「勝者のゲーム」と資産運用入門

ソシオネクスト(6526)急落から学ぶべき教訓とは?
個人投資家の「手っ取り早く儲けたい」は危険。
値動きが大きいIPO銘柄の信用取引は破産への道だ太田忠の勝者のポートフォリオ 第92回

2023年7月11日公開(2023年7月17日更新)
太田 忠
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ソシオネクストに売り殺到、ストップ安で株価が1日で23%の急落!

 先週木曜日の株式市場。日経平均株価は一時700円安まで売られて終値は565円安の3万2773円。日経平均の急落はパッシブ型上場投資信託(ETF)による分配金拠出のためのテクニカル的な売りに伴うものやそれを見越した先回り売りが大きな要因であったが、個別銘柄の下落でひときわ目を引いたのがソシオネクスト(6526)だった。株価は前日比5000円下落のストップ安となる1万6950円で取引を終えたが、あまりにも大量の売りが出たために実際の売買がおこなわれたのは大引けの1回のみ。比例配分はほとんど機能せず「売ろうにも売れない」状態になった。1日で何と23%安という急落ぶりである。

 急落の要因は前日の取引終了後に大株主である富士通、パナソニックHD、日本政策投資銀行が3社合わせて37.5%保有する株式を一斉に全株売却すると発表したことだ。今回売り出される株式は主幹事の証券会社を通じて海外投資家に販売される。ソシオネクストの浮動株はわずか9.7%。そこに突然37.5%の浮動株が出現したとなれば「これは事件だ!」と言いたくなるレベルである。もちろん公募増資などではないので利益の希薄化は起こらないし、ファンダメンタルズ的には何の変化もない。しかし、そういう冷静さを保てない心理的ショックが37.5%という数字である。需給悪化も甚だしい。

業績好調のソシオネクスト株はなぜ急落した?学ぶべき教訓とは?

 ソシオネクストは2022年10月に上場したが発足は2015年である。半導体業界に熾烈な開発競争が押し寄せる中、富士通とパナソニックHDが半導体設計開発の事業を統合して誕生。日本政策投資銀行は資金面から支援をおこなった。ソシオネクストの保有比率は富士通と日本政策投資銀行が15%ずつ、パナソニックHDが7.5%。半導体の設計開発に特化したファブレス企業であり、実際の製造は世界的なファウンドリー企業である台湾積体電路製造(TSMC)に委託している。2022年3月期の営業利益は84億円と前期比5.4倍、2023年3月期は217億円とさらに前期比2.6倍となっており業績は急拡大。株価はストップ安前日の7月5日時点で初値に対して6倍近くも上昇。今年に入ってからの日本株高を牽引する象徴的な銘柄の1つだった。

 今回のテーマは「ソシオネクストの急落から学ぶべき教訓とは?」である。いろいろと示唆に満ちたケーススタディだと思うので私なりに整理してみたい。

(1)IPO銘柄のロックアップに要注意
 上場後1年もたたないうちに上位の大株主が一斉に保有株を売り抜ける事態は普通ではないが、上場時の目論見書には「ロックアップ期間(売却禁止期間)は上場日から180日」と記載されている。要するに上場して半年後には売却してもよいということだ。そういう点を今回の急落に捕まった投資家たちはきちんと見ていたかどうか。新規株式公開(IPO)企業には必ず創業者や支援企業、あるいはベンチャーキャピタルなどが大株主に名を連ねている。大株主は上場後すぐには売却できないが、ロックアップ解除後は自由だ。IPO企業に投資する際は必ず注意しておかねばならない点である。

(2)全株売りの意味を読み取れ
 大株主はおそらくこれほど短期間のうちに株価が大きく上昇するとは思っていなかっただろう。上場して株価が6倍弱になれば正直「うっしっし」である。「実体よりかなり高く買われている」と思ったからこそ、小出しに売るのではなく一気に全株を売却した。要するに「今の株価は割高ですよ~」というメッセ―ジが発信されている。

(3)事業の将来性に「?」
 これは一歩深読みの内容となるが、確かにこれまでは高成長の続いてきたソシオネクストであるが、事業の成長性について懸念が出てきているように思う。なぜなら、半導体は高性能化するにつれて顧客が自前で設計する動きが強まっているからである。半導体の設計委託は今後需要が鈍化する可能性が高い。2024年3月期の営業利益は225億円と前期比4%増が会社予想であり「成長性は大幅鈍化」がすでに示されている。今後を見越した上で、富士通はITサービスに経営資源を集中する方針であり、半導体設計開発に加えて従来の主力工場は売却している。パナソニックHDも半導体事業からの撤退を決定しており、今後成長性の高い車載電池などの分野に注力する意向だ。要するにソシオネクストのビジネスの優先順位は低いのだ。保有株の売却は既定路線であり、今回の売却資金は成長分野に回される。

(4)信用倍率240倍というおぞましさ
 ソシオネクストの信用買い残は6月30日申し込み時点で214万株、信用倍率は何と240倍という恐ろしく過熱した状態になっている。信用取引の利用者が多い松井証券では「限界まで信用買いしていた人も多く見られ、追い証(追加担保の差し入れ義務)が発生するのを避けるため、売らざるを得ない人がかなりいる」との関係者の話も出ている。どうしてこれほどまで信用取引の人気が高まっていたのか、といえばそれはやはり値動きが凄かったからである。ソシオネクストの上場後の最高値は6月21日の2万8330円。2024年3月期会社予想ベースのPER(株価収益率)は55倍になっていた。そこから株価はやや下押ししていたため「これはチャンス!」とばかりに短期的な投機を求める投資家たちが集まっていた。

取引条件が不利で、精神的にハードな信用取引は絶対にオススメしない!

 「太田先生、信用取引についてどう思われますか?」という質問をいただいた。私の回答は「個人投資家の信用取引は全くオススメしておりません」である。信用取引は短期での期限返済が決められている不利な取引であり、借金であり、コストもかかり、証券会社だけが確実に儲かる仕組みである。優良企業を信用買いしてもファンダメンタルズに基づいた「今後の展望や成長性」は無意味になる。現物株への長期投資ならば「今後の展望や成長性」は重要だが、信用取引では例えば、最近顕著に見られるマーケット全体が下落する影響を受けるなど、個別銘柄以外の要因で株価が振り回されることが多い。優良銘柄でも短期の株価の動きはファンダメンタルズを反映しないことが多々あり、今回の「ソシオ・ショック」のような悲惨なアクシデントに見舞われると目も当てられない。

 信用取引は精神的にもハードな取引である。特に初心者の個人投資家は「短期で儲けたい!」「レバレッジの大きい取引の方が儲かる!」と思い込んで値動きの激しい銘柄を取引対象にする傾向がある。そこで成功できるのはごく一部の投資家だけ。数多くの消えていく投資家を私は見てきた。いかにギャンブル的な投資をしないか、が株式投資では大事なのだ。

日経平均が軟調でも「勝者のポートフォリオ」は好調。過去最高値を更新

 さて、太田忠投資評価研究所とダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチ(DFR)がコラボレーションして投資助言をおこなっている「勝者のポートフォリオ」。先週の日経平均は801円安と厳しかったが、「勝者のポートフォリオ」はほとんど下落せず市場をアウトパフォーム。7月4日に過去最高値を更新し、年初来高値も6銘柄と好調だった。

 7月5日(水)20時から恒例のWebセミナーを開催したが、今回のテーマは『金融相場に向けて着々と準備中』。すでに組み入れを開始したテンバガー(10倍株)候補銘柄の話も詳しくおこなった。平日夜にもかかわらず309名もの参加があり、Q&Aが盛り上がって予定終了時刻21時30分を1時間超過した22時30分に終了。すでに会員の方には、アーカイブ動画の視聴ならびにプレゼンテーションのPDFがご利用いただける。「勝者のポートフォリオ」は随時入会できるので興味のある方はぜひ一度HPに立ち寄っていただきたい。今の株式市場にはビッグチャンスが満ちあふれている。

●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。

※この連載は、ワンランク上の投資家を目指す個人のための資産運用メルマガ『太田忠 勝者のポートフォリオ』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、メルマガ配信の他、無料期間終了後には会員専用ページで「勝者のポートフォリオ」や「ウオッチすべき銘柄」など、具体的なポートフォリオの提案銘柄の売買アドバイスなどがご覧いただけます。原則毎月第一水曜夜は、生配信セミナーを開催。

 

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