◆こどもの頃、川崎球場に通い、カミソリシュートの平松、ライオン丸とあだ名されたシピンをスタンドから応援した。当方、大洋ホエールズの時代から、年季の入った横浜ベイスターズのファンである。そのベイスターズがクライマックスシリーズ(CS)を下剋上で勝ち上がり、日本シリーズでパ・リーグの覇者ソフトバンク・ホークスと対戦している。
◆リーグ優勝の価値が薄れるとCSに否定的な見方をするひともいるが、大リーグだってプレイオフがいちばん盛り上がる。今年のプロ野球セ・リーグのCSは大いに楽しませてもらった。ベイスターズはCSファーストステージで、昨年「アレ」の流行語まで生み38年ぶりに日本一になった阪神タイガーズを2連勝で撃破。ファイナルステージも巨人に3連勝で王手をかけ、その後追いつかれはしたものの最終戦で競り勝った。レギュラーシーズンで苦手とした巨人を相手に信じられないような好ゲームを演じた。
◆まさに短期決戦のなせる業だろう。長いペナントレースで結果を残すのは総合力、つまり地力がものをいう。しかし、ポストシーズンの短期戦では勢いに勝ったチームに分がある。勝負事には多かれ少なかれ「運」の要素が入り込むものだが、短期戦の勝敗ではその比重が大きくなる。1回や2回はまぐれで勝つことがあっても、そう何度もまぐれは続かない。長いペナントレースを運だけで勝ち抜くことはできないが、短期ではそのまぐれで勝ち上がることが可能なのだ。
◆金融教育の必要性の高まりを受けて、今年4月にJ-FLEC(金融経済教育推進機構)が設立された。J-FLECは多様なプログラムを提供し、我が国の金融教育推進を促進しようとしている。その中のひとつに「株式学習ゲーム」というものがある。仮想所持金(1,000 万円)をもとに、東京証券取引所に上場している銘柄について、どの銘柄を売買するのか議論しながら、実際の株価に基づいて株式の模擬売買を行うシミュレーション教材である。株式の模擬売買を通じて、株価変動の背景となっている現実の経済・社会の動きに学生たちの目を向けさせることを目的としている。
◆非常によくできたプログラムで、僕も大学の授業で採用し、学生たちをこのゲームに参加させている。日々の株価が各チームのポートフォリオに反映され、毎日順位が入れ替わる。上位になったチームには「優」の評価を与える、としたものだから学生たちの目の色が違う。しかし、ここで問題が。後期授業の終わりは12月末なのだ。そこまで2か月あまりの株価変動で競うことになる。それでは本来、株式投資に必要な長期・分散投資の重要性を体得させることは難しい。まあ、そのことを分かったうえで、あくまで株式投資というものに触れてもらう、きっかけづくりとしての利用ならよしとするか。
◆しかし、J-FLECも金融教育の旗振り役なら、自身がもっと理解を深めるべきところが多分にある。株式投資ゲームの「所要時間」の欄には「1か月以上が望ましい」とある。但し書きを読んで、さらに首をひねった。「参加期間が短いと株価の動きと社会の動きの関係が分かりにくくなります」。これをつなげて読めば、「1か月未満の短い参加期間では株価の動きと社会の動きの関係が分かりにくくなるので、参加期間は1か月以上が望ましい」ということか。もっと長期の期間を推奨するべきであることは言うまでもない。
◆短期決戦だろうが、勝ちは勝ち。確かにそういう見方もあるかもしれない。しかし、現実にはいくら短期だろうが、そう簡単に勝たせてもらえるものではない。株式投資も、むろん日本シリーズも。パ・リーグを圧倒的な勝ちっぷりで制したホークスとの力量差は明白だ。わかっているけれど、それでも、がんばれ!ベイスターズ!
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