日本の公的年金を運用するGPIFは四半期ベースの運用益で過去最高を更新
日本の公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2023年4~6月期の運用パフォーマンスは+9.49%、運用益は18兆9834億円となった。四半期ベースにおける運用益は過去最高の2020年4~6月期の12兆4868億円を大きく上回った。資産別の損益を見ると、国内株式が7兆886億円、外国株式が7兆8196億円の黒字、また国内債券が1761億円、外国債券が3兆8990億円の黒字だった。4つのプロダクトのすべてが黒字だ。2023年6月末時点の運用資産額は219兆1736億円となり過去最高を更新。素晴らしい成績であると思う。
2023年4~6月は皆さんもご存知のように、国内株式に海外投資家の資金が大挙して流入し、日経平均株価はバブル崩壊後の最高値を更新し、5148円も上昇した(上昇率+18.3%)。国内株式の上昇がパフォーマンスを牽引したことに加え、米国など海外株式の上昇も利益を押し上げた。為替の影響も大きい。ドルやユーロに対して円安が進んだことも追い風となった。円安が進むと、円換算した外貨建て資産の評価額が増える。GPIFは資産の半分を外貨建ての株式と債券に投資しており、円安が資産全体の評価額を4.5%押し上げる形となった。
GPIFの運用成績が赤字になると目くじらを立てるメディアや世論は短絡的
ところで、第71回のコラム(2023年2月15日)で『日本の年金財政とGPIFについて正しく知ろう!』というテーマを取り上げたことがある。2022年10~12月期の運用実績が1兆8530億円の赤字となり、同年1~3月期から4四半期連続の赤字を記録。4四半期連続赤字は約20年前の「エンロン・ショック」以来という不名誉な状況になっていた。世界的な利上げに伴う金利上昇で債券価格が下落したことや、2021年秋からの急速な円高で円換算の外国資産額が目減りしたことが要因であった。
GPIFの運用益がマイナスという報道がされると、「年金支給額が減らされる!」「何でマイナスの運用なんかしているんだ!」「責任者出てこい!」のような世論が起こるが、それはあまりにも短絡的だ。これに同調して不満をぶつける人たちも多く見受けられる。私たちに非常に密接に関わっているGPIFについて意外と正しく理解されていない…という書き出しだったが、2023年1月~3月期に10兆2788億円と5四半期ぶりに大幅な黒字転換、4月~6月期が18兆9834億円と過去最高を記録したことを見れば、短期的な視点で年金運用を語ることの愚かさがよくわかるだろう。
7月の日経平均の上値が重かったのはGPIFが行ったリバランスが一因
GPIFは世界最大の年金運用機関であり約220兆円ものお金を運用している。国民が支払う国民年金と厚生年金の保険料を一括して運用し、将来の給付に備えて「国内株式、海外株式、国内債券、海外債券」を25%ずつ保有する方針で運用している。いずれかのプロダクトの保有比率が上がったり下がったりすれば、「リバランス」と言って投資比率を均等にする手法を取る。リバランスは1つのプロダクトのウェートが大きくなりすぎたり、小さくなりすぎたりする弊害をなくし、比率が上がれば売却して利益を確保し、比率が下がれば購入して将来の利益機会を仕入れるという意味合いがある。リバランスはグローバル投資の基本スタイルであり、GPIFに限らず幅広くおこなわれている。
「6月下旬~7月はリバランス売りで日本株は売られる!」という議論がマーケットで何度もなされたことは覚えておられると思うが、GPIFは国内株式比率の上昇を是正するため実際にリバランスを実施した。4月から6月にかけてGPIFの国内株式比率は14%上昇したため1兆4000億円程度を売却し、一方で比率の下がった国内債券に8000億円程度を購入したと見られている。ちなみに、国内株式の1兆4000億円の売りは日経平均を1100円程度下押しするとの民間による試算があり、7月の日経平均がほぼ横ばいで上値が重くなった要因だと考えられる。
リバランスやETF分配金拠出による売り圧力も一時的。上昇基調は不変
ところで、7月以降の状況はどうだろうか? 世界的な景気減速懸念が後退し、米国を中心に金利が上昇し債券価格が下落している。日本でも日銀が7月の金融政策決定会合で長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の再修正をおこなって長期金利の上限を事実上0.5%から1.0%に引き上げた。その後、新発10年国債の利回りは足元で0.6%台と2014年1月以来となる9年半ぶりの水準まで上昇している。これにより、7月から足元にかけて国内外の債券価格は2%超下落。株価も下落しているが、国内株式と外国株式の下落率は1%程度で債券より小さい。結果的に、株式のウェートが上がっており、7月以降に国内株式で約1兆円、外国株式で約3.6兆円の売りが生じている可能性があると見られている。
ところで、国内株式においてはもう一つのテクニカル的な売り圧力がある。それがパッシブ型上場投資信託(ETF)の分配金拠出のための売りだ。大半のETFが7月初旬に決算を迎えるが、今年のETF分配金拠出の売りは7月7日(金)に4200億円、7月10日(月)に6800億円となった。少し長い視点で見ればETF換金売りはマーケットにはあまり影響はない。なぜならETFは投資している個別企業から事前に配当金を受け取っており、分配金を拠出するまでの間は運用しているからだ。要するