富士通メインフレームからの引っ越しの動きとして大きいのは、4月18日配信予定の#3で詳報するが、地方銀行の勘定系システムを巡るものだ。また全国銀行協会は保有する全銀システムを富士通のメインフレームから27年にはオープン化することを決めた。
しかし、この流れが富士通の全ての顧客で起こっているかというと、どうもそうではなさそうだ。引っ越しが難しいからだ。それには、富士通メインフレームからの移行のみならず、一般のマイグレーションにも共通する幾つかの理由がある。
マイグレーションの意義が出せずコストと
リスクに耐えられない企業が多数
まずマイグレーションは「膨大な手間とコストがかかるにもかかわらず、投資対効果が表れにくい」。というのも、多くの企業は、現状のメインフレームで動いている業務アプリやITの環境を、そっくりそのまま引っ越しさせることを望んでいる。メインフレームで動いていた業務アプリの内容を、オープンなどで違う環境の上で再現し、安全に動かすには手間も移行コストもかかり、さらにその後の運用コストもあまり下がらない。
また、現状のシステムの構造が複雑化し過ぎて、自社が使っている現在のシステムの構造が把握できない企業も、メインフレームのユーザーの中には多い。そのため「これまでは問題なく動いていたが、中身を刷新しようとしたらシステムが止まり、経営に甚大な影響が出た」などのトラブルも相次いでいる。
そのため、昔ながらのレガシーシステムを抱える企業は、マイグレーションを検討しつつもできずに頓挫、決断を次世代に先送りしてきた、という歴史的経緯がある。
では、ここで、いよいよメーカーの撤退という最後通牒を突き付けられたメインフレームユーザー企業はどうするのか。ガートナーは悲観的な予想を出している。「26年までに、マイグレーションを検討しているメインフレームユーザーの60%は、膨大な費用を提示され、マイグレーションを見送る」というのだ。
つまり、メーカーのサポート切れのウィンドウズXPをいつまでも使い続けるかのごとく、サポートが切れたメインフレームを使い続ける企業が多数出てくることが予想されるというのだ。確かに、メーカーがサポートを終了しているハードを延命させるサービスを提供する企業はたくさんいるものの、基幹システムにおけるセキュリティー面ではまったく推奨されないし、もちろんDXどころではない。
ちなみに、サポートが切れる富士通からは離脱しなければならないが、メインフレームの全てがレガシーというわけではない。
例えば、IBMの最新のメインフレームは「10年間で3兆円の開発投資が行われている。またオープン系のエンジニアでも開発がしやすいプラットフォームを用意したり、LinuxOSやJavaを採用できる環境やクラウドに接続がしやすい新製品を出し続けている」(村田将輝・日本IBM常務執行役員テクノロジー事業本部長)。つまり、クローズでもないし、古くもないわけだ。
残存企業が実質1社になることで、急に値上げされるなどのリスクはあるものの、IBMユーザーについてはまだ希望が残っている。