日本の消費は二極化している。家計の消費支出が全体として伸び悩む中でも、主要百貨店は業績好調
最近、日本の消費が二極化しているというニュースを見ました。
日本全体の家計の消費支出はインフレの影響で伸び悩んでいます。しかし、日本の代表的な百貨店は、そんなインフレ環境下にもかかわらず、業績好調なのです。
百貨店銘柄の時価総額上位3社、三越伊勢丹ホールディングス(3099)、髙島屋(8233)、J.フロントリテイリング(3086、大丸、松坂屋などを運営)の株価パフォーマンスは、以下のチャートのとおり、過去1年間でTOPIXを大きく上回っています。
家計の消費支出が全体として伸び悩む中でも、主要百貨店は強力なインバウンド消費と富裕層による高額消費の恩恵を受けているのです。
一方、ドラッグストアなどの比較的低価格帯の小売業者は、消費者の購買意欲の低下に苦しんでいます。
株価上昇が富裕層に大きな資産効果をもたらしており、主要百貨店はその恩恵を受けている
この二極化の傾向は今後も続くと予想されており、百貨店各社は富裕層向けのサービスを強化しています。
たとえば、三越伊勢丹HDは特別な顧客向けに店舗で取り扱いのない特別企画品などを紹介するイベントで2月に過去最高の売上を記録したと発表しています。髙島屋も富裕層向けの「外商」の売上高を伸ばしています。
株価上昇が富裕層に大きな資産効果をもたらしており、百貨店各社はその恩恵を受けています。そして、富裕層向けの施策を強化しているというわけです。
インフレのため、一般消費者は生活必需品の支出を最低限に抑え、ドラッグストアなどは厳しい状況
その一方、先ほど述べたとおり、ドラッグストアなどは厳しい状況にある会社が多いです。
日本の賃金は上がっていますが、それがインフレに追いつかず、まだ実質賃金はマイナスの状態が続いています。これは懸念材料であり、一般消費者は生活必需品の支出を最低限に抑えているようです。
日常的な支出を節約し、その分のお金を娯楽や趣味に回すという近年のトレンドも、生活必需品系の小売業には厳しい状況をもたらしているようです。
この展開はある意味、経済の教科書が予想するとおりです。
インフレは低所得の人ほど大変なことなのです。インフレには消費税と同じように、逆進性がかなりあります。
高所得者、資産家は賃金上昇、あるいは資産価格上昇によって、インフレがさほど苦になりません。その一方、普通のサラリーマン、資産をたくさん持っていない家庭はインフレに苦しんでいます。
そして、このインフレは大きなトレンドです。世界がインフレになっています。しばらく前よりは落ち着いてきたものの、世界の多くの国がまだ高水準のインフレ状態にあります。
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世界のほとんどの国は大きな政府債務を抱えている。それを解消する1つの方法は増税だが、それは政治的にやりづらい
また、世界のほとんどの国、特に主要国(中国、米国、日本)の政府は大きな債務を抱えています。日本のように自国通貨で借金している政府の場合、インフレによってその債務が解消されるケースが多いです。
政府の債務を解消するもう1つの方法は増税ですが、増税は政治的にやりづらいことです。消費税を増税するなら、インフレと同じような逆進性の問題が残ります。
もしも、消費税を増税するなら、政府は「○月○日に消費税を増税する」と事前に発表し、実際に○月○日になれば、きっちり消費税は増税されます。増税は政府の政策によってダイレクトに実施されます。そして、増税を歓迎する国民はあまりいないでしょう。
政府債務を解消していくには、増税よりもインフレの方が政治的にはやりやすい
一方、インフレは政府などの政策とそこまでダイレクトには結びつきません。日本政府と日銀はデフレ脱却に向けた政策を実施してきましたが、大きな成果を上げるにはとても長い年月がかかりました。
インフレ率には政府や日銀の政策も影響を与えますが、インフレはそれだけで決まるものではなく、他の要素も影響します。仮に政府が「×月×日からインフレ率を2%にします」と発表しても、必ずそうなるわけではありません。
インフレ率は増税と異なり、そこまでダイレクトに政府の政策と結びついていないため、増税よりも、インフレによって、政府債務を解消していく方が政治的にはやりやすいのです。
インフレの時代に、富裕層でない一般的な人はどうすればいいのか?
では、このようなインフレの時代に、富裕層でない一般的な人は、どうすればいいのでしょうか?
それは投資することです。投機ではなく、投資です。
富裕層でなくても、富裕層がやっていることと同じようなことをやらなければいけません。投資をしていないと、インフレ時代に適応できず、取り残されていく可能性がかなり高いでしょう。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
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