2022年4月に市場区分を再編した東証がグロース市場を大きくテコ入れ
2022年4月に大がかりな市場区分の再編を行った東京証券取引所。従来の「1部」「2部」「ジャスダック」「マザーズ」の4つの市場区分を「プライム」「スタンダード」「グロース」の3市場に再編。その最大の目的は、プライム市場において多くの海外投資家を呼び込むグローバル企業が上場するマーケットを作ろうというものだった。だが、結局のところ大胆で明確なターゲット化ができなかったために、従来の東証1部市場とほとんど変わらない状況になっている。さらに小型株市場のジャスダックとマザーズをスタンダード、グロースに改名したところで市場再編に相応しいダイナミズムは見られない。
ところが、新興企業への門戸を開くグロース市場が大きなテコ入れされることになった。上場から5年で株式時価総額が100億円に達しない企業は他市場に移るか、上場廃止を迫られる、という新基準が2030年以降に適用されるのだ。従来は「上場から10年で時価総額が40億円以上」が上場維持の基準だった。
2030年以降に新基準を適用。時価総額が100億円未満の割合は7割に上る
現在のグロース市場の現状はこうだ。上場企業は610社。時価総額の内訳は100億円以上が30%、40億円~100億円未満が32%、40億円未満が38%となっている。すなわち、新基準の時価総額100億円を満たしていない企業は7割に上る。時価総額が40億円以上の企業はM&Aなども活用した成長戦略による上場維持やスタンダード市場への移行という形を模索するとみられるが、40億円未満では新基準の達成は難しく、他社への身売りやMBOによる非公開化、あるいは地方証券取引所への再上場などが必要となる。何らかの手段を取らなければ上場廃止になってしまうからだ。市場再編が行われた2022年4月以降のグロース市場のパフォーマンスは1割以上下落しており、マーケットとしての価値が傷んでいる。
こうした流れを受けて新規株式公開(IPO)にも影響が出始めている。IPO業務を手掛ける証券各社においてIPO銘柄の選別が本格化しているのだ。来年上場予定だった企業、あるいは再来年に上場を予定していた企業がスケジュールの延期、上場未定、あるいは上場プランそのものの取り消しが起きている。あるいは、頼みにしていた証券会社に主幹事を下りられたり、主幹事になってくれない事態も生じている。「主幹事難民」という言葉すら生まれており、IPOを目指す企業からは戸惑いの声が上がっている。
グロース市場のIPO数は昨年比で大幅減、来年は更なる減少の見込みも
昨年のグロース市場におけるIPO銘柄数は64社あったが、今年上場のIPO銘柄数は昨年に比べて大幅減のペースとなっており、来年はさらに減少する可能性が高い。もはや新基準を念頭に置いた形で事務方は動き出しているということだ。もちろん、投資の回収期間が長くなることによって、ベンチャーキャピタルを中心とした資金の出し手も慎重にならざるを得ないし、幹事を引き受ける証券会社も慎重になるのは当然だ。
従来のグロース市場のIPO理念は「最初は小粒でも将来性があれば、早い段階で直接金融の道を開いて上場というパブリックの選択肢を提供する」というものだったと思う。それ故に、日本のグロース市場におけるIPO企業は公募調達資金が18億円と小さく、米国のナスダックの115億円とは格段に異なっている(金額はいずれも2024年実績)。今回の新基準導入の動機は、上場したものの「名ばかり」グロース企業が多く株価が下落するケースが目立つ、「上場ゴール」と呼ばれる上場自体で目的達成感の強い企業が見られる、さらには不祥事を起こす企業が後を絶たないことが挙げられる。時価総額が小さい企業は機関投資家の投資対象にならないため、上場後の資金調達が難しくなり証券市場で育たない存在になる。
機関投資家は流動性の懸念から時価総額が数百億円ないと投資しにくい
私は1988年に第一證券に入社するとともに中小型株のスペシャリストとしてジャーディン・フレミング証券やJPモルガン証券でバイサイドアナリストを担当、そしてドイチェ・アセット・マネジメントやJPモルガン・アセット・マネジメントでファンドマネジャーの立場で運用を担当してきた。機関投資家にとって時価総額は投資対象を決める際の極めて重要な指標だ。例えば私が300億円の中小型株ファンドを運用しているとしよう。将来が期待される銘柄を見つけたものの時価総額が30億円程度であれば投資できない。なぜか。流動性に乏しく市場で買うことが困難だからだ。
1日の売買代金が3000万円程度では手出しできない。仮に300億円の1%に当たる3億円を投資しようと思っても投資完了までに2~3カ月程度の時間がかかる。それ以前の話として、時価総額30億円のうち3億円買えば発行済株式数の10%保有することになり、大量保有報告書を提出する義務が生じる。純投資が保有目的なのでそういうことは避けたいのが通常だ。さらに言うと時価総額100億円の企業であっても3億円投資することはかなり大変なことなのだ。機関投資家の立場から言えば、時価総額が最低200億円~300億円ないと安心して投資できる対象にはならない。
一方、ベンチャー企業にはIPO実現のハードルが高くなり失望が大きい
とは言え、今回の措置には企業側にも言い分があると思う。これまで小粒な企業であっても上場のハードルを低くしていたことで資金調達の多様化、社会的地位の向上、知名度向上、社員のモチベーションアップなどの良い機会に触れることができた。ところが、今回の措置は小粒企業にとって前述のような機会と無縁になる突然の方針転換であり、失望が大きいだろう。私自身は、IPO企業が最初から機関投資家が相手にする時価総額がなくとも成長力をバネに株式市場で育てば問題ないと考えている。そのための「上場後10年で40億円に達する必要」との既存ルールだったのではないか。グロース市場はナスダック市場を目指す必要はない。
企業側のニーズを満たす役割と機関投資家の投資対象として役割を併存させることはできないだろうか、というのが私の考えである。皆さんはどう思われるだろうか。
累計パフォーマンスは最高値を更新し+90.2%。ダブルバガー達成も視野
さて、太田忠投資評価研究所とダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチ(DFR)がコラボレーションして投資助言を行う「勝者のポートフォリオ」。その累計パフォーマンスは先週に過去最高値を更新。5月29日時点で+90.2%と4月末の+76.9%から一段と上積みし、3月21日の瞬間風速で達成した最高値+86.7%を塗り替えた。下のチャートを見て、「勝者のポートフォリオ」の鋭い上昇角度を見ていただきたい。いずれの期間もマーケットの主要指数を圧倒し、「上へ、上へ」行こうとしている力強い意思を感じる。

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●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもDFRへのレポート提供による「勝者のポートフォリオ」メルマガ配信などで活躍。
※この連載は、ワンランク上の投資家を目指す個人のための資産運用メルマガ『勝者のポートフォリオ』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、メルマガ配信の他、無料期間終了後には会員専用ページで「勝者のポートフォリオ」や「ウオッチすべき銘柄」など、具体的なポートフォリオの提案や銘柄の売買アドバイスなどがご覧いただけます。原則毎月第一木曜夜は、生配信セミナーを開催。
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