「ゲノム創薬」とは
DNAの情報を元に薬をつくること
サンガモ・セラピューティックス(ティッカーシンボル:SGMO)は、今アメリカで続々と新薬が登場している「ゲノム創薬」の分野で、さらに研究を加速させるために欠かせない遺伝子編集技術を持った会社です。
「ゲノム」とは細胞の核の中にあるDNAの総体を指します。それを研究することで新薬を作ることを「ゲノム創薬」と言います。
人間は、ひとつの受精卵から成長していきます。受精卵は1個の細胞に他なりません。これが2個に分裂し、次に4個に分裂し、さらに8個に分裂し、16個に分裂する……。そういうことを繰り返すうちに、神経、皮膚、心臓など様々な機能を構成する細胞に分化し、それが集まって人体になるのです。特定の機能を司る細胞は200種類、大人の細胞の数は60兆個あると言われています。
細胞にはそれぞれ核があり、その中にはDNAと呼ばれるものがあります。DNAとは長い紐(ひも)状の分子であり、細胞が必要とするタンパク質を必要に応じて合成する「指示出し遺伝子」の役割を果たします。つまりDNAは「生命のプログラム」なのです。
細胞が分裂するにあたり、DNAはタンパク質と結びつき23対の棒状の構造体になります。これが染色体です。
DNAは、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)という、4種類の「ヌクレオチド」と呼ばれる物質の並びによってコード化されています。23対の染色体の文字をすべて合わせると、約30億文字あります。
しかし、全部のDNAが遺伝情報を持っているわけではありません。つまり余計なDNAがあるわけです。その中には、文字配列がズレてしまったために本来の機能を発揮できなくなってしまった遺伝子や、過去に感染したウイルスの残骸なども含まれています。
内因性の病気では、DNAが関係している場合が多いです。「がん遺伝子」がその例です。その他にも代表的なところでは、鎌状赤血球症、膿胞性線維症、X染色体脆弱、ベータ・サラミア、テイサック病、フェニルケトン尿症、血友病、デュジャンヌ型筋ジストロフィー、アルファ・アンチトリプシン欠損症、ハンチントン病などが遺伝子にまつわる病気です。
このように、特定の疾患の原因がDNAにある場合、それを是正することで「生命のプログラム」のバグを排除し、病気を治すことができます。これがゲノム創薬の基本的な考え方です。
「ゲノム創薬」の分野では
去年あたりから怒涛の勢いで新薬が登場
1990年代後半、「ドットコム・ブーム」の陰で、もうひとつ大きな株式市場のテーマがありました。それが「ゲノム・ブーム」です。
ゲノム・ブームとは、1990年に発足した「ヒトゲノム計画」が人のゲノムの全塩基配列を解析するということで、ゲノム創薬に対する期待が高まり、様々な関連株が急騰したことを指します。ヒトゲノムの解析は2003年に完了しましたが、それが創薬に結実するまでにはさらに長い年月を要しました。
そして、ついに去年あたりからゲノムのノウハウを駆使して作られた新薬が、相次いで米国食品医薬品局(FDA)から承認を取り付けました。中でも注目度が高いのが難治性のがんを治すキメラ抗原受容体を用いた「遺伝子改変T細胞療法(略してCAR-T療法)」です。
人の遺伝子は、それぞれユニークです。だから免疫システムの働き方も、ひとそれぞれです。そこで個々の患者に合せたテーラー・メードの治療法が必要になります。
CAR-T療法では、まず、がん患者から血液を採取します。次に、そのT細胞に遺伝子改変を加え、キメラ抗原受容体を実装します。そうやって作った遺伝子改変T細胞を、今一度、患者の体内に戻してやるわけです。
そもそもその患者から採った細胞ですから。本人の免疫システムにブロックされることはありません。こうすることでがん細胞が持つ、頑固な腫瘍免疫回避機構を突破するわけです。
これまでに、ノバルティス(ティッカーシンボル:NVS)のB細胞急性リンパ芽球性白血病治療薬「CTL019」ならびにカイト・ファーマ(ティッカーシンボル:KITE)のびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)治療薬「KTE-C19」が承認され、商品化されています。
さらに、ジュノ・セラピューティックス(ティッカーシンボル:JUNO)は、悪性非ホジキン・リンパ腫治療薬「JCAR017」を開発中です。また、ブルーバード・バイオ(ティッカーシンボル:BLUE)は、再発性多発性骨髄腫治療薬「bb2121」を開発中です。
CAR-T療法の可能性に気がついた大手バイオ企業は、相次いで買収を発表しています。具体的には、ギリアド・サイエンシズ(ティッカーシンボル:GILD)がカイト・ファーマを買収、セルジーン(ティッカーシンボル:CELG)がジュノ・セラピューティックスを買収しました。
つまり、CAR-T療法を研究している独立系バイオ企業では、ブルーバード・バイオだけが残っている状態になったのです。
サンガモ・セラピューティックスが持つ
「ジンクフィンガー」の技術とは?
さて、上に述べたようにギリアド・サイエンシズはカイト・ファーマを買収したわけですが、ギリアド・サイエンシズは、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫だけでなく、他の様々な病気にもカイト・ファーマのノウハウを応用したいと考えています。
カイト・ファーマの手法は、患者から採取した細胞に遺伝子改変を加え、それをもう一度患者に戻すというものです。この遺伝子改変の際にどれだけ精密な編集が出来るかが、創薬の際のカギを握ると思われています。
そこで登場するのが、冒頭に紹介したサンガモ・セラピューティックスです。同社は「ジンクフィンガー」と呼ばれるたんぱく質を駆使することで、極めて精密な遺伝子編集をする技術を持っています。
ジンクフィンガーは、特定の塩基配列(たとえばA-T-Aという並び方)を認識し、それと結合するようにデザインされたタンパク質です。これらの人工タンパク質で「切りたくない部分」を保護し、残った箇所で連鎖を切断することができます。
この方法を使うと、特定の遺伝子をピンポイントで編集できるのです。
ギリアド・サイエンシズは、サンガモ・セラピューティックスのこの技術に注目し、CAR-T療法を次のレベルに高めるため、今後の創薬の際、ジンクフィンガーによる編集技術を独占的に利用してゆく契約を結びました。
それによると、まずギリアド・サイエンシズは、サンガモ・セラピューティックスに1.5億ドルの前渡し金を支払う。そして、今後10の新薬ターゲットに関してジンクフィンガー技術を用い、そのそれぞれにつき、プロジェクトの成功度合いに応じて最大3億ドルのマイルストーン・ペイメントを支払うことになります。つまり、合計で最大31.5億ドルの契約総額になります。なお、今回の契約は、CAR-T療法向けの研究だけを対象としています。
サンガモ・セラピューティックスは、これまでにもファイザー(ティッカーシンボル:PFE)、シャイアー(ティッカーシンボル: SHPG)、バイオヴェラティブ(ティッカーシンボル: BIVV)の各社とコラボレーション契約を結んできました。しかし、今回のギリアド・サイエンシズとの契約は、今一番ホットな分野で最も尊敬されている企業と提携したという点でサンガモ・セラピューティックスにとってホームランでした。
同社は、これまで北カリフォルニアのバークレーに近いリッチモンドという町に本社を置いていました。どちらかといえば基礎研究に力を入れ、地味な存在だったと言えるでしょう。
しかし最近、経営陣を一新し、年内にはバイオテクロノジーのメッカである南サンフランシスコに本社を移す予定です。よりアグレッシブな経営に方向転換するというわけです。
【今週のまとめ】
ゲノム製薬のリーダー企業 ギリアド・サイエンシズが
業務提携したサンガモ・セラピューティックスに注目
ゲノム創薬は「生命のプログラム」であるDNAを理解し、それに働きかけることで遺伝子がひきおこす内因性の疾患への治療薬を創る試みです。最近ではCAR-T療法という大ヒットが出ています。
そのリーダー企業のひとつ、ギリアド・サイエンシズが遺伝子編集技術を「次のレベル」まで高めるため、サンガモ・セラピューティックスと業務提携しました。
サンガモ・セラピューティックスは、これまで地味な存在でしたが、今回、いきなり業界の先頭を走っている企業のパートナーに選ばれた関係で俄然注目を集めています。
サンガモ・セラピューティックス(SGMO)チャート/日足・6カ月(出典:SBI証券公式サイト) ※画像をクリックすると最新のチャートへ飛びます。拡大画像表示
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