投資の神様ウォーレン・バフェットが率いる投資持ち株会社バークシャー・ハサウェイが今年1月、アップル株式を7000万株以上買い増していたことがわかりました。これで総保有株数は1億3300万株となり第5位の株主に躍り出ました。なぜ今、バフェットはアップル株を大量保有するに至ったのか。世界の政治・経済に精通し、金融のプロも愛読している刺激的なメールマガジン「闇株新聞プレミアム」が分析します。
株価も業績も絶好調、アップルも
「渡らざるを得ない橋」なのか!?
アップルの株価は3月7日現在1株139ドルで、時価総額は世界最大(7300億ドル=約83兆円)です。バークシャー・ハサウェイが保有する時価総額も185億ドル(約2兆1000億円)にも上ります。
バークシャー・ハサウェイが初めてアップルの株式を取得したのは去年(2016年)6月、981万株でした。9月末には1522万株、12月末には5735万株と買い増し、本年1月の7000万株以上と続きます。大量取得の理由についてバフェットは1月31日の決算発表前に、「買いたくなったのだ」と話しています。
そこで発表されたアップルの2016年10~12月期決算を見てみます。売上高は過去最高の784億ドル(8.9兆円)、純利益も179億ドル(2兆円)と絶好調でしたが、純利益は前年同期の184億ドルに届きませんでした。
では株価はというと、昨年6月末が95ドル、9月末が113ドル、12月末が116ドル、大量取得した直後の本年1月末が121ドル、3月7日が139ドルであり、同期間の上昇幅はNYダウよりも大きくなります。
バフェットは自分が好んで投資する銘柄について、しばしば「渡らざるを得ない橋」という表現を用います。バークシャー・ハサウェイの代表的な保有銘柄と言えば、クラフト・ハインツ、ウェルス・ファーゴ、コカ・コーラ、アメリカン・エキスプレス……etc. いずれも消費者の生活に密着した業種で、圧倒的なシェアを持つ会社です。なるほど「渡らざるを得ない橋」と言われれば、確かにそんな気もします。
では、アップルも「渡らざるを得ない橋」なのでしょうか?
収益は圧倒的だが出荷台数は大減速
顧客の囲い込み戦略は崩れつつある
アップルは2007年にiPhoneを発売して以来、常にスマートフォン市場を席巻しており、収益面では競合他社を圧倒的に引き離す高収益を上げ続けています。ただ、2016年の世界スマートフォン出荷台数は14億8000万台と、前年比3%増でしかなく、2015年の10%増、2014年の27%増から大きく減速しています。
またアップルの2016年の市場シェアは14.6%でしかなく(トップはサムソンの21.1%)、華為(ファーウェイ、9.5%)、OPPO、Vivoなど中国勢に追い上げられています。「iPhoneは高級品、中国勢は格安品」という棲み分けであると理解している人もいますが、中国勢は必ずしも格安スマホに特化しているわけでなく、それなりの高級品も備えています。
あまり知られていませんが、スマートフォンに限らずアップル製品の修理は、アップル直営店か同社と契約を結んだ正規の修理業者にしか認められていません。つまりスマートフォンなどアップル製品が故障した場合、「ちょっとその辺の電気店で修理する」わけにはいきません。
ソフトバンクでスマートフォンを買って「ちょっと壊れた」場合、ソフトバンクの販売店に持ち込んでも「アップルに持っていけ」とそっけなく言われるだけで、すぐに新機種への乗り換えをしつこく勧められます。本紙はそれで解約して二度とソフトバンクとは契約していませんが、アップル製品であればauでもドコモでも同じです。
実は米国では、電子機器を修理する機会を求める「公正な修理法案」が一部の州で提出されており、明らかにアップルをターゲットにしています。アップルは「作り上げられた渡らざるを得ない橋」ではあったものの、徐々に「渡らざるを得ないわけでもない橋」になっていくような気がします。
トランプ政策最大の受益者だからか
有り余る現金の受け皿か
では、なぜバフェットはアップルに投資したのか――本紙はバフェットが「トランプ大統領が掲げる大型法人減税あるいは海外にある現金を米国内に還流させる際のさらなる減税措置の恩恵を、最も享受できる企業がアップルである」と考えたからではないかと見ています。純利益も海外にある現金も最大級だからです。
あるいは、バークシャー・ハサウェイの“有り余る現金”の受け皿として「時価総額が世界最大で収益も(とりあえず)絶好調のアップルにも投資せざるを得なかったのではないか」とも考えられます。
バフェットは世界がITバブルに熱狂していた2000年にも「自分が理解できない事業内容の会社には投資しない」との信念を貫いてIT企業に一切投資せず、生き残りました。2011年にIBMへの投資を始めた時には「方針転換か」と話題になりましたが、あの時の理由も今回のアップルと同じようなものでした。
そして、バフェットのIBMへの投資パフォーマンスは、現在までのところ「凡庸」そのものです。はたして、アップルへの投資はどうなるか――いろいろな意味で今後が注目されます。
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