【今回のまとめ】
1.先週のナスダックは後味の悪い引けかたをした
2.イエレン議長のスピーチは良かった
3.雇用統計も特に問題ナシ
4.グーグルの無議決権株発行は、のちに禍根を残すと思われる
先週の米国株式市場
先週の米国株式市場は、ダウ工業株価平均指数が+0.55%、S&P500指数が+0.4%、ナスダック総合指数が-0.67%でした。
週の前半は堅調だったのですが特に金曜日のナスダック総合指数の-2.6%の下げは週末にむけて後味の悪さを残しました。
イエレン議長は市場参加者が聞きたがっていた言葉を発した
先週火曜日のスピーチで、連邦準備制度理事会(FRB)のジャネット・イエレン議長は、債券買い入れプログラムを終了した後でも、当分の間、超低金利を維持すると発言しました。
また見かけ上、失業率は6.7%まで改善しているけれど、長期に渡って失業している人も多いし、仮に職を見つけることが出来た人でも、不本意な、安い賃金のパートタイムの仕事に甘んじている場合が多いことを具体的な事例で説明し、超低金利維持の重要性を切々と訴えました。
投資家はこのスピーチで、議長が本当に金利を低いまま維持することに強い決意を持っていることを確認し、ホッと一安心しました。
雇用統計も無難な内容だった
一方、金曜日に発表された3月の雇用統計では、非農業部門雇用者数が19.2万人と市場予想の20万人に近い数字でした。

加えて1月と2月の数字は合計3.7万人、上方修正されました。

失業率が6.7%と2月と変わらなかった一因は求職者が増えたからであり、これは良いことです。

過去1年間の失業率の改善のペースは毎月当たり0.067パーセンテージ・ポイントであり、これは少し改善のペースが鈍化したことを示唆しています。

いずれにせよ雇用統計を見る限り、アメリカ株が大きく売られるような理由は見当たりませんでした。
グーグルの無議決権株の無償割り当てに見る、シリコンバレーの傲慢
しかし先週はおそらく米国証券史に長く刻まれるに違いない、残念な事件がありました。
それはグーグル(ティッカーシンボル:GOOGL)が無議決権株を無償で既存株主に割り当てたことです。
グーグル株を持っていた投資家は先週の木曜日の立会からグーグルの株価が半分になったことに気が付いたはずです。これは「既存の1株(これをクラスA株式と言います)に対して、タダで1株の無議決権株(これをクラスC株式と言います)を新しく進呈します」ということです。
クラスAとクラスCの株式は、それぞれ先週の水曜日以前の株価の約半値の値段がついているので、合計すれば投資家の持ち株の合計価値は不変であり、株数だけが2倍に増えたということになります。
もともと議決権のあったクラスA株式には新しいティッカーシンボルであるGOOGLを付与され、今回新しく作られた無議決権株であるクラスC株式が以前のティッカーシンボルのGOOGを継承しました。
一見、2:1の株式分割となんら変わらない単純な措置には、実は隠された意図があります。
それは一夜にしてクラスCという、新しい種類の株券をグーグルが手に入れたということです。これは今後同社が社員のボーナスとしてストックオプションを支給する際、無議決権株を渡すことで創業者の持ち株比率をこれ以上希釈化(=薄めること)しなくても済むことを指します。
実際、グーグルの創業者であるラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンの二人は、クラスBという、10倍の議決権を持った非上場株式を中心に持っているため、同社の投票権の55.7%を支配しています。
無議決権株式という新しい道具をグーグルが手に入れるということは、今後、創業者は自分の投票権を薄めることなく無制限に株を出し、クラスB株を持っている投資家(=それは、我々一般投資家に他ならないわけですが)に投票権の希釈化の負担を全部押し付けることが出来るというわけです。
しかもこの二人が同社の投票権の過半数を握っているということは、M&Aなどの、会社の方向性を決めるどんな重要な決議事項でも、反対されることを心配せず、ゴリ押し出来てしまうことを意味するのです。
グーグルほどの大企業で、このように突然、手品のように既存一般株主の権利を著しく害する無議決権株式が出されることは極めて稀です。
株主の混乱は必至
ただ今回のグーグルの措置は機関投資家の行動様式に対する理解の浅い、拙いやり方だったと思います。
なぜならグーグルの株式の多くはミューチャルファンド(=投信)や年金などの機関投資家に保有されており、彼らの多くは内規で「無議決権株式は、組み入れてはいけない」というルールに縛られているからです。
すると無議決権株であるクラスC(ティッカーシンボル:GOOG)には大きな処分売りの圧力がかかるわけです。
もちろん、グーグルという企業に対する一定のエクスポージャー(=投資額)を維持しようとするとGOOGを売ったお金でGOOGLを買い増せば良いわけですから、理屈上はGOOGLにかかる買い圧力が、GOOGにかかる売り圧力と相殺し合うことになるわけです。
しかし議決権のあるGOOGLの方が議決権の無いGOOGよりプレミアム(=割高)で買われ、この二つの株式間での乖離は縮まらない可能性もあります。
また「この際、こんな株主軽視の方針を打ち出したグーグルのGOOGLを買い直すのは止めよう」と考える投資家が出てこないとは限りません。
このように、今回の事件を機に、グーグルの株主基盤の大部分が、グラグラと揺れ動き始めることは、投資家としては不安を覚えざるを得ません。
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