お金で幸福は買えるのか?
お金で幸福は買えるのでしょうか?
このテーマは長年議論されてきましたが、近年は具体的なデータを使って深くこの問題を掘り下げた研究が行われています。
行動経済学の創始者として知られるダニエル・カーネマン、そして経済学者のアンガス・ディートンの2人が共同研究して、2010年に発表した有名な論文では、年収7万5000ドル(論文発表時の為替レートで約630万円)を超えると幸福度の上昇が鈍化することが示されました。
デフレ・低インフレ時代の長かった日本と比べ、アメリカは相対的にインフレ率の高い国ですから、2025年現在、この閾値は約12万ドル以上(現在の為替レートで約1850万円以上)に上がっている可能性があります。
一方、ここ3年ほどの日本はインフレ率が上がってはいるものの、日本の物価はまだまだ相対的に安いため、幸福度が鈍化する閾値は約1000万円程度と見積もることができます。
この収入レベルであれば、基本的な生活は安定し、快適に暮らしていくのに十分とされており、それ以上の収入は必ずしも主観的な幸福感を大きく向上させないという結果が出ています。
お金が不足しているとストレスや不安が増加する
一方で、お金が不足しているとストレスや不安が増加することもデータで示されています。
たとえば、2020年にイギリスで行われた調査では、家計収入が低い人々の約50%が「頻繁にストレスを感じる」と答えたのに対し、高収入層ではその割合が20%以下でした。
このことから、基本的な生活費や緊急時の資金が確保されていない場合、精神的な幸福が大きく損なわれることがわかります。お金が「安心」をもたらし、それが幸福の土台になるのです。
幸福度の高い国々は、必ずしも1人当たりGDPが最も高い国ではない
しかし、幸福の本質はお金だけでは測れないとも言えます。
2021年のワールド・ハピネス・レポートによると、幸福度の高い国々は、必ずしも1人当たりGDPが最も高い国ではありません。
たとえば、フィンランドやデンマークは、経済的には中程度の豊かさでありながら幸福度が高く、社会的支援、健康、自由度など非金銭的要因が幸福度に大きな影響を与えていることがわかりました。
このデータは、物質的な豊かさ以上に、社会的つながりや心理的な満足感が重要であることを示しています。
お金は自分のために使うよりも、他人のために使う方が幸福感が高まる
さらに、個人の消費行動にも注目すべき点があります。
ハーバード大学の研究では、お金を自分のために使うよりも、他人のために使う方が幸福感が高まるという結果が出ているのです。
慈善活動や友人へのプレゼントなど、他者との関係を強化するためにお金を使うことが、個人の幸福感を向上させる鍵となる場合が多いのです。これは、お金が「どう使われるか」によって幸福感が左右されることを示唆しています。
世界で最も長寿の地域の1つ、沖縄で高齢者の幸福感を高めている要素とは?
アメリカでベストセラーになったダン・ビュイトナーの著書『The Blue Zones(ブルーゾーン)』で紹介されている世界で最も長寿の地域の1つが沖縄です。
[『ブルーゾーン』に関する参考記事]
●お金持ちになっても、なぜ幸せでない人がいるのか? 海外でブームの「生きがい(Ikigai)」という言葉からメンタルの重要性、生きる意義について考える
特に沖縄の高齢者は、健康で幸福な生活を送っていることで知られています。その理由の1つとして、沖縄には「ゆいまーる(相互扶助)」と呼ばれる精神が根付いており、地域社会に強いつながりがあることが挙げられます。
研究によると、沖縄の人々は家族や友人と深い絆を築き、日常的に支え合っており、そのことで孤独感が少なく、精神的な幸福度が高いとされているのです。
また、彼らはシンプルで栄養価の高い食生活(野菜中心の食事、適量の摂取)を送り、適度な身体活動を行い、さらに「生きがい(人生の目的)」を持って生活しており、これらのことが長寿と幸福感を高める要因になっていました。
このことは、お金だけでなく、強いコミュニティと目的意識が幸福に重要な役割を果たすことを示しており、物質的な豊かさ以上に、社会的なつながりが人生の満足度を高める鍵となることを示唆しています。
お金は幸福感をもたらす重要な要素だが、その役割には限界がある
結論として、お金が基本的な幸福感をもたらす重要な要素であることを研究データは支持していますが、その役割には限界があるということです。
お金がなければ幸福感を得るのは難しい一方、一定以上の収入があれば、社会的つながりや自己実現といった他の要因がより重要になってきます。
また、大金持ちになると、お金に関連した紛争や管理の問題が発生し、新たなストレスが生じることもあります。
そのため、富裕層には資産管理や教育の知識が不可欠であり、こうした知識を次世代に伝えるセミナーや富裕層向けのプライベートバンクのサービスが存在します。富裕層でなくとも、早期に投資やお金の管理について学ぶことは非常に重要なことです。
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●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
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