近年、「非公開市場」への注目度が高まっているが…
近年、未公開株式(未上場企業の株式)に投資するプライベート・エクイティ(PE)ファンド、あるいは未公開株式そのものへの投資など「非公開市場」への注目度が高まっています。
その背景には、高いリターンを求める投資家が増えたこと、スタートアップや新しいビジネスモデルへの期待感が高まっていることなどがあります。
しかし、個人投資家にとって非公開市場は必ずしも必要ではなく、多くの場合は公開市場で十分な投資機会が得られます。
非公開市場に投資した人が信頼していた経営者に裏切られ、大きな損失を出したという話は数多い
公開市場は規制が整っていて、透明性があり、上場されている株式やETF(上場投資信託)などを通じて世界中の成長分野にアクセスできます。流動性も高く、資金を柔軟に動かせる点も大きなメリットです。
それに比べると、非公開市場は規制が緩く、不正や利益相反のリスクも高くなります。さらに投資先の情報は限られ、出口戦略も不明確で、資金が長期間ロックされることは避けられません。
特に非公開市場では、「魅力的なストーリー」を売り込む事業者に注意が必要です。資産は豊富にあるけれど投資経験が乏しい人々に向けて、それぞれの人に合わせた説得力のあるストーリーが語られることが多く、それが冷静な判断を曇らせます。
筆者自身の投資人生の中でも、非公開市場に投資した人が、投資テーマ自体の失敗ではなく、信頼していた運営者や経営者に裏切られたために、大きな損失を出してしまったという話を数多く耳にしてきました。

非公開市場投資に意義がある場合もあるものの、もし投資するなら自ら調査を重ねて慎重に
それでも、非公開市場投資に意義がある場合もあります。
それは「本当に特別な機会」であり、徹底的な調査が行われた場合です。
まず、投資先企業のビジネスモデルや財務状況を精査するだけでなく、その経営者や実行チームの人となりや実績についても深く調べる必要があります。そして、そのように念入りに調べたとしてもなお投資先企業のビジネスには失敗するリスクもあり、また、非公開市場投資には流動性が欠如していることを十分に理解しておくことが必要です。
以上のように自らよく調査し、納得した上で非公開市場に投資するとしても、慎重に取り組むべきであり、その金額は資産全体の一部に止めた方がいいでしょう。
一般的な投資家は非公開市場に近づかず、透明性の高い公開市場で資産形成をはかるのが王道
実際、筆者のフィデリティ時代の元同僚のような経験豊富な投資家であっても、非公開市場では損失を出す例が少なくありません。
それほど難易度が高い世界なのです。
したがって、情報優位性や人脈がない投資家は非公開市場に近づかず、公開市場を基盤として資産形成をはかるのが基本であり、王道と言えるでしょう。
結論として、非公開市場投資は「高度な専門性」と「徹底した準備」がある場合にのみ検討されるべきです。そうでない場合、公開市場の多様で透明性の高い投資機会を活用することが、個人投資家にとってより合理的かつ安心できる道筋だと考えられます。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
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