アメリカに住むAさんは4人の子どもを持つ母親です。彼女の夫は外科医で、年収は60万ドル(約8600万円)にも上ります。彼女自身も小児科の医者で、年収は15万~20万ドルぐらいあります。そうすると、家計全体では年収80万ドル(約1億1500万円)ぐらいということになります。
この家庭は一見、裕福で何不自由ない生活をしているように思えるかもしれません。ですが、実際には、彼らの純資産(ネットワース:資産から負債を引いた金額)は驚くほど少なく、経済的な将来に不安を抱えているのです。
年収1億円以上でも、なぜ資産がそれほどないのか?

通常、年収80万ドルを10年間続ければ、税金や生活費を差し引いたとしても、少なくとも200万~300万ドル(約2.9~4.3億円)の資産を築けるはずです。しかし、Aさん一家にはそのような資産はありません。
その主な理由は、生活費が非常に高いことにあります。高級車、船、家のリフォーム、学生ローンの返済などで、お金を使ってしまっているのです。
そして、資産が築けていないもう1つの理由は、彼らが株式投資などの資産運用をほとんど行っていないことにあります。
「働けば何とかなる」では済まされない教育費
この家庭にはさらに深刻な問題があります。それは4人の子どもたちの大学の学費について、資金の準備がまったく進んでいないことです。
4人の子どもは双子が2組で、13歳が2人、11歳が2人です。大学進学の時期はほどなくやってきます。
アメリカでは、大学の学費1人分は年間7~8万ドル(約1100万円前後)かかることも珍しくなく、4人分となると年間最大32万ドル(約4600万円)もの支出になる可能性があります。
Aさん夫婦はこれを「少し余分に働けば何とかなる」と考えているようですが、現実はそう甘くありません。加齢による体力の衰え、医師の労働市場の変化、思わぬ健康リスクなど、予測不能な要因がいくらでも存在します。
資産運用していたら、18年で40倍以上に増えていた計算
もし、子どもたちが生まれた時に1人あたり5000ドル(約72万円)を投資信託などに入れていたとしたらどうでしょうか。1人5000ドル、4人合わせると2万ドル(約288万円)です。
これは年収60万ドルといった人にとっては、決して大きくない金額でしょう。年利9%という米国株市場の平均リターンで計算すると、18年後にこの金額は、子ども1人当たり、20万ドル以上(約2900万円)にもなります。これは大学の学費を支払うのに非常に大きな助けになるはずでした。
18年後の4人合わせた運用合計額は80万ドルという計算になりますので、もし年間9%のリターンが続けば、年間7万2000ドル(約1040万円)ぐらいのリターンが得られて、1人しか大学生がいない時期なら、このリターンだけで学費が賄える可能性があります。
一方、投資をしていなければ、悠々と過ごすことはできず、必死に働いて、節約しながら、学費を捻出しなければいけないでしょう。
教訓:収入が多い=安心ではない
このケースが教えてくれるのは、どんなに収入が高くても、計画性と資産運用なしでは将来の安心は得られないということです。見栄や浪費に流されず、家族の未来のために「お金の使い方と投資」そのものを見直す必要があるでしょう。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガ「米国株&世界の株に投資しよう」を配信中。
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