イーロン・マスク率いるDOGE(政府効率化省)の真の目的とは何か?
最近、イーロン・マスクとDOGEがアメリカで大きな話題となっています。
DOGEとは「Department of Government Efficiency(政府効率化省)」の略であり、そのトップがイーロン・マスクです。
DOGEはトランプ大統領の大統領令によって政府機関の1つと位置づけられていますが、「省」と名前がついているものの国務省や国防総省といった既存の「省」と同種の組織ではありません。
略称のDOGEは、イーロン・マスクが推す暗号資産(仮想通貨)、ドージコインのティッカーシンボルと同じなので、当初はそのことも話題になっていました。
また、政府効率化省という名称からは、文字どおり、その目的が政府を効率的に運営することにあると思えます。
もちろん、そういった面もあるのですが、実はDOGEが持つ真のミッションはそれだけではないのです。DOGEは、長年に渡り、イーロン・マスクや共和党が掲げてきた目標、「ウォーク・マインド・ウイルス(Woke Mind Virus、覚醒思想ウイルス)の駆除」を目指していると考えられるのです。
![DOGE(Department of Government Efficiency、政府効率化省)のX(旧ツイッター)公式アカウント](https://dfinance.ismcdn.jp/zai/mwimgs/c/6/600/img_c6e15b742999bf53cda8a5baaf810bb3106299.jpg)
「ウォークネス(Wokeness)」とは何か?
ウォーク・マインド・ウイルスとは何か理解するためには、まず、「ウォークネス(Wokeness)」という概念について知る必要があります。
ウォークネスは、アメリカが本質的に人種差別的な国家であるという信念を基盤とし、この「原罪」を是正するために、あらゆる分野で「反人種差別」的な行動、つまり非白人を優遇する措置を推進すべきだとするイデオロギーを指します。
トランスジェンダーの権利運動もこのウォークネスというイデオロギーの一環と見なされることが多いです。
そして、イーロン・マスクなどは、ウォークネスが過剰に進むのは人々がウォーク・マインド・ウイルス(覚醒思想ウイルス)に感染しているようなものだと批判しているのです。
【ウォークネスに関する参考記事】
●社会的正義を追求しすぎる「ウォークネス」をイーロン・マスクなどが批判! トランプ新政権が進める「反ウォークネス」の動きはESG投資への強烈な逆風に
2020年以降、抗議運動などの形をとったウォークネス的な動きはあまり目立たなくなりましたが、その一方、ウォークネスは高学歴のリベラルな人々の間では正統な価値観として定着し、企業や大学、政府機関におけるDEI(多様性・公平性・包括性)プログラムの拡大を促すことにつながっています。
この影響により、政府の人事や政策決定にイデオロギー的な偏りが生まれ、公務員層にも影響を与えているのです。
「ウォークネスの排除」がトランプ政権の1つの政治的目標
トランプ政権の1つの政治的目標は「ウォークネスの排除」です。
イーロン・マスクがウォークネスを排除しようとする理由は、アメリカの主要な制度がこのイデオロギーに支配され、イデオロギー的な偏りを生んでいると考えているためです。
彼は、「ウォークネス」が「マインド・ウイルス」として広まり、DEI政策を通じて特定のグループ、特に白人男性に対する逆差別を助長していると批判しています。また、この政策が能力や効率性よりも政治的イデオロギーを優先していると考えています。
イーロン・マスクは、ツイッター(現X)を買収した際も、この進歩的なイデオロギーの影響を排除しようとしました。
そして現在、DOGEを通じて連邦政府の構造を変え、リベラル寄りの官僚を解雇し、より保守的、あるいはイデオロギー的に中立な人材に置き換えようとしているのです。
彼の最終的な目的は、アメリカの各種制度に対するリベラルな影響力を弱め、能力主義と効率性を重視する制度へ転換することだとされています。
DOGEの真の目的は連邦政府の官僚機構のイデオロギー的な性質を変えることにある
つまり、DOGEの真の目的は、単なる財政緊縮や政府支出削減ではなく、連邦政府の官僚機構のイデオロギー的な性質を変えることにあるということです。
特に、官僚機構は高学歴な人々が多く、歴史的に民主党寄りの傾向が強いです。さらに、高い地位にある人ほどその傾向が強まります。
DOGEは政府の各機関にチームを配置し、支出削減や人員削減を行うだけでなく、政府プログラムの方向性や職員のイデオロギー的傾向を変えることを目的としている可能性が高いです。
つまり、政府を「小さくする」のではなく、「トランプ大統領とイーロン・マスクにとって、より機能しやすいものに作り変える」ことが本質的な狙いだと考えられるのです。
これは1回目のトランプ政権時の教訓から生まれた戦略でもあります。
1回目のトランプ政権では、官僚などの抵抗によってトランプ大統領は多くの政策をスムーズに導入することができませんでした。しかし、今回は違う展開になりそうです。
なぜイーロン・マスクは若い人材をDOGEに採用するのか?
イーロン・マスクはDOGEで若い人たちを重用していますが、その理由は、若者はまだ固定化されたイデオロギーを持っていない「白紙の状態」である可能性が高いためです。
これは、毛沢東が文化大革命時に若い紅衛兵を活用した戦略と類似していると思います。若者の方が新しい考え方を受け入れられやすいと考えられているのです。
共和党が重視するのは能力主義、民主党が重視するのはDEI(多様性・公平性・包括性)
一部のメディアは、DOGEの動きを「独裁的だ」「違法だ」「差別的だ」と批判しています。しかし、共和党と民主党の間にあるイデオロギーの違いは単なる「差別」の問題ではなく、「ウォークネス」という概念をどう捉えるか、そして、アメリカの差別をどのように是正するべきかについての意見の違いにあります。
共和党が重視するのは「能力主義(Meritocracy)」です。共和党は個々の能力に基づいて機会を与えるべきだと考えています。
一方、民主党はDEI(多様性・公平性・包括性)を通じて、歴史的な不平等を是正すべきだと考えています。
そのDEIを共和党は「逆差別」と見なしており、このことがアメリカ政治における大きな対立点の1つとなっているのです。
投資の観点から見ると、アメリカはカオスを乗り越えて成長していく社会であることが重要。ここにアメリカの活力の源泉がある
アメリカは現在、非常に二極化した社会となっています。これは一見すると大変な状況に思えますが、アメリカという国は、このような社会の変化に適応しながら進化し続ける力を持っているとも言えます。
メディアは常に対立する側を「道徳的に間違っている」ものとして描こうとしますが、私たちはそれぞれの陣営について、その行動の本当の動機を見極めることが重要です。
投資の観点から見ても、こうした社会の適応能力こそがアメリカの活力の源泉となっており、イノベーションを生み出す原動力になっていると言えるでしょう。
アメリカはこのような調整を繰り返しながら成長し続ける社会であり、それが世界の投資家から信頼される理由の1つでもあります。
DOGEを巡る動きなどを見ていると、みなさんはアメリカ社会がカオスに陥っていると思うことがあるかもしれません。しかし、実はそれこそがアメリカのシステムが健全であることの証になっているのです。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
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