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30年前と今の欧州旅行を比べて感じた日本人旅行者の違い。その背景は?為替、賃金、社会…この30年で日本は何が変わった?

2023年7月19日公開(2023年7月19日更新)
ポール・サイ
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1992年頃、はじめて日本を旅行したら、日本一周など長旅をしている人たちが多い印象だった

 私が初めて日本に行ったのは1992年頃、高校2年生の時でした。その時はJRパスに乗って東京から広島まで、途中の街をいろいろと訪れながら旅をしました。

 ユースホステルに泊まって、いろいろな人と交流ができました。ある夜、ユースホステルで、バイクに乗って日本一周しようとしていた人と同室になりました。その時、まだあまり日本語ができなかった私に、「明日の朝は早く出ます。出発する時、少しうるさくなったらすみません」ということをその人は説明しようとしていました。すごく礼儀正しい、ていねいな人だなと思いました。

 また、その時は日本一周など長旅をしている人たちが多い印象がありました。若い人たちは冒険心があって、いろいろなところに旅していました。

30年前に欧州旅行をしたときは、日本人の若者が結構いた

 大学に入ったあとの夏休み、私は1ヵ月間、イギリスへワーキングホリデーに行きました。今現在、私は欧州を旅行していますが、大学時代にイギリスへワーキングホリデーに行ったあとの1ヵ月は、今回と同じくように欧州を旅行しました。

[参考記事]
シアトル在住FIREが、スイスのリゾート地から経済番組に生電話出演! 日本は金利が引き上げられず、構造改革も実現しないため、円安はしばらく続く

 その時はスペイン、フランス、イタリア、ドイツ、オランダ、ベルギーに行きました。旅先には日本人の若者も結構いました。旅先のフィレンツェで出会った日本人の友だちとは今でも定期的に会っています。

 当時、猿岩石という若者2人が海外を放浪する旅のテレビ番組もあって、楽しく見ていました。

30年経った今回の欧州旅行では、ほとんど日本人の姿が見られない。そのワケは?

 あれから30年経った今回の欧州旅行では、ほとんど日本人の姿がなく、若者はほぼ見かけないようになりました。この違いはかなり大きいと思いました。

 なぜこうなったのでしょうか? 私が考えた理由は…

(1)為替の変動がありました。私が大学時代に欧州を旅した1995年頃、米ドル/円相場は1ドル=80~90円ぐらいでした。今回は1ドル=140円近辺ですので、日本人にとって欧州の物価は高くなり、若者は旅行がしにくくなりました。

米ドル/円 月足米ドル/円チャート/月足・約30年 出所:TradingView

(2)日本は長らくデフレで賃金が変わりませんでした。為替の変動がなかったとしても、日本と海外との価格差、賃金の差は大きくなり、海外の方が高くなりました。アメリカの大卒初任給は55万ドル(770万円)程度。それが日本だと250万円程度、高くても400万円ぐらいです。これは海外と大きな差があります。たとえば為替が1ドル=100円だったとしても倍ぐらいの差がつきます。

(3)日本は社会が内向きになりました。派手な起業家、ホリエモンなどは、既得権益者に潰されたとみられます。不正はあったでしょうが、それ以上に既得権益者からの圧力が強かったと思います。これを見て、若者はお金持ちになる意欲が薄くなったのではないかと思います。「お金持ち=すばらしい、目指したいもの」から「貧乏=物を欲しがらない・善」という考え方に変わりました。

日本人は「茹でガエル」になっている

 日本で生活していて、デフレの環境下にあると、このジワジワとした変化は鮮明には感じられないと思います。会社の同僚がよく言っていたたとえは、いわゆる「茹でガエル」です。

 30年間、知らず知らずのうちに、日本人の若者は海外に出たくても出られなくなってしまっていたのでした。

 このことは留学生についてもそうです。

 私はかつてフィデリティのアジア全体の採用を統括していました。日本人のMBA修了者は、全米トップの大学だと300~400人ぐらいしかいないと思います。その大半は会社員が社費で来ているものです。そのため、日本向けのアナリスト採用は少し難しかったのです。私がMBA課程にいた2000年頃はその倍以上の日本人学生がいたと思います。

 このような日本の状況は、これからの30年、変わらないと思います。賃金が倍にならない限り、あるいは賃金は変わらずに円が1ドル=80円ぐらいにならない限り、あるいは、資本主義で言われる「アニマルスピリット」が日本人に戻ってこない限り、トレンドに変わりはないと思います。

富は海外で蓄え、生活するのは物が安い日本にするのが一番いい

 そうなると、日本の若者はどうすればいいでしょうか?

 1つは手元にある資金を、海外含めて分散投資するべきです。今後30年というような長い期間、日本が変わらないという私の見立てが正しいならば、投資をちゃんとしておかないと、世界から取り残されてしまうでしょう。

 もしくは、高い給与をもらうため、英語を習得して、海外で就職するべきです。

 平均すれば海外投資のリターンは日本より高いので、海外に投資していれば、日本での初任給は低くても、海外の新卒との差をなんとか埋めることができるでしょう。

 あるいは、日本は賃金が安いのだから、起業して資本家となり、その安い労働力を利用して、稼ぐべきです。

 富は海外で蓄え、生活するのは物が安い日本にするのが一番いいのではないかと思います。稼ぐのは海外への投資や、高い賃金が得られる海外で働くこととし、その一方で、日本の低い賃金、すなわち安い物価・サービスを利用すれば、いい生活ができるでしょう。

 

●ポール・サイ  ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。

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