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日本の株式市場に最も影響を及ぼすファクターとは?答えは、企業収益や景気動向ではなく…。-日本株のトップアナリストによる投資講座-太田忠の勝者のポートフォリオ 第11回

2021年12月22日公開(2022年3月29日更新)
太田 忠
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景気動向や企業収益以上に株式市場に影響を及ぼすファクターがある

 「株式市場に最も影響を及ぼすファクターって何ですか?」 株式投資を始めて間もない、あるいは経験が2~3年くらいの個人投資家に質問をしてみる。「うーん、そうですねぇ、ええっーと…」と考えた後に出てくる答えがこれだ。「やっぱり景気、経済動向だと思います。景気が悪いと企業業績が悪くなって株式市場は下がるし、逆に景気が良くなると業績が良くなるので株価は上がりますから…」

Photo :Yingko / PIXTA(ピクスタ)

 もちろん、この答えが本質から外れているとは思わない。まさに経済動向や企業収益でマーケットが左右されるのが普通だ。私が社会人になった約30年前ならこの考え方で良かったと思う。景気が良くなるかどうか、企業の1株当たり利益が増えるかどうか、それが問題だった。だが、今は違う。景気や企業収益と株式市場の連動性が薄まっていることが多いからだ。

米FRBがインフレ対応のためにテーパリングの加速を決定

 米連邦準備理事会(FRB)が先週開催した今年最後の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、テーパリングの加速を決定した。テーパリングとは米国債などの資産購入の金額を減らして量的金融緩和を縮小すること。テーパリングの終了時期を2022年6月から3月へと3か月前倒し、加えて22年中に計3回の政策金利の引き上げが望ましいと発表した。予想以上にインフレ度合いが大きくそれが長引く影響を反映し、わずか1カ月前に始めたばかりの量的緩和縮小を速める軌道修正を迫られた。

 パウエル議長は記者会見で「インフレ率が目標の2%を大きく上回っている」と述べ、物価の安定を守ると訴えた。FOMCは今回、インフレは「一時的」との表現を声明から削除。11月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比の上昇率が6.8%と約39年ぶりの高水準に達し、人手不足から失業率は4.2%まで下がった。金融当局が手をこまねいていれば、インフレ対応が後手に回るとの批判が高まっていた。

2022年の利上げ回数は3回を予定。その後も利上げは続く?

 一番驚いたのが前回9月のFOMC予想では22年の利上げ回数はわずか0.5回だったのが、今回急に3回の引き上げとなったことだ。通常、このような急激な金融引き締めへのスタンス変更はマーケットにとってはショックが広がるが、「インフレ対応が先手、先手で動きそうだ」という見方からむしろ歓迎する反応となった。発表当日のNY市場はNYダウ、S&P500指数、ナスダック指数ともに大きく上昇した。

 その後も利上げは2023年にも3回、そして24年2回と3年間で計8回の利上げを想定。「そんなに利上げして大丈夫か?」と心配になるが、FRBは長期的な政策金利を2.5%と見込んでいる。すなわち1回あたり0.25%で8回利上げすると2%の金利引き上げとなる。現在のFFレートは0~0.25%のゼロ金利なので、この形であれば、金融引き締めでマーケットが大きく下がる「逆金融相場」に急速に突っ込んでいく可能性は避けられると思う。金利の急激な上昇はマーケットの大敵。しかし、2.5%程度までのゆるやかな金利上昇はマーケットにプラスにはたらく。単に「金利上昇=株価下落」ではない。

米国の金融政策こそ最も注視すべきファクターだ

 冒頭の質問に戻ろう。「株式市場に一番影響を及ぼすファクターって何か?」。この答えは、FRBの金融政策である。FRBの金融政策こそ米国市場のみならず、世界のマーケットに影響を及ぼすのだ。その最も顕著な例が、コロナショックにおける大規模金融緩和である。金利をゼロ金利にまで引き下げ、かつ量的金融緩和の実行で大量のマネーが市中に溢れた。それが株式市場のみならず、商品や暗号資産の市場にも大量に流れ、価格が急騰するという現象をもたらした。

 日経平均の動きを見ると、コロナショック前の水準(1月高値24115円)から大底まで(3月安値16358円)実に32%の下落。しかし、そこから金融緩和効果が劇的に働いて翌年2月の高値30714円まで87%も上昇した。景気も企業業績も大幅に悪化しているのに、である。これは株式投資家にとっては非常に重要な教訓だ。単に経済動向や企業収益を見ているだけでは、マーケットの方向感が見えてこないということだ。企業収益が悪いから信用売り、株価が実態より上がりすぎているから信用売り、なんてやっていると取り返しのつかないほど痛い目に合う。

 ちなみに現在のオミクロンショックによる相場の調整はコロナショック時の半分程度で済むと考えている。すでに我々はパンデミックを経験済みであり、ワクチンも持っている。コロナショック当時は未体験の世界経済壊滅懸念&ワクチン未開発の状況で、底知れぬ恐怖を味わったが、今はそれとは違う。

逆金融相場への転換点はいつやって来る?

 話を戻そう。今の業績相場から逆金融相場への転換点がいずれやって来る。私はそれは政策金利が2.5%を超えて3%に近づくと起こると思っている。イエレン議長時代に2015年12月からスタートしたゼロ金利解除で金利引き上げ局面に入ったことは覚えておられると思うが、あの時も最後の金利の引き上げで「逆金融相場」が起こり、2018年のマーケットは荒れ模様になった。

 もちろん、現況下におけるテーパリングの最中や、金利上昇の初期局面はマーケットがガタガタすることが多いのだが、それは金融正常化の局面ではつきものである。皆さんとともに、FRBの金融政策をじっくりと観察していきたいと思う。FRBの金融政策は、やはり2022年のマーケットにとっても一番重要なポイントになりそうだ。

(DFR投資助言者 太田 忠)

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