世界投資へのパスポート

新仮想通貨「BAT」の売り出し成功は、証券会社が
不要となる時代を暗示!「BAT」や「VALU」など
ブロックチェーン使用の新サービスが持つ意味とは?

2017年6月5日公開(2018年6月22日更新)
広瀬 隆雄
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新しい仮想通貨「BAT」が
事前販売で一瞬のうちに33億円を調達

「ベーシック・アテンション・トークン(BAT)」の公式サイト(https://basicattentiontoken.org/)

 「暗号通貨」は、「クリプト・カレンシー(crypt currency)」を和訳した用語です。具体的には、最近話題になっているビットコインなどを指します。これらは「仮想通貨」と呼ばれることもあります。

 5月31日に、アメリカのブレーブ・ブラウザー(Brave browser)というベンチャー企業が「ベーシック・アテンション・トークン(BAT: Basic Attention Token)」と銘打った、彼ら独自の暗号通貨のICO(Initial Coin Offering)を行いました。

 ICOとは、新たに発行される暗号通貨の事前販売のことで、株式で言うところのIPO(新規株式公開にあたります。

 ブレーブ・ブラウザーは、BATの売出し直後、僅か24秒で予定の33.1億円の調達を完了しました。

企業の資金調達に関するこれまでの常識が
ガラガラと崩れ落ちる

 以上がニュースのあらましですが、私のようにかつてシリコンバレーのスタートアップ企業の新規株式公開に関わっていた者にとって、このニュースは衝撃的でした。なぜなら、若い企業がこのような方法で資金を調達できるのなら、証券会社などお払い箱になるからです。

 自分が過去に培ってきたノウハウや人脈が、価値の毀損を起こしてしまったと実感しました。昔ながらのやり方が、通用しない時代が到来したのです。

 それでは「昔ながらのやり方」とは一体、何でしょう? それは「ベンチャー企業が資金調達をするときは、仲介者として、ベンチャー・キャピタルや投資銀行を起用するのは当たり前」という考え方です。

 ベンチャー・キャピタルに出資しようと思えば、100万ドルの個人資産が無くてはなりません。これは日本円にして1億円を超える金額であり、アメリカの裕福な3%の人たちだけがこの基準をクリアします。

 また、ベンチャー・キャピタルから出資を受けて、いよいよ株式公開にこぎつけた企業がIPOをする場合、アメリカでは投資銀行がそのディールを仕切ります。投資銀行は、その新規公開株を、大手の機関投資家を中心に配分します。すると、我々個人投資家に新規公開株が回ってくる可能性は極めて低くなります(皆さんのところへ新規公開株が回ってきたら、大抵の場合、それは不人気なIPOであり、損するディールです)。

 投資銀行は、この株式公開業務に対する報酬として、最高で7%のフィーを株式公開で得た資金の中からピンハネします。投資銀行にとって、これほど美味しいビジネスはありません。

 これが、いままでの慣習だったのです。

 しかし、いまこれを読んでいる皆さんの目線からすると、不公平感を抱かずにはおれないのではないでしょうか? まず、1億円の資産をもつ裕福層だけがベンチャー・キャピタルに投資できるというのは腹立たしいし、IPOの際に個人投資家は後回しというのも、ずいぶん見下した態度です。

 それに比べると、冒頭で紹介した暗号通貨の事前販売は、誰でも参加できるので機会平等かつ民主的です。

暗号通貨の事前販売の
法的な立ち位置とは?

 私は証券界に身を置いていた人間なので「これって、証券法で取り締まるべき行為じゃないの?」ということが、真っ先に気になります。

 結論から言うと、暗号通貨の事前販売は証券法で取り締まることはできません。暗号通貨は証券(securities)、ないしは投資商品(investments)ではないからです。

 そのことを暗号通貨の「姿」、ならびに「販売のされ方」の両面から検証したいと思います。

 まず「姿」についてですが、暗号通貨はブロックチェーン技術に基づいています。それは、極端に単純化すると、「パスワードで守られた元帳(ledger)をやりとりしている」のに等しいです。これは証券と言うより、ソフトウェア・ライセンス契約に近いものです、それを「これは証券だ!」とみなして規制すると、そのような方法でソフトウェア・ライセンスを日常的に配布しているITビジネスは成り立たなくなってしまいます。

