ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子です。
ここ数年、日本の保険業界では「外貨建て保険」が大ヒット商品になっています。「外貨建て保険」とは、契約者が支払った保険料を、保険会社が外貨で運用する商品のことで、年金保険や終身保険など、将来的に保険金や解約返戻金が戻ってくる貯蓄型の保険です。
現在、日本で販売されている「円建て保険」の場合、「予定利率」(保険会社が契約者に約束する運用利回り)が低水準で、「返礼率」(支払った保険料に対して、解約時にどれだけお金が受け取れるか、という割合)も低くなっているので、貯蓄型の「円建て保険」にはほとんど旨味がありません。
これに対して、「外貨建て保険」の中には「予定利率」が高水準で、「返礼率」も高く、魅力的な商品もあります。そのうえ、貯蓄型の「円建て保険」と比較すると、多少保険料も安い傾向にあることから、「投資は怖いけど、リスクを抑えながら資産を有効活用したい」という層を中心に、人気が集まっているのです。
ただし、最近になって日本のメディアでは、頻繁に「外貨建て保険」のリスクが取り沙汰されるようになりました。ということは、人気と裏腹に、実は「外貨建て保険」は危険性の高い商品なのでしょうか? そこで今回は「外貨建て保険」の実情や注意点、加えて、私が住んでいるシンガポールの「外貨建て保険」についても解説します。
「外貨建て保険」には為替変動リスクがある!
コストが高く、内訳や仕組みが不透明なのも問題点
まず、「円建て保険」と比べた場合、「外貨建て保険」に特有のリスクがあるのは事実です。主なリスクは以下の2つです。
(1)米ドルなどの外貨で運用されるため、為替差損が生じる場合がある
(2)円から外貨に換えて運用し、また外貨を円に戻すことで「為替手数料」が発生する。さらに、為替手数料以外にも何かとコストがかかるが、あまり明確に示されていない
最初に(1)の「米ドルなどの外貨で運用されるため、為替差損が生じる場合がある」という点から解説します。
日本で販売されている「外貨建て保険」の多くは、元本が保証されていますが、それはあくまで“運用する外貨建てでの元本が保証される”という意味です。つまり、為替の動向次第では、円に戻したときに元本割れするリスクがあります。
この点をきちんと理解しないまま加入してしまう人が多いのか、「『外貨建て保険』は元本保証だと言われたのに、損をした!」といったクレームが相次いでいるそうです。理解しないまま加入した側にも問題がありますが、金融機関の販売員が、あまり金融リテラシーのない高齢者の方などに対し、十分な説明をせずに「外貨建て保険」を販売している点のほうが大問題でしょう。
続いて、(2)の「円から外貨に換えて運用し、また外貨を円に戻すことで『為替手数料』が発生する。さらに、為替手数料以外にも何かとコストがかかるが、あまり明確に示されていない」という点について。
通貨と通貨を交換すると、為替手数料が発生します。日本の「外貨建て保険」の場合、通常だと「円⇒外貨」「外貨⇒円」と2回の交換を行うことになりますが、このときの為替手数料が高い傾向にあります。
さらに、「外貨建て保険」では為替手数料以外にも、契約時手数料や運用手数料など、何かとコストが発生するのですが、多くの商品はコストの内訳が分かりづらく、ほとんどブラックボックスのような状態になっています。事前にどれだけコストがかかるか、はっきりわからない商品もあります。
以上をまとめると、「外貨建て保険」は高い利回りが期待できて、保険料がやや安い反面、為替リスクがあって、コストが高い商品と言うことができます。
リスクはあっても、このご時世で高い利回りは魅力的!
シンガポールや香港の「外貨建て保険」がお手本になる?
