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10年以上の財務諸表を読み、
その会社はどこか当てるゲーム。
コロナ禍で大儲けも過剰設備投資していないK社とは?

2023年4月6日公開(2023年4月6日更新)
ポール・サイ
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 今回から投資のトレーニングのゲーム・手法を2つご紹介したいと思います。今回はその第1弾です。これは私がフィデリティ投信で調査部長だった時、アナリストの研修で皆にやってもらったものです。

会社名を伏せたまま、10年以上の財務諸表を読み、その会社はどこか当てるゲーム

 ゲームのルールは簡単です。ある会社の財務諸表を10年以上、プリントします。使う財務諸表はバランスシート(貸借対照表)、キャッシュフロー計算書、損益計算書(P/L)です。これらを研修中のアナリストたちに配ります。

 この時、会社名は言いません。もちろんセグメントなどの詳細も言わないです。その状況で、財務諸表だけを見て、その会社の業界、そして会社名を当てることがゴールになります。

 このゲームの趣旨は、会社の財務諸表を完全に理解することです。

 財務諸表は1つの言語に近いものです。このゲームをやることで、その会社はどういう特徴を持っているのか、どういうビジネスモデルでやっているのか、といったことを読む力がつきます。

 これは意外と当たります。そして、当たると自信もつきます。

大儲けの時期は2回。2008年にピークがあり、新型コロナ禍でも大儲け

 たとえば、当てにいこうとする銘柄をK社としましょう。

 まず、損益計算書を見ると、大儲けの時期が2回ありました。2008年にピークがあり、あとは新型コロナの感染が拡がっていた時期にも会社は大儲けしています。これが1つ目のヒントです。

 2008年までというと、中国スーパーサイクルがあった時期です。そして、新型コロナ禍では、サプライチェーン逼迫によって船賃の急上昇があったことが思い浮かびます。

 1つ目のピークを考えると、鉄鋼メーカーか海運会社かもしれないと思えます。しかし、新型コロナ禍では鉄鋼メーカーは特に大儲けしなかったので、そうなると、海運会社の可能性大と考えます。

 前回の経常利益のピークは1200億円台で、今回は6600億円ほどになりそうです。

 そして、バランスシートを見ると、2021年までは自己資本比率が30%台で、割と財務レバレッジが高い会社とわかります。2022年には自己資本比率が63%に上がっており、大儲けはしたけれど、設備投資をしたりして、事業を拡張することはあまりしなかったとわかります。

 新型コロナ禍で大儲けしたお金は借金返済と大規模な増配に充てたようでした。前回の配当のピークは一株当たりの年間配当額が80円台でしたが、2022年3月期のそれは200円でした。

財務キャッシュフローのピークと営業キャッシュフローのピークに2年のズレ

 キャッシュフロー計算書を見ると、2009~2010年に財務キャッシュフローが大きく増えており、資金調達を行って設備投資を行っていたと思われます。しかし、財務キャッシュフローのピークは営業キャッシュフローのピークの2年後でした。これはおそらくすでに発注したものがあって、設備投資をすぐには減らせなかったということです。

 そして、新型コロナ禍の時期には設備投資は増えませんでした。おそらく、新型コロナ禍で発注ができなかったのでしょう。

 この会社は川崎汽船です。

 ここまでこの会社の特徴を紹介してきた中で、どの業界、どの会社のことか、頭に浮かんだ読者の方もいるのではないでしょうか。このように会社の財務諸表を読んでいくと、その会社の特性がわかり、将来の業績予想に役立ちます。

川崎汽船 月足川崎汽船(9107)チャート/月足・20年(出典:SBI証券公式サイト) ※画像をクリックすると最新のチャートへ飛びます

今回、儲かっても過剰な設備投資はしていないので、次のサイクルのボトムは前回より浅いかも

 このように財務諸表を読んだ段階で、気がつくポイント、将来を占う上でさらに調べるべきポイントは…

(1)会社のバランスシートについてですが、負債が減って、財務レバレッジが大きく低下しました。これでまた財務レバレッジを効かせて、設備投資する原資を得たことになります。しかし、悪い設備投資をすれば、次のダウンサイクルにつながってしまいます。

(2)新型コロナ禍で大儲けしたことは特別なことだったのでしょうか? もう1回似たような条件が揃うことは可能でしょうか? このことを調べる必要があります。会社のビジネス構造は変わったのでしょうか? それとも変わっていないでしょうか?

(3)会社は儲かると、配当を増やしました。会社の配当政策に変化はあったのでしょうか? 配当性向は増えていますか? 配当性向はまだ低いレベルなので、そうでもないかもしれません。

 今回の新型コロナ禍で得た利益は、新型コロナ禍だったがゆえにすぐに設備投資には回せませんでした。少しサイクルが長引いたかもしれません。

 しかし、シクリカル銘柄(循環株)の会社は大儲けすると過剰発注する傾向があり、今回も同じようになりそうです。調べたポイントは業界全体の受注残高です。コンテナ船の受注残高は世界キャパシティの30%になっているので、次のダウンサイクルはそのうちやってくると思います。

[参考記事]
私の歩んできた道(3)アメリカの名門投信会社フィデリティで経験したシクリカル銘柄の見極め方。銀行株はもう追いかけない方がいい。その理由とは?

 このように判断するポイント、調べるべきポイントがいろいろと出てきます。

 財務諸表のゲームを簡単に紹介しましたが、読者のみなさんは自分で財務諸表を読んでみて、それに対する意見や感想がもしあれば、コメントしてみてください。

 このような分析に唯一の正解というものはありません。人によって着眼点が異なり、分析結果が違ったものになる可能性は十分あります。どこまでその会社の特徴に気づくことができるのか、いろいろと発見していくのは楽しいものです。今回の記事がみなさんの会社分析のお役に立てば幸いです。

 次回はファンダメンタル分析による株価チャートの読み方を紹介したいと思います。

 

●ポール・サイ  ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガ(「米国株&世界の株に投資しよう!」)を配信中。

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