全体のわずか0.83%に当たるベスト20の週を逃しただけで、S&P500指数のリターンは2151%から383%まで減る。マーケット・タイミングをとるのは難しい
1970年から2016年まで2400週あまりの期間に、S&P500指数は2151%のリターンを見せてくれました。もし、一番リターンがいい週を逃したら、このリターンは1873%になります。一番いい10個の週を逃したら、リターンは820%です。もしもベスト20の週を逃したら──これは長さとしては全体のわずか0.83%に過ぎませんが、リターンは383%まで減ってしまいます。
何が言いたいかというと、マーケット・タイミングをうまくとるのは非常に難しいということです。
フィデリティの創業者、ネッド・ジョンソン氏は昔、私たちに「市場は女性の心みたいに神秘的なものだ」と呟いたことがありました。
[ネッド・ジョンソン氏が登場する参考記事]
●私の歩んできた道(4)中国株には素人とプロの間に情報格差がかなりある。中国株はガバナンスに注意! 怪しい会社も多い!
ジョンソン氏は運用の達人で、ファンドマネジャー時代、有名なピーター・リンチに匹敵するすばらしい成績を残しました。しかし、その彼でさえ、マーケット・タイミングをはかることは難しいと言っています。それぐらい市場全体の転換点を見抜くことは非常に難しいのです。
運用のプロだったら、それでもなお、そこにチャレンジする価値があるかもしれませんが、投資をフルタイムの仕事とはしていない、一般の方には勧めづらいです。
これに加えて、人間の心理は、相場が下がった時、危ないと感じた時、不景気と感じた時、投資したくないように働きます。しかし、これはすべきことの真逆です。
投資はある意味、他の人を相手にしているものなので、他の人がしていない、気づいていないことをしないと、なかなか儲けられないのです。誰かがパニックになって、怖がって、安く売ってくれないと、儲ける機会は少なくなります。
欧米の一部の銀行が危うい状況に。だから、株を買わずに様子見? それは危険なことです!
以上の考え方に加えて、金融経済における基本的な傾向で、お伝えしたいことがあります。それは長期だと、必ずインフレになるということです。
長期で現金を持つと損します。債券は現金よりは少しマシですが、本当の長期になると債券も損します。
2021年の年末からFRB(米連邦準備制度理事会)はインフレを抑え込む方針を示し、2022年春から利上げを続けてきました。アメリカではかなり急速な利上げが行われ、その影響により、直近ではアメリカの地銀、そして、クレディ・スイスなどのグローバルな銀行も危うい状況となりました。
このような状況の中、S&P500指数は2022年7月からレンジ相場となっており、大まかに言えば、横ばいの動きをしています。一般的な投資家はリスクを感じ、現金を増やし、株から離れがちだと思います。
しかし、マーケットがいつ反転するのか、リターンが大きく取れる週はいつなのか、判断することは難しいです。市場参加者が心配だらけの今の時期は、期間限定セールの真っ最中かもしれません。
しかし、セールの真っ最中であっても、自分がセールだと気づけないかもしれないのです。株はまだまだずっと下がるものだと思い込み、まだ買わなくていいやと様子見を決め込むことで、なんとなく安心してしまう人も少なくないことでしょう。
けれど、それは逆に危険です。
1円が100年後に1万円になることが保証されていた「100年定期預金」はいい投資になったのか?
歴史上、金融危機の問題は、インフレによって解決されてきました。インフレとは、お金の価値が物の価値と比べて下がることです。
「100年定期預金」の話はご存じでしょうか?
「100年定期預金」の証書は、明治33年(1900年)に1円の価額で発行され、100年後には1万円になることが保証されていました。年利9.75%の計算になります。かなり高そうな数字ですね。
明治33年は警察官の初任給が9円、新聞の月間購読料が45銭という時代ですから、1万円と言えば、当時は莫大な金額でした。何を尺度にするかにもよるのですが、当時の1円はおおよそ今の5000円程度に相当するようです。もしもインフレがなければ、当時の1万円は今の5000万円に相当することになります。みんな、いい投資になると思っていました。
しかし、第2次大戦などを挟む20年間ほどで消費者物価指数は約300倍にも上昇。そのあとも高度経済成長期、オイルショックなどで、インフレが進みました。「100年定期預金」が満期を迎え、1万円が戻ってきたとしても、それで買えるのは1万円のものだけです。5000万円のものは当然、買えません。インフレによって、お金の価値が大きく目減りしてしまったことがよくわかります。
インフレにやられずに資産価値を保つ、個人投資家ができるやり方とは?
歴史はまた再び、この道を歩んでいると思います。
金融危機になると、お金が増やされ、それによってインフレになります。そしてインフレになりすぎると、金利を上げて少し引き締めますが、コントロールできなくなることもよくあります。インフレは必然的なことと考えるべきです。
ここまでの話のポイント:
●マーケット・タイミングをとることは難しいです。
●インフレには必ずなります。
●インフレになるため、債券の長期保有では、資産の価値を保てない可能性が高いです。短期か中期の債券保有ならありだと思いますが。
では、個人投資家はどうすればいいでしょうか?
答えはドルコスト平均法で株を買っていくことです。相場の上げ下げに関わらず、少しずつ、定期的に株を買っていくのです。株を買うということは、その企業の価値を買うということです。そして、いい企業であれば、企業価値は上がり続けます。いい企業は働いて、進化していきますから。
相場が横ばいだったり、新聞を読むと心配するニュースばかりのときでも買うことをやめないようにしましょう。もう少し踏み込んでやりたければ、いい会社を安く買って、そして中長期的に保有することです。少しずつポジションを作るのもいいでしょう。
買うタイミングを分散することと、保有する期間を長期にすることで、リスクは減らせます。そうすると、冒頭で述べた「わずか数週間しかない、いいリターン」を取れます。
せっかくがんばって稼いだお金です。インフレになっても、その価値は減らさないようにしたいものです。以上のようにすれば、インフレにやられずに済むと思います。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
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