前回は財務諸表を見て、その会社を当てるゲームを紹介しました。投資先の財務諸表を読んで理解することは、銘柄選定への第一歩です。
[参考記事]
●10年以上の財務諸表を読み、その会社はどこか当てるゲーム。コロナ禍で大儲けも過剰設備投資していないK社とは?
それと同じように、過去の株価を理解することは重要です。
フィデリティのすべてのオフィスの入り口には長期チャートが掲げられていた。過去の株価を分析する2つの手法とは?
フィデリティの創業者、ネッド・ジョンソン氏は過去の株価の動きを把握することはとても重要だと考えていました。フィデリティではすべてのオフィスの入り口に、重要な銘柄の長期チャートと株価指数の長期チャートが一覧できる、チャートルームが設置されていました。オフィスを出るたびに、それらの長期チャートを見て、株式市場の動きを身体に染みこませてほしいという意図でした。
過去の株価を分析するには、主に2つの手法があります。
1つ目はテクニカル分析という、チャートのパターンを見て、株価の将来を占う方法です。テクニカル分析ではさまざまなテクニカル指標を使いますが、その元になっている情報はほぼ株価のみです。
2つ目はファンダメンタルズ分析です。個別株のファンダメンタルズ分析は一般に財務諸表の情報を使って行ないますが、財務諸表の情報と過去の株価の反応を照らし合わせて分析するとより効果的です。今回は株価と照らし合わせるファンダメンタルズ分析のやり方を紹介したいと思います。
株価がなぜ大きく動いたのか、自分がまったくわからないような銘柄には投資しない方がいい
まず、長期の株価チャートをプリントするか、画面に映します。できるだけ長いチャートを見ましょう。
たとえば上場から20年の歴史がある株であれば、20年分のチャートを出してみます。過去の株価を理解すれば、その株の特性がわかり、将来を占うのに役立ちます。
逆にいうと、株価に大きな動きがあっても、何で動いたのか、自分がまったくわからなければ、自分はこの会社、この銘柄に対する理解が足りないと考えるべきです。わからない銘柄にはあまり投資しない方がいいです。
IPO時から150倍ほどになっているテスラ株だが、時期によって株価の動きは大きく異なっている
ここでは、テスラ(ティッカー:TSLA)を例に挙げて、説明したいと思います。
以下はテスラ上場時からの長期チャートです。通常のチャートではなく、対数チャートにしています。対数チャートでは何パーセント上下したかを基準に目盛りをとります。投資のリターンは通常、パーセントで表しますが、対数チャートだとそれに対応したグラフになるため、私は分析する時、対数チャートで見ることが多いです。
まずはテスラのこれまでの株価の動きを、大まかなトレンドに分けてみましょう。
(A)テスラは2010年6月に当時の株価で17ドル、株式分割を考慮して今の株価と連続性ある価格に換算すれば約1.27ドルでIPOしました。そのあと2013年3月まで緩やかに2.5ドルぐらいまで上昇しました。
(B)2013年から2014年にかけて株価は大きく上昇しました。2ドル近辺から17ドル台まででした。
(C)2014年から2019年までは横ばいの感じでした。15ドルぐらいから25ドルぐらいの間で上下している期間が長かったです。
(D)そして2019年9月の17ドル近辺から2021年1月の300ドル台まで一気に上昇しました。
(E)2022年9月から2022年12月にかけては、300ドル台から100ドル台まで下落しました。
(F)2023年に入ってから現在(2023年4月)までの間に、株価は一時、200ドル台を回復しました。そのあとは180~200ドル台ぐらいで推移することが多くなっています。
このような動きを振り返って、まずわかるのは、テスラ株はとてもボラティリティが高いということです。IPO時は1.27ドル、今は180ドルほど。150倍弱になっています。
売上げは2009年に1億ドルほどでしたが、2022年は814億ドルになりました。利益は2009年は赤字で、その後、赤字額は拡大していき、初めて黒字になったのは2020年のことです。ここからわかるように会社の初期の時代は利益を上げることよりも、売上げ成長の方が重要ということです。
成長株にとって売上げ増は不可欠。テスラ株は赤字の時も売上げ増で株価は上昇していた
それぞれの時期にテスラの株価が動いた理由をニュースや会社の開示情報で探しましょう。ここで簡単にその例を紹介すると…
(A)2010年から2013年の初期の頃は、株価が1.27ドルで始まって2.5ドルぐらいまで上がっています。現在の株価から見ると、小さな動きにも思えますが、とはいえ、株価は2倍になっているのです。この時、売上げは4倍になりました。赤字はそれほどは膨らんでおらず、設備投資は順調に増えていました。順調だったので、株価は売上げ増にしたがって上がりました。成長株にとって売上げ増は不可欠です。
(B)2010年に出たモデルSは成功しました。2万台を売るとイーロン・マスクは言いましたが、市場はそれを信じませんでした。けれど、目標を達成したので、株価は大きく上昇しました。テスラ専用の充電設備、スーパーチャージャーのネットワークも充実し始めました。
(C)2014年から2019年まではモデルX、モデルSが順調に売れていましたが、市場がびっくりするほどではなかったので、株価はそこまで動きませんでした。
(D)モデル3はマスマーケットのモデルになるということで成功しました。中国市場でうまくいきました。販売台数は2019年の37万台から131万台に増えました。そして、黒字になりました。また、テスラ株は2020年にS&P500指数に組み入れられました。
(E)ツイッター社の買収成立で、イーロン・マスクがテスラを見る余裕がなくなると市場は考えました。また、コロナ禍で中国の需要は弱めでした。値下げがなされました。
(F)2022年第4四半期の決算は良かったです。2023年には値下げによる需要へのプラス効果が出てくると株価は織り込んでいます。売られすぎたので、ショートカバーも入っていると市場のニュースにあります。
テスラの株価が好調なのはどんな時期なのか?
ここまでごく簡単にテスラ株の動きとファンダメンタルズ的な要因を照らし合わせて見てきました。
ここまで記してきたことからわかるように、テスラ株は販売台数が順調に増えている時期の調子がいいです。特に販売台数がそれほど増えないと市場が思っている時に、実際には販売台数が伸びると、株価はよく上がります。
ツイッター社買収の影響を見ると、イーロン・マスク個人の会社外での動きも株価を左右することがわかります。
過去を見ると、中国市場での販売台数が重要になってくるとわかります。将来も同じです。足元の株価回復はある程度、販売台数が伸びるとの見込みが入ったものとなっています。値下げ効果によって、実際に販売台数が増えるかどうかには注目したいところです。
テスラだけでなく、他の銘柄でも同じようにして、株価の動きと業績や事業活動の中で起こった出来事を照らし合わせてみてください。そうすると、株価の過去のドライバー(動く要因)、将来のドライバーがわかるようになるでしょう。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガ「米国株&世界の株に投資しよう!」を配信中。
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