米国債格下げショックでトリプル安。日経平均株価は2日間で1300円安!
先週の日本株市場は急落した。その発端となったのが8月1日の大手格付け会社フィッチ・レーティングスによる米国債の格下げである。米国の外貨建て長期債の格付けを最上位の「トリプルA」から「ダブルAプラス」に一段階引き下げたことで激震が走り、株式市場だけでなく、債券市場、為替市場がともに売られる「トリプル安」という滅多にお目にかからないショックを引き起こした。
日経平均は8月2日に768円安、8月3日に548円安とわずか2日間での下落が1316円となり、8月1日の3万3476円から3万2159円まで3.9%もの下落となった。一方、肝心の米国市場はこの2日間でNYダウは414ドル安の1.2%の下落にとどまっており、その落差の激しさが目立つ。
格下げ対象は外貨建ての米国債で、ドル建ての米国債ではないことに注意
今回の格下げ対象は「外貨建て」の米国債であり、ドル建ての米国債ではないことに注意が必要だ。米国債の取引はほとんどがドル建てによるものであり、外貨建て取引はごく少数。なのでメインの米国債の取引への影響度という観点から考えると、ほとんど何の意味もない、と米国では冷静に受け止められている。
米国は2カ月前まで債務上限問題でガタガタしていたことは記憶に新しい。ただ、その後米政府の債務上限を一時停止することで与野党が合意し、問題は解決済みと見られていただけに、今回のタイミングでの格下げはサプライズだった。今回の主な格下げ理由は3つある。①今後3年間に財政悪化を予想、②政府債務の負担が高水準で増加、③債務上限問題の度重なる膠着と土壇場での解決が示すガバナンスの低下だ。ただ、それ以外の格下げ理由として2021年の米連邦議会襲撃事件まで挙げており、何か政治的な意図や恣意的な目的があるのでは、と穿った見方をされている始末である。格下げ発表後、イエレン米財務長官が反対声明を出し、政府高官からも「奇妙で根拠がない」といった冷やかな声が上がっている。
影響が限定的にもかかわらず、日本株の下げ幅が大きかった理由
米国債の格下げで真っ先に思い浮かぶのが、米格付け会社スタンダード・プアーズ(S&P、現S&Pグローバル)が2011年8月に長期債務格付けを「トリプルA」から「ダブルAプラス」に一段階引き下げた事例だ。皆さんも覚えているだろう。この時は米国市場もかなり反応してNYダウは16%下落したが、今回の影響は限定的である。
日本株の下げが大きかった理由は、今回の米国債格下げが年初から好パフォーマンスを演じていた日本市場への格好の利益確定売りの材料にされたにすぎない。日経平均は2022年末から今年7月末時点までで27%上昇し、NYダウの7%高や欧州市場の10%程度高などを圧倒。米国債の格下げで米長期金利は上昇し、グローバル運用の投資家たちはポートフォリオの運用リスクを抑える行動をとった。その過程で最も含み益が大きく、流動性の高い日本株が真っ先に売られたという形だ。もちろん短期筋による先物主導の投機的な売りもかなり出ていると思われる。
ウォーレン・バフェットやJPモルガンCEOなどが今回の格下げに懐疑的
米国債格下げに関するマーケット関係者の意見をみてみよう。「ばかげている」とコメントしたのは、米CNBC番組に出演した米銀最大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)だ。「米国に依存する他国がより高い格付けを得ている」「借り入れコストを決めるのは格付け会社ではなく市場だ」と述べた。また、運用会社RBCグローバル・アセット・マネジメントのアンドレイ・スキバ氏は「米国債は最も強力かつ流動性の高い資産であり、格下げによって需要が細るとは考えにくい」とコメント。そして、米投資会社バークシャー・ハザウェイを率いるウォーレン・バフェット氏は「世の中には心配しなくていいことがいくつかあり、これ(今回の格下げ)もその一つだ」と語ったと伝えられている。
日本株の上昇トレンドは不変。追い風が吹いている5つの理由とは?
今年の日経平均は6月19日に3万3772円の高値を付け、その後調整して7月12日の直近安値3万1791円から反発モードに入っていた。8月4日時点で3万2192円と3万2000円に近いレベルまで下落しているがあまり心配する必要はない。徐々に戻りを試すと考える。
日本株に追い風が吹く要因は5つある。①本格的な海外投資家の買い、②日本企業の今後の資本効率改善努力(低PBRからの脱却)、③日本株はグローバルで割安、④世界でも珍しい金融緩和政策継続、⑤来年から始まる新NISAスタートを活用した国民の資産形成の高まり、だ。加えて、米連邦準備理事会(FRB)の利上げは最終局面にある。2024年に入れば急速な金融引き締めから転換して、金融緩和モードに入ると予想している。すなわち「金融相場」の到来だ。金融相場が到来すれば、日経平均は1989年12月の最高値3万8957円を超えると私は考えている。グロース銘柄にも大きな活躍が見込まれる。大きな流れを見ることが重要である。
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●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。
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