米国債券市場で2年超に及んだ「逆イールド」現象がようやく解消へ
9月4日の米国債券市場。2年債利回りと10年債利回りがともに3.75%となり、イールドギャップが0.00%となった瞬間である。これにより2022年7月以降、一貫して続いてきた「逆イールド」が解消した。非常に大きな出来事であり、株式投資に関わる全ての投資家が決して見逃してはいけない重要イベントである。
逆イールドとは何かを改めて説明すると、10年債利回りから2年債利回りを引いた利回り差がプラスではなくマイナスになることである。プラスの「順イールド」が通常であるが、逆転現象のマイナスが出現すると「逆イールド」と呼ばれる。逆イールドを測定する最もポピュラーな指標が10年債と2年債の長短金利差である。
通常、債券の利回りは年限が長くなるほど返済リスクを踏まえて金利は高くなる。将来の経済や物価が不確実で見通せない分、高い利回りを投資家は要求するからだ。なので1年債よりも3年債、3年債よりも10年債、10年債よりも20年債の方が利回りは高くなる。当然だ。
短期金利は足元の金利動向、長期金利は景気見通しの影響を受けやすい
期間の異なる債券利回りを見る上で重要なポイントがある。それは短期金利は足元の金利動向の影響を受けやすく、長期金利は長期的な景気見通しの影響を受けやすいということだ。足元の金利動向とは米連邦準備理事会(FRB)の金融政策である。2022年3月29日に「逆イールド」が瞬間的に発生。2019年夏以来、約2年半ぶりに出現したことを覚えておられるだろうか? 当時の債券市場では、FRBが急激なインフレを抑え込むために、これまでのゼロ金利政策を解除して金融引き締めへと転換。このため、今後の継続的な利上げを見据えて短期金利は上昇しやすくなった一方、長期金利はウクライナ情勢や商品価格市場の高騰などがもたらす不透明感で景気見通しに自信が持てず金利が上がりにくい状況となった。中長期的な景気減速とそれに伴う利下げを同時に織り込んだわけだ。だから逆イールドが出現した。
その後は皆さんもご存知の通り、FRBによる利上げがどんどん行われ、その影響を受けて短期金利が加速的に上昇。一方、長期金利は緩やかな上昇が常態化。そして2023年6月30日には「-1.06%」という逆イールドが出現し、1981年以来42年ぶりの大きさとなった。通常ならば起こりえない特殊なイールドギャップだ。FRBのパウエル議長をはじめとする現役の金融政策担当が誰一人として経験したことのない事態が発生した。だが、異常な状況は未来永劫は続かない。「-1.00%」レベルだった逆イールドもいよいよFRBの利下げ開始という局面を迎えて解消される形となった。
逆イールド発生と解消は景気後退のシグナルと解釈されるが、今回は?
一般的に逆イールド発生とその解消は「景気後退のシグナル」と解釈される。FRBが金融引き締めに動くことで景気が冷え込む展開を投資家が読み取り、債券市場で起こった現象が時間をおいて、その後の景気動向に反映されるからだ。過去の動きを見るとほぼ経験則になっている。逆イールドが解消されると景気後退がその後、実際に発生している。2000年代初頭のITバブル崩壊やリーマン・ショックの前にもこの現象は出現していた。直近では米中貿易摩擦が激化した2019年に発生し、その後の新型コロナ感染拡大で世界経済が大幅なマイナス成長に陥った。
ところで、2023年7月4日の第91回コラム『日本以外の先進国での逆イールド拡大が顕著に』において私は次のように述べた。「米国の-1.06%もの逆イールドは数字こそ非常に大きく見えるが、これはやはり短期かつ最速ペースでの大きな利上げを行った面が色濃く出ているのが要因」「実際の景気減速は“それほどでもない可能性が高い”というのが私の見方である」と。この考えは今でも全く変わらない。あれだけの高金利が続いていたのに米経済は個人消費も企業活動も大きな悪影響を受けず、ソフトランディング(軟着陸)に向かって進んでいる。
今回の逆イールド解消の最大の要因は2年債利回りの急低下だ。2年債利回りは9月11日に3.6%台と7月末から0.7%近く低下。一方、10年債利回りの低下幅は0.4%超に留まっている。足元で急速に進む利下げの織り込みが2年金利の低下の主要因だ。非常に分かりやすい。
FOMCの利下げ幅は超重要。9月19日ついに金融相場到来の号砲が鳴る
ところで、逆イールドの解消とともに短期的に重要なポイントがある。それは、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の利下げ幅がどのようになるかだ。現在の政策金利は5.25%~5.50%であり、リーマン・ショック前を上回る水準にある。その高水準から第1弾として行われる利下げ幅が通常の「0.25%」なのか、それとも倍速の「0.50%」なのかはFRBの今後の金融政策のメッセージとして重要な意味合いを持つからだ。
利下げに重要な判断を与える直近の経済指標を見ると、8月の雇用統計は+14.2万人と予想の+16.1万を下回り、失業率は前月の4.3%から4.2%に低下、8月の消費者物価指数(CPI)のコア指数は前月比+0.3%と予想の+0.2%を若干上振れ、また同月の卸売物価指数(PPI)は前月比+0.2%と予想と一致した。要するにほぼ想定通りの状況となっており、数字を見る限りは通常幅の0.25%の利下げが行われると見るべきである。
「景気減速は株式市場にマイナスではありませんか?」という質問を私は度々受ける。世間の常識では「景気が悪くなって企業業績が悪化すれば株安の要因」という捉え方になると思うが、「世間の常識は株式市場の非常識」である。景気後退するからこそ利下げするのであって、金融緩和によって株式市場が活性化される。「不況の株高」という言葉を聞いたことがあると思うが、まさにこの現象を指している。金融相場到来により株高になる、というのが株式市場だ。いよいよその号砲が今週9月19日の未明に鳴る。楽しみである。
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●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもDFRへのレポート提供によるメルマガ配信などで活躍。
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