岸田首相の所得減税策。閣僚からも異論が出るなど四面楚歌の状態?
所得減税は「税の還元」ではない ―。
先週水曜日の国会。岸田文雄首相が「税収増を国民に還元する」と打ち出した所得減税に対して、鈴木俊一財務大臣が「過去の税収増はすでに支出されている」「減税をした場合は国債発行額が増加する」「還元の原資はない」との明快な見解を示し、物議を醸している。
11月2日に策定された経済対策では、賃金上昇が物価高に追いついていない国民の負担緩和やデフレ脱却のための一時的措置として減税を実施するとの大義名分を掲げ、過去2年間の税収増を分かりやすく直接還元すべく、2024年6月から減税(国民1人あたり所得税3万円、住民税1万円の4万円)をスタートできるよう税制改正を行うとのことだった。減税規模は総額で3兆円台半ばを見込んでいる。
住民税非課税世帯への7万円給付は、高齢者世帯のバラマキに他ならない
所得税も住民税も納めていない国民には減税の恩恵が届かないため、住民税非課税世帯に対しては一世帯当たり7万円を給付するとのこと。しかし、住民税非課税世帯の6割強は高齢者世帯だ。実質的には高齢者世帯へのバラマキに他ならない。
そもそも今回の岸田案が出された時点で、明らかに選挙対策を狙ったものであることが見透かされており、当然ながらこのような政策に期待が持てるという国民はほぼ皆無の状況だった。要するに「増税メガネ」と揶揄されるのが嫌で減税にこだわったがゆえの政策である。それが国民に見透かされた。「策士、策におぼれる」というわけである。
税収増を国民に還元する国は皆無。日本は財政赤字の埋め合わせが妥当
ところで、グローバルを見渡しても「税収の増加を減税で国民に還元する」などという政策を行っている国などひとつもない。物価上昇で税収増がもたらされた場合、国民生活の質を保つため政府は歳出についても物価上昇分だけ増やす必要がある。税収額も増えるが歳出額も増加するため財政収支は変わらない。従って、鈴木財務大臣が述べたように「国民に還元する原資はない」ことになる。
ましてや日本は財政赤字が続いており政府債務は増加し続けている。税収増加分を国民に還元するのではなく、財政赤字縮小に使うべきである。新型コロナ対策において政府は給付金などの巨額の経済対策を実施し、それを国債の発行で賄っている点を見落としてはならない。コロナ禍後の経済正常化で税収が増えるのは当然であり、財政赤字を埋め合わせるのが最も妥当な考え方である。
減税策が政権浮揚につながった例は乏しい。またもや同じ轍を踏むのか
歴代政権もたびたび打ち出してきた減税策。しかしながら政権浮揚につながった例は乏しく、むしろ混乱を招いたというのが教訓である。税金を一時的な政治の思惑で使うのは本末転倒も甚だしい。1998年の橋本龍太郎内閣が所得税の定額減税に失敗して橋本氏は退陣、後を継いだ小渕恵三内閣も不作、2007年の安倍晋三内閣でようやく軌道修正がなされた。また過去の失敗の轍を踏もうとしているのだろうか。
今回の一連のドタバタを受けて、岸田首相は年内の衆院解散を見送る意向を固めたと報じられている。「岸田の減税案」で内閣支持率の急回復を図る算段だったが、アテが外れて解散タイミングを完全に逸してしまい、来年秋の自民党総裁選での再選も雲行きが怪しくなっている。橋本内閣のように退陣を迫られるのではないだろうか。政権浮揚への「切り札」だったはずの所得税減税には「選挙目当て」とのイメージが定着し、自民党内からも危機感が出ている。
国民生活を本気で良くしようという気概のある政治家がいない
私はいつも思うのだが、政治家とは結局、政治業を収入源や自己名誉とする人たちの集まりであり、国民生活を本気で良くしようという気概を持つホンモノの政治家にほとんどお目にかかることがない。日本にとって大きな問題だと思うが、政治に関しては、すべて政治家の都合のよい仕組みがガッチリと敷かれているため一朝一夕に改善されるものではない。もはや日本の政治は行き詰っていると思うが、この既得権益をぶち壊す第三者的立場がない以上、良くなることは期待薄である。
選挙の投票率が5割程度の現状を嘆いて、「選挙に行こう!」という真っ当なスローガンを言う人たちもいるが、結局今の日本には与党にせよ野党にせよ「良い選択肢」がないのが問題なのだ。だから選挙に行っても変わらない。米国のように大統領を直接選挙で選ぶというダイレクトな仕組みがあればまだマシだと思うが、日本の場合は政権を担っている政党が党人事で首相を選ぶ仕組みのため、国民の意思で首相を選ぶことができない。岸田首相を変えることができない。
国民が求めるのは筋の通った政治運営。岸田首相は今すぐ軌道修正を!
私は今の政権が自民党であり、岸田首相である限りは、彼らを応援したいというのが本音だ。我が国の将来を担っているのだから当然だ。だが、今のままではダメだ。軌道修正を図らないと国民からの信認は得られない。「岸田、しっかりしろ!」「岸田、ブレるな!」と考えている人たちは非常に多い。国民が求めるのは筋の通った政治運営である。
「物価高対応のために自分の給料とボーナスはアップ!」「国民には4万円をプレゼント、自分には46万円!」などと言われている始末である。自主返納を決めても国民は納得しなくなっている。政権の末期的な症状が立ち込めてきている。「えっ、何だって? 神田財務副大臣が税金を滞納? どこまでマンガかな。笑わしよるな」。
政治不信を嘆くだけでは変わらない。人生も資産運用も自分で切り拓こう
ところで、最後に重要な話。「政治がダメだから、自分の生活が良くならない」という人たちがいるが、それはまた違う問題だ。自分の不遇を政治や社会のせいにする人たちに未来はない。なぜか? 自分で人生を切り拓こうとしないからだ。政治がダメでも人生はいくらでも切り拓ける。「そんなの無理」と言っている人たちは、そもそも切り拓くことをあきらめているか、切り拓く努力を放棄している人たちだ。私はそう思う。
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