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デフレと原料高に苦しむ吉野家は「牛焼肉丼」で立ち直れるか!?

【第15回】 2012年10月15日公開(2022年3月29日更新)
ワタナベくん
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 しかし、この値下げ競争でいちばんダメージを受けたのは、ほかならぬ吉野家だったのではないでしょうか。というのも、すき家は「ねぎ玉」「3種のチーズ」に代表されるトッピングメニューが豊富です。松屋は「豚生姜焼定食」「カレー」など定食や牛丼以外のメニューも充実しています。

豊富なトッピングメニューで今や王者の風格漂う、すき家 撮影/ワタナベくん

 この当時、各店の様子を見ていたら、すき家や松屋では「牛丼並盛」以外を食べている人がたくさんいました。ベースが値下がりしてお得感が出た分を、トッピングやサイドメニューの注文につなげている感じでした。

 ところが老舗の吉野家は長らく「牛丼一筋」でやってきたこともあり、こう言っては何なのですが、サイドメニューがおざなりでした。お客さんの多くはいつも通りに黙々と牛丼を食べていたので、まさに身を削って本土防衛をしていたのではないでしょうか。

 さらに「牛丼一筋」のこだわりが、03年12月のBSE問題以降、自らを苦しめることになってしまおうとは。米国産牛肉の輸入停止措置が講じられると、すき家はいち早く豪州産牛肉に切り替え、松屋は松屋は牛丼以上に好評を博した「豚めし」を開発しました。

 しかし、吉野家はすぐに輸入が再開されると思ったのか「米国産以外は使わない」と牛丼を販売中止にしたまま、ズルズルと客離れを招いてしまいました。この時期、すき家と松屋は相次ぐ新メニューの投入でガンガン攻勢をかけ、牛丼界の勢力図は完全に塗り替えられてしまったのです。

値下げ戦争を仕掛けたのは外食界の
覇権を狙ったマクドナルドだった!

 さて、話を少し戻しますが、牛丼の値下げ戦争は、神戸らんぷ亭と松屋が主導し、すき家がこれに応戦し、吉野家が渋々参戦してきて混沌を極めました。が、もともとこの戦争を仕掛けたのは外食チェーンの王者、マクドナルド(日本マクドナルドホールディングス 2702)でした。

外食デフレ競争の仕掛け人は、マクドナルドだった!  撮影/ワタナベくん

 96年にそれまで1個130円だったハンバーガーを80円に値下げしたのを皮切りに、98年には65円、02年には59円にまで価格を下げていきました。この時のことは大変よく覚えています。著者は嬉しさのあまり、週4~5回はマクドナルドで食べていたからです。

 マクドナルドは「敵はライバルのハンバーガーチェーンにあらず。外食産業全体にあり!」と言って、立ち食いそば、ほか弁、ファミレス、コンビニ、そして牛丼チェーンから、次々とお客をかっぱいでいきました。

 値下げはいずれも「創業25周年記念」「期間限定」「平日限定」などでしたが、限定期間が年3回程度あったので、消費者からすれば「一時的なキャンペーン価格」というより「ハンバーガーの価格が安くなった」という印象でした。

 何より、ひとたびお財布が「この食べ物はこの価格で食べられるんだ」と覚えてしまうと、限定期間でない時期に割高な値段でハンバーガーを買うのがアホらしくなってしまうところが、デフレの怖さでした。

 事実、マクドナルドは02年2月に平日65円にしていたハンバーガーをいったん80円に値上げします。ところが、お客さんがぱったり来なくなってしまい、8月にさらに59円への値下げした経緯がありました。

 しかし、このことでマクドナルドは02年に売上げを改善しながらも最終赤字を計上し、カリスマ経営者だった藤田田会長が退任する事態に至りました。

 ライバルの外食各社も対抗策で値下げメニューを相次いで登場させましたが、この過当競争をいち早く抜け出たのはコンビニだったと記憶しています。コンビニ各社は主力のおにぎりを100~80円に値下げしたのですが、あまり評判はよろしくありませんでした。

 そんな中、ローソン(2651)が何かが吹っ切れたように、米にも具にも海苔もこだわった高級路線の『おにぎり屋』シリーズを出したところ、これが美味しくて大好評。コンビニは悪夢から目覚めたかのようにパンやデザートでもプレミアム作戦を展開して、デフレ地獄を脱出しました。

 ローソンの「おにぎり屋」は、いちど値下げしまった商品をそのまま値上げするのではなく、付加価値のある魅力的な新商品を新価格で提供することが、脱デフレの道である教訓を示したと思います。

デフレビジネス脱却のヒントは
高付加価値とセットメニュー

 それを教訓にしたのかどうかは存じませんが、マクドナルドも色々と苦しんだ末に「100円マック」などの低価格メニューは残しながらも「クォーターパウンダー」「ビッグアメリカ」などのプレミアムバーガーを矢継ぎ早に繰り出して、業績を立て直しました。

 単品ではなく「セット」で買わせようという戦略も功を奏していると思います。先日、期間限定で販売していた「世界のマック」をバリューセットで注文したら、700円を超えており「あっ」と思いました。知らず知らずのうちにマックでお金使うようになっていたのです。うまいことやるものです。

 余談ですが、マクドナルドは10月からレジにあった下敷き風のメニューを撤去しています。「レジにつくまでにメニューを決めておいてもらえれば、混雑解消になり、お客さんもプレッシャーを感じずに済む」ということのようですが、ツイッターなどでは「あれは面倒くさくしてセットを注文させる作戦だ」という声がもっぱらです。

 これもお客さんにお金を使ってもらうための作戦です。もちろん、必ずしも企業側の思惑通りにいくわけではありません。10月9日に発表された日本マクドナルドの既存店売上高は、前年同月比3.6%減でした。客数は伸びたものの高価格設定の「世界のマック」が、あまり売れなかったみたいです。

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