドル(約600-700万円(※))ほどでした。
(※編集部注:1ドル=100円の米ドル/円レートで換算)
彼はうまく節約と投資のエンジンを回したものと思われます。
節約についてですが、彼は何度も修繕した靴を履いていました。彼はいつもスーパーの閉店前の特売品を狙っていました。友だちと外食するときは安いファストフードへ行っていました。服も安売りの総合スーパーで買っていました。
彼の投資については、詳しく報じられていませんでしたが、1100万ドルの資産を20年で築いたと考えると、おそらく150万ドルぐらい相続していて、年間3万ドルぐらい貯金したのではないかと私は思います。これで年率10%ぐらいで投資を回せば、20年で1070万ドルぐらいになる計算です。報道された1100万ドルという寄付額とだいたい一致します。
150万ドル相続して、年間3万ドルぐらいの貯金を20年続けたとすると210万ドルぐらいの資産にしかなりません。
しかし、実際には1100万ドルという大きな金額をアーランは寄付しました。それは遺産相続と貯蓄だけでは到底到達し得ない金額でした。
何かの生き甲斐がないと大きな資産を作るのはなかなか難しい
大きな資産を作るのは、何かの生き甲斐がないとなかなか難しいことです。アーランの場合は「子供を救う」というミッションが心の中に強くありました。だから大きな遺産を残せたのです。
アーランのケースを見ると、貯蓄だけでは富を築くことができないとよくわかります。
なぜかというと、1人の力は限られているからです。しかし、資本を活用すれば、寝ている間でも、その資本は自分のために働いてくれます。
もう1つ、別の言い方をすれば、資本を使って、ほかの人のボスになり、ほかの人に働いてもらって、その労働によって得られた富を分けてもらうのです。
投資には複利効果がある。投資すれば、22才のときの1ドルは、65才のとき、27ドルになる
投資には複利効果があります。複利効果によって、資産を大きくすることができるのです。
モンゴルの草原にいる羊が羊を産むように、お金はお金を生み出します。生まれた羊が成長すればまた羊を産みますが、生み出されたお金もまたお金を生み出します。お金は寂しがり屋で、お金を呼ぶのです。これが複利効果です。
私がUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)で学んだとき、よく覚えているのは、機械工学学科の最後の講義が技術の話ではなく、複利効果と投資の重要性だったことです。
そのとき、先生は複利のチャートを見せてくれて、若い時から投資する重要性を一生懸命、説明してくれました。「投資すれば、22才のときの1ドルは、65才のとき、27ドルになる。だから若いころ、少しでも節約して投資しましょう」と言われました。
あなたもできるだけ早く投資を始めましょう。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
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