「老後破産(破綻)」という言葉をご存じですか?
最近、テレビや雑誌、ネットなどの各種メディアで、目にする機会が増えている言葉です。文字どおり、仕事を退職して年金生活に突入したときに、生活費が不足し、生活苦に陥ってしまう状況を指しています。
20~30代のまだ若い方たちと話していても、「老後までにお金がそれほど貯められそうになくて、今から不安」という悩みを、よく打ち明けられます。しかも、その年代にしては十分貯金していると思われる人(30代で1000万円、40代で2000万円など)でも、「全然足りそうにない」「貯金が思うように増えない」などと言うのです。
多くの人がそこまで不安になってしまうのは、実際に老後にどれくらいのお金がかかるか、誰も正確には把握できないからでしょう。なぜなら時代によって物価は変動し、国の経済状態も変わっていくため、老後の必要資金を正確に割り出すことは不可能だからです。割り出せたとしても、必ず大なり小なり金額にはブレが生じます。
とはいえ、老後にどれくらいお金がかかるのか、ある程度理解しておくこともまた必要です。大まかにでも理解すれば、「そこまで老後を不安視する必要はない」と気づけたり、今後やるべきことの方向性が見えたりと、人それぞれに何らかの気づきが得られるはずだからです。
とにかく、「老後破産」という言葉を聞いて、闇雲に不安がっている状態が一番よくありません。
私自身、老後にまったく不安がないわけではありません。そのため、少し前から準備していることもあります。今回はそのお話も含めて、私なりの老後破産への対策方法をお伝えしたいと思います。
誰もが「老後破産」になるわけではない。
老後、生活苦になるリスクが高いのはこんな人!
先に言っておきたいことがあります。それは、気づいた時から備えを始めれば、老後破産を恐れる必要はなくなるということです。
後ほど詳しく説明しますが、老後には年金などの「もらえるお金」もあります。そのため、よく言われるように、必ずしも「何千万円も貯金しなければ、老後の生活が行き詰まってしまう」というわけではありません(※ただし、年金が少ない自営業の人は、60歳くらいで退職しようと思うなら、何千万円という単位の貯金が必要となる場合もあります)。
とはいえ、まったく貯金がない状態で退職すると、ひたすら節約し続ける老後になってしまい、不自由な思いをする可能性は高いです。せっかくのセカンドライフですから、普段は節約するにしても、ときには趣味や旅行を楽しんだりもしたいですよね。そのためには、ある程度の貯金は必要です。
その点を踏まえた上で、あえて「老後破産するリスクが高い人」の例を挙げるなら、「現役で働いている今の時点で、稼いだお金の全部(あるいは大部分)を使ってしまっている人」ということになります。
今稼いでいるお金は、今だけのものではありません。近い将来、あるいは遠い将来にも使うお金です。なぜなら、一生働いて稼ぎ続けることはできないからです。
特に、収入が多い人にありがちなのが、「今は貯金していないけど、収入が高いのだから、このあと一気に貯めればいい」と思ってしまうこと。浪費グセがある人は、早めに改めないと、改善できないまま老後に突入してしまいます。いきなり節約モードにスイッチを切り替えるのはかなり難しいのです。
稼ぎがよければ、年金もそれなりにもらえるはずですが、現役時代高所得者だった方の「あんなに多めに年金保険料を納めていたのに、受給の差はこれだけ?」という感想は少なくありません。お金を長持ちさせることを考えていない人は、老後になっても浪費グセが抜けないので、早い段階で家計が破綻する恐れがあります。
特に、定年退職して間もない60代が危険です。例えば、退職の翌年は、住民税を自分で支払わなければならないので、大きな出費を強いられます。「住宅ローンの残額と住民税を支払ったら、退職金が全部消えた」というパターンは珍しくありません。
60代は、まだ老後といっては早すぎるほど、みなさん元気だと思います。元気であれば、外出してお金を使う機会も増えるでしょう。節約に慣れていない人は、お金を使いすぎてしまい、元々少ない貯金が底をつくことにもなりかねないのです。
繰り返しますが、浪費グセがあって、今の時点でまったく貯金ができていない人は、老後破産の恐れがあります。逆に言うと、そうでなければ誰しも老後破産のリスクが高いわけではないので、あまり不安視しすぎないようにしましょう。
老後資金はいくら必要? 統計から試算すると
平均的な必要金額は「約4000万円」という結果に
ここからは、具体的にどれくらい老後資金が必要なのか、考えていきます。一般的によく引用される統計などをもとに、ざっくり試算してみましょう。
まず、「平成27年家計調査結果」によると、世帯主が65歳以上の家庭の場合、月に消費している金額の平均は約22万円です。この金額には住居費を含みます。もっとも、現時点でこの年代の人だと、持ち家率が90%近くあります。その大半は住宅ローンを完済しているため、住居費の平均的な金額は1万6000円程度と、かなり低額になっています。
なお、平成28年度の標準的な夫婦2人が受け取れる年金額は、平均で月22万円です。つまり、(持ち家の人に限っていえば)平均的な生活をしている上では、ほぼ年金の範囲内で生活費をやりくりできることになります。
次に、その生活費がどれくらいの期間かかり続けるのか。日本人の平均寿命は男女ともに80歳代ですが、少し長めに見積もり90歳までとしておきましょう。
仮に、60歳で定年退職し、65歳まで年金支給がなく、90歳まで生きるとすると、大まかに以下のような試算ができます(※夫婦2人暮らしで、65歳以降の生活費は年金の範囲内でまかなうものと仮定。ここでは単純に、同年齢の夫婦で、ともに90歳まで生きると仮定して試算します)。
■必要な老後資金を仮定して試算してみると…… | ||
項目 | 計算式 | 金額 |
60~65歳の 5年間の生活費 |
月22万円×12カ月×5年間 | 1320万円 |
介護費、葬儀代 | (介護費300万円+葬儀代200万円)×2人分 | 1000万円 |
住居費 | 月5万円(想定)×12カ月×30年 | 1800万円 |
必要な老後資金の合計金額 | 4120万円 |
先ほど、65歳以上の人の住居費の平均が「月1万6000円」とご説明しましたが、現実にはそれ以上住居費がかかる人のほうが多いものと想定し、「追加住居費」として月5万円ずつ付け加えています。持ち家であっても、固定資産税に加えてリフォームなどをすれば、30年の間にこれくらいの出費を強いられる可能性もあるでしょう。
単純な試算ではありますが、このケースでは老後資金が最低限で約4000万円必要という結果になりました。
平均値と自分に必要な老後資金にはブレがある
今の生活費をもとに老後の生活費を試算してみよう
この「老後に4000万円必要」というのは、あくまで“平均的な年収、平均的な生活費を支出する家庭”を例にとった、平均値の話に過ぎません。
もちろん、世の中にはこのような人ばかりではありません。年金がもっと多い人もいれば、もっとずっと少ない人もいます。支出の多寡も、個人差が大きいでしょう。4000万円というのはあくまで例なので、これを参考に、自分にとっての必要老後資金を計算してみていただきたいと思います。
下の計算式に、自分の老後の生活費などの数字を想定し、あてはめましょう。
■老後に必要になる資金を計算してみよう! | ||
項目 | 計算式 | 金額 |
60~65歳の 5年間の生活費 |
月( ① )万円×12カ月×5年間 | ( ② )万円 |
年金が不足する場合、 年金と生活費の差額 |
月( ③ )万円×12カ月×25年 | ( ④ )万円 |
介護費、葬儀代 | (介護費300万円+葬儀代200万円)×2人分 | 1000万円 |
住居費 | 月( ⑤ )万円×12カ月×30年 | ( ⑥ )万円 |
必要な老後資金の合計金額 | ( ⑦ )万円 |
先ほど、平均値の試算に用いた計算式に、「年金が不足する場合の、65歳~90歳までの生活費」も付け加えてみました。年金だけで生活費が不足しそうな場合は、ここに数字(年金と必要な生活費の差額)をあてはめて計算してください。
なお、「65歳まで働く予定だから無収入の期間はない」という人は、最初の「5年間(60歳~65歳まで)の生活費」の部分はカットしてOKです。ただし、55歳や60歳などに役職定年などを迎えることで、収入が大幅に下がる事例も多いため、下がった収入だけでまかなえない生活費がある場合は、差額を計算に含めてください。
介護費、葬儀代は、目安で入っているだけなので、人それぞれ数字の増減をしてみてもいいと思います。
現時点の生活費から、老後の生活費は見える
消える費目もあるが、老後に増える費目もある!
この計算を完成させるためには、いくつか調べるべきことがあります。
まずは、①の「生活費」です。老後の生活費を計算するには、ひとまず今の時点で毎月どれくらいお金を使っているのか、通帳や家計簿などから大まかに掴んでみましょう。
仮に、毎月平均で35万円支出しているとします。そこから、現在かかっている費目のうち、老後は発生しないであろう出費を差し引いてみてください。例えば、子どもの教育費に月5万円、退職時までに完済予定の住宅ローンに月8万円かかっているとしたら、それを差し引くと22万円残ります。この場合、それが“老後も必要になると考えられる生活費の目安”ということになります。
現役時代にかかっていても、老後に減る可能性がある費目は、先ほど挙げたように「教育費」や「住居費」などが挙げられます。ただ、賃貸派の人は、ずっと住居費はかかり続けることになります。子どもが独立して夫婦2人だけになれば、食費や水道光熱費なども1~2割くらいは減らせる可能性があります。通帳や家計簿を眺めて、いらなくなりそうな出費を探してみましょう。
一方で、老後に増える費目もあります。それは、「レジャー・趣味・娯楽費」「医療費」などです。そのため、現状30万円以上の支出があるのに、「老後は10万円以下で暮らせるだろう」などと安直に考えるのはNGです。
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