 また、投資商品であるかどうかの判定に関しては、1946年に米国最高裁判所が扱った判例、「証券取引委員会対W.J.ハウイー」が有名です。これは、W.J.ハウイー社がフロリダ州の柑橘園を出資者に販売したことが「投資商品」に該当するかどうか、を争う裁判でした。

 そこで最高裁が示した判断は:

1) それがお金の投資に関することであり
2) 共同事業であり
3) それが利益を生むという期待を持ち
4) その利益が受益者の不労所得とみなされる場合

という条件をすべてクリアした場合に限って、それは「投資商品」とみなされるということです。

 たとえば、それがある会社の株式(equity)の所有権を代表し、その事業からの利益や損失を自分の持ち分に応じて分け合い、その持分が債権者ないしはお金の貸し手としての地位を証明するケースなどがこれに相当すると思います。

 次に、暗号通貨の「販売のされ方」ですが、この面では「投資商品でないものを、あたかも投資商品であるかのような売り方をする」と証券法にひっかかります。具体的には、「リターンがある」、「利益」、「投資」などの言葉を用いて勧誘することは、法に抵触する可能性があります。

ブロックチェーン技術を育むことは
日本にとっても非常に重要

 このように書くと、折角の新しい試みに冷水を浴びせているように思われるかもしれません。でも私は、ブロックチェーン技術に対して批判的なのではなく、それを正しく育むことが大切だと考えているのです。

 それを以下で説明します。

 インターネットは、我々の日常生活に浸透しています。しかし、これまでのインターネットの歴史を振り返ると「ああ、あれはまずかったな」という、インターネットが不得意な事柄というのも、実はあるのです。

 まず、インターネットはハッキングに弱いです。言い換えればセキュリティーに脆弱性があるということです。

 また、我々がネット生活を送ることによって作り出しているクリック履歴などのデータは、グーグルやフェイスブックなどのごく一部の企業によって保有されています。データの集中は、それらを牛耳る一部企業が隠然たる影響力を持つことを意味します。それは寡占につながる、非競争的な図式です。実は、最近のシリコンバレーでイノベーションが減っていることと、それらの巨大企業の寡占とは、無関係ではないと私は思っています。

 これに対しブロックチェーン技術は、分散型(distributed)であり、セキュリティー面でも堅牢です。

 つまり、ブロックチェーン技術とインターネットは、相互補完的な面が多いのです。

 昔は鉄というと、錬鉄(れんてつ)が使われていました。しかし1856年にベッセマー法が編み出されてからは、それによって生み出された鋼鉄が錬鉄にとって代わり、高層ビルや大きな橋梁の建築が可能になりました。この喩えのように、インターネットの一部もブロックチェーン技術に取って代わられる可能性があるのです。

 だからこそ、ブロックチェーン技術を育み、そこから生まれる新しいビジネスやサービスを支援することは、インターネットのビッグウエーブに乗り遅れた日本が、失地挽回する好機なのです。

インターネットには
社会の破綻を生み出すという側面も

 実は、インターネットのような新技術があまねく国民に普及した段階というのは、それらの国民にとって最もしんどい局面です。なぜなら、iPhoneに代表されるように、誰もがそれを持ち歩くようになると、それに乗り遅れた人は、そもそも職を得る基礎的スキルすら持ってないという烙印を押されるリスクがあるからです。

 現在のイノベーションは、主にホワイトカラーの職域で起こっています。ちょうど、機械の登場でブルーカラーの労働者が不要になったように、オフィスワーカーは合理化の圧力に晒されているのです。

 シリコンバレーの大企業に勤める人たちが、その寡占的、非競争的な「利益を生むシステム」の恩恵に浴してどんどん豊かになる一方で、その他大勢の人たちは相対的に貧しくなっています。それは、ある意味、「破綻した社会」です。SNSなどを通じて、恵まれた人たちがどんな暮らしをしているかが、手に取るようにわかる一方で、貧困は表に出ず、人知れず苦しむ多くの人たちを生み出しているのです。

新しい技術によって生み出される
新しい価値観の萌芽

 インターネットのインフラストラクチャが行き渡ったことにより、新事業を始める初期投資の資本は限りなく小さくて済むようになりました。ちっぽけなスタートアップ企業が、大企業を打ち負かすケースが、今後増えてくると予想されます。

 かつてアメリカでは(日本でもそうですけど)、USスチールやゼネラル・モーターズのように、資本集約的で投資回収に長い日数を要するようなビジネスほど、社会的地位が高かったです。そして、そのような重厚長大のビジネスに対して融資する興銀や長銀などの長期信用金融機関が、就活生にとって最もプレステージの高い就職先でした。

 しかし、いまのビジネスは資本集約的ではないので、そういう長期資本の出し手は、全く必要なくなっています。

 昔は、信用の源泉は「大企業」という名前でした。しかし今、大企業は立ちすくんでおり、従業員の面倒を一生みることは無理になりつつあります。

 大企業には、「変わらないと、恐竜のように絶滅する」というプレッシャーがかかっています。その大企業の中で働く個々人に要求されるスキルも、変わりつつあります。すると、その中からは「大企業にしがみつくことをやめた人」も出てくるわけです。

 いまの若い人たちは、シェアハウスとか、ボランティアのようなものに価値を見出しており、私のようなバブル世代とは違う価値観を持っています。彼らにとって本当に意味のあるカレンシー(通貨)は、ソーシャル・グラフやクラウドファンディングや「投げ銭」のようなものかもしれません。

 彼らの価値を代弁するカレンシーの蓄積が、従来の「日本円」や「ドル」での蓄積を大きく凌駕するケースも、今後出てくることが予想されます。

日本発の新しいサービス
「VALU」の持つ重要さとは?

 それに絡んで先日、暗号通貨を使って個人の人気を買うVALU(valu.is)というサービスがスタートし、話題を呼んでいます。これは、個人の人気をあたかも株式を売買するように売り買いできるサービスです。

 このようなサービスが、シリコンバレーではなく、日本で先に始められたことに、私は大きな衝撃を受けましたし、「日本も捨てたもんじゃないな」という希望を持ちました。

 ただし、VALUは株に似ているけれど「株式」ではありません。いや、「投資」ですらないと思います。

 その運営に際しては、前述したW.J.ハウイー社の裁判で示された法的な基準に触れないような必要があるのです。具体的には、VALUの上場者が明示的な「見返り」を確約することは不適切だと思います。また、「リターン」や「投資」、「利益」などの言葉を使って勧誘することも×だと思います。

 でも、「私としては何も見返りはあげられませんが、私個人の生き方に、あなたが勝手に評価をつけ、それを売買する」ということに対しては、誰もそれを止めることは出来ないと思います。

【今週のまとめ】
暗号通貨やブロックチェーン技術、VALUなどの
新しい技術・サービスを、正しく育てていこう

 暗号通貨の事前販売は、従来の資金調達の常識をくつがえす、新しい試みです。いまのところそれは証券法で規制されていません。それを証券法の適用外に置くことは、資本市場の民主化にとって重要なことかもしれません。

 暗号通貨の依拠するブロックチェーン技術は、インターネットが不得意なことをうまくこなすことができる技術です。だから行政は、そのイノベーションを殺さないようにすることが望まれます。

 最後に、VALUは株ではありません。投資対象でもありません。単に著名人の人気を売り買いする「美人投票」のようなものです。投資商品でないものを、投資商品のような勧誘の仕方で煽ると、後で禍根を残すことになるでしょう。

 しかし、それを断った上で、このようなサービスが世界に先駆けて日本でスタートしたということは素晴らしい事です。再起を期す日本にとって貴重なチャンスと言えます。そのチャンスの芽を摘み取ってしまうのではなく、正しく育成する責任を、参加者全員が負っているのだと思います。

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