ここまでのところで、「『外貨建て保険』はやめておいたほうがよさそう」と思った方も多いかもしれませんね。ただ、私は「外貨建て保険=絶対NG」だとは考えていません。というのも、やはり「外貨建て保険」の利回りは魅力的だと思うからです。
主要な「外貨建て保険」の運用状況を見ると、リターンは3%前後です。ただ、コストなどを差し引いた後で実際に受け取れる利回りは、保険期間や保険料の支払い方、保険金の受け取り方によって変わりますが、おおむね1~2%弱になりそうです。あまり高いとは言えませんが、それでも預貯金の利回りに比べればマシです。
ちなみに、私が住むシンガポールや、金融先進都市の香港では、貯蓄型の保険を用いた資産運用がごく一般的です。シンガポールでは、公的年金制度だけで老後の生活を支えるのが難しいため、多くの人が若いときから貯蓄型の保険に加入するのです。
同じように、年金不安が広がっている日本でも、「貯蓄型の保険で老後に備えたい」というニーズは大きいでしょう。かといって、「円建ての保険」では満足な利回りを期待するのが難しいので、「外貨建て保険」で運用したいと考える人は、もっと増えるかもしれません。
現時点で、「外貨建て保険」には前述したように、いくつものデメリットがあるので、大いに改善の余地があります。しかし、保険会社がコスト面の問題などを解決することができれば、とても将来性があるとも感じます。
シンガポールでは外貨建ての金融商品がポピュラー
商品性のシンプルさ、コストのわかりやすさが普及の理由
ここからは、参考までにシンガポールの「外貨建て保険」について紹介します。
シンガポールでは貯蓄型の保険に加入している人が大勢います。もちろん、現地通貨であるシンガポールドル建ての保険に入るのがメインですが、富裕層の間では米ドル建ての保険に入っている人も多いです。株や投資信託などと違って、一定の運用リターンがあらかじめ明示されるところに魅力を感じる人が多いのは、日本と同じです。
シンガポールドル建てか、米ドル建てのいずれかを選択できる保険もあります。最近の数字だと、利回り(実行レート)はシンガポールドル建てが4%前後、米ドル建てが5%前後といったところで、富裕層の多くは米ドル建てを選択します。また、運用状況が良ければ利益が上乗せされる設計となっており、たとえば20年の運用で、元金を2倍程度に増やすことも期待できます。
ただし、シンガポールと日本では、いろいろ事情が異なる部分もあります。
まず、シンガポール人は外貨建て(主に米ドル建て)の金融商品に慣れています。シンガポールでは、以前から保険以外でも外貨建ての金融商品が充実しており、しかも為替手数料が日本と比較するとはるかに安いです。よって、保険だけでなく外貨預金や外債なども購入しやすい環境と言えます。
米ドル建ての保険に加入して保険金を受け取り、シンガポールドルに戻さずに米ドルのままで使う人もたくさんいます。たとえば、子どもを米国の大学で学ばせるために、米ドル建ての保険で資金を準備し、無事に進学できれば米ドルで保険金を受け取って、そのまま入学金や授業料を支払う、といった具合です。
シンガポールの貯蓄型の保険は、全体的に商品の仕組みがシンプルだという特徴もあります。日本では、一つの保険契約に特約を上乗せし、結果として契約内容が複雑になってしまうケースがよく見られますが、シンガポールではこのようなことはありません。一つの保険であれこれカバーするのではなく、一つの目的に合わせて一つの保険に入るのが普通だからです。
なお、シンガポールの貯蓄型の保険も、為替手数料以外のコストは高額です。その代わり、過去の運用リターンや経費率、保険契約にかかるコストの総額、契約者が受け取れる利回り、運用の内訳などが全てすべて明記されている点が、日本の「外貨建て保険」と異なります。そのため、やみくもにコストを吸い上げられる印象はなく、安心して加入することができるのです。
「外貨建て保険」に加入したい人は支払い方法や
為替手数料などに注目して、類似商品の比較検討を!
日本とシンガポールの「外貨建て保険」の違いが見えてきたでしょうか。
確約部分の利回りでは、日本で販売されている米ドル建て保険も、シンガポールで販売されている米ドル建て保険も、それほど大きな違いはありません。しかし、シンガポールに駐在している日本人に話を聞くと、現地の「外貨建て保険」に加入している人がたくさんいます。やはり、為替手数料の安さや期待リターンの面で、シンガポールの保険のほうが魅力的だ判断されているのでしょう。
今後、日本の「外貨建て保険」のコストがもっと明確化され、金融機関が徴収する為替手数料が安くなる日が来れば、状況は大きく変わってくると思います。なかなか道は険しそうですが、実現すれば「外貨建て保険」の加入者数はさらに膨れ上がるかもしれません。
もし、現段階でみなさんが日本の「外貨建て保険」に興味があるなら、利回りだけに注目するのではなく、リスクを理解したうえで、加入のタイミングや保険料の支払い方などを検討する必要があるでしょう
最も大きな問題は、保険料を支払うタイミングによる「為替変動リスク」です。一時払いで保険料を支払うタイプの保険だと、分割払いよりも保険料がディスカウントされ、リターンも大きくなる可能性がある反面で、為替変動リスクは大きくなります。月払いや年払いのタイプなら、為替リスクは分散できますが、保険料がやや割高になりますし、まとまった余裕資金がある場合、最初から全額を運用に回せずに、資金効率が悪化するというデメリットもあります。つまり、いずれにせよデメリットはあるのですが、為替変動リスクを抑えることを最優先するなら、一時払いは避けたほうがいいでしょう。
また、保険金の受け取り方にも気を配る必要があります。おすすめは、保険金を受け取るタイミングを選べる(保険金を据え置ける)商品を選んだり、米ドルのまま満期金を受け取り、タイミングを見計らって少しずつ両替したりすること。こうすることによって、保険金を受け取るときに「円高」で青ざめる、というリスクを回避できます。銀行の為替手数料はすべて横並びではないので、為替手数料が安いネット銀行などを選択するといいでしょう。
どんな金融商品にも、必ずメリットとデメリットはあります。「外貨建て保険」は否定されることも多い金融商品ですが、ご自身にとってメリットとデメリット、どちらが大きく感じられるか、改めて考えてみてください。
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