今回は今、市場で話題になっている複数のテーマを取り上げたいと思います。また、最後に読者からの質問へも回答したいと思います。
中国はなぜ、ゼロコロナ政策から脱却できないのか?
中国はまたロックダウンし始めましたが、この政策はもう限界に来ているようです。市民への監視がかなり厳しいにもかかわらず、全国的にロックダウン反対のデモが起きています。
びっくりするのは、「習近平、やめろ!」と叫ぶデモ参加者もいることです。当局に捕まったら相当大変なことになると覚悟した上での叫びです。デモの起爆剤となったのは新疆ウイグル自治区での火災。ロックダウンによって救助活動が妨げられ、火災による死亡者が増えたと市民の間ではウワサされているようです。
中国経済もロックダウンで大きな打撃を受けています。航空便は45%減、地下鉄利用者数は32%減、映画館の売上げは64%減です。ロックダウンされている都市のGDPは中国全体のGDPの60%ほどを占めています。
中国はなぜ、ゼロコロナ政策から脱却できないのでしょうか?
根本的な問題は中国製ワクチンの有効性が低いことにあります。有効性が低いため、ワクチンを接種しようという人が増えにくくなり、ワクチン接種率が高まりません。とりわけ老人の接種率が低くなっています。
中国で60歳以上の人は新型コロナのワクチンを86%が接種していますが、ブースター接種を行ったのは68%に止まります。
中国の医薬品メーカー、シノバック製のワクチンは2回接種の場合、80歳までの人については重症化に対して80%ぐらいの有効性がありますが、80歳以上になると、有効性は60%まで落ちてしまいます。
一方、ファイザー製のワクチンは2回接種した場合、すべての年齢層について重症化に対する有効性が85%を超えています。
中国の80歳超えの人口は3220万人ぐらいです。
中国政府は死者が出るスピードを気にしている。しかし、欧米製の優れた新型コロナワクチンは面子の問題で使いたくない
専門家の分析によると、中国がロックダウンをやめたら、中国全土で150万人の死者が出る可能性もあるといいます。
私も簡単に試算してみたところ、中国全土で300~400万人が死亡する可能性があるという数字になりました。その計算式は以下のとおりです。
非接種人口×新型コロナ死亡率+接種人口×新型コロナ死亡率×ワクチン効果=300~400万人
これがもし、中国でファイザーとモデルナのワクチンをほぼ100%接種していたとしたら、予測される死者数は70万人ほどになります。簡単な計算式で試算したものですので、この数字は非常に正確なものとは言えないかもしれません。けれど、少なくとも両者に大きな差があることは間違いないでしょう。
中国政府は死者が出るスピードを気にしていると思います。一気に経済を再開させたら、世界の人たちはすでに免疫を十分持っている一方、中国人は免疫を十分には持っていないことになりますので、中国では大量の死者が一気に出るかもしれません。
そのような事態に陥るのを容認することは政治的に難しいのです。しかし、経済を本格的に再開させないと、経済面でのダメージは大きいです。
近代史上、中国政府は国益・党の利益を犠牲にしてまで、国民の命を守ったことはほぼないと思います。大躍進政策や文化大革命がその代表例です。おびただしい数の中国国民が犠牲になってきました。
今回の新型コロナに関する対応についても、おそらく本質的な違いはないと思っています。前述したとおり、ロックダウンを続けた方が、中国国民の新型コロナによる死亡者数は少なくなると考えられますが、その反面、経済は犠牲になります。本当は中国国民にも欧米の優れた新型コロナワクチンを接種させることが一番いいのですが、政治的な面子がそれを許しません。
政治的な面子を保つこと、中国国民がギリギリ受け入れられる死者の数、経済の回復──これらが何とかバランスする地点を探りながら、中国は本格的な経済再開へ向かっていくのだろうと思います。2023年の第2四半期から年後半にかけて徐々に経済を再開させていって、2024年には正常化するのだろうと思っています。
米国のインフレはこれからどうなる? 中国の状況はどう影響する?
中国の状況がどうなるかが影響を及ぼすのがアメリカのインフレです。
ここからはアメリカのインフレの先行きについて考えてみます。
データを見ると、今のトレンドが続けば、アメリカのインフレは2022年末にピークを打ちそうです。しかし、インフレ率は2023年通年で見れば、まだ4.5~5%台が続きそうです。米CPIは直近10月の数字で前月比+0.4%でした。前年比は+7.7%でした。
シナリオ分析を行ってみましょう。
米CPIの前月比+0.4%がずっと続くとすると、前年比のインフレ率は12月でピークを打ちます。そして、前月比のプラスがもしこれより0.1%高ければ、インフレのピークアウトは1ヵ月、後ズレするイメージです。もし、前月比+0.8%が続けば、インフレ率は2023年内にピークを打たないことになります。
前月比のインフレ率が今までのトレンドよりも上にいくか、下にいくかということには、中国の新型コロナ政策が大きく影響すると思います。中国のロックダウンが長引くのであれば、アメリカのインフレは長引きそうです。
もし、アメリカのインフレがピークアウトしないなら、市場のトレンドは2022年に起こったことがまだ続くことになります。アメリカの利上げ停止は遅くなります。為替はもっと円安になります。成長株はさらに下がります。
私は2023年の第2四半期半ばで中国はロックダウンを緩和せざるを得ないことになるとみています。
そうなると、アメリカのインフレは2023年のうちにピークアウトするものの、まだ4~5%台というレベルに止まるでしょう。また、FRB(米連邦準備理事会)は利上げを止めると思います。
こういった状態だと、企業の収益トレンドはまだ完全に回復できないでしょうが、市場は先を見るものなので、成長株の株価は緩やかに回復すると思います。
円安は少しお休みになるでしょうが、2021年のレベルには戻らないでしょう。なぜかというと、アメリカのインフレがピークアウトしたとしても、日米間にはまだ大きな金利差が残っているからです。
インフレはすでに日本へも来ている。日本ではあまり賃金上昇は期待できず、購買力維持のためには資産の“生産性”を上げよう
そして、インフレはすでに日本へも来ています。
先日、Big 5(アメリカのスポーツグッズ店)へ買い物に行きました。ドアに店員募集の貼り紙がありました。時給は17.25ドルです。日本円ならおよそ時給2400円ほどになります。日本のコンビニは時給1000円ほどですから、倍以上の差がありますね。
日本のインフレ率はすでに2%以上の数字が出ています。日米金利差が大きな状態は続き、日本でもインフレが続くでしょう。インフレになっても、賃金が上がらなければ、購買力は減ってしまいます。
賃金の上昇には労働生産性の向上が関係してきますが、日本の労働生産性はここ10年、ずっと停滞していますから、この先も向上は見込めそうにありません。
そうなると、購買力を維持するためには、資産を活用するしかありません。本来、資産運用の世界には生産性という概念はありませんが、実際にはどう運用するかによって、資産の“生産性”は変わるのです。
日本で働いていてもあまり賃金の上昇が期待できないのなら、投資を行うしかありません。資産の“生産性”が低ければ、投資リターンも低くなり、暗闇から脱出できないループに陥る恐れもあります。分散して、世界株に投資すべきです。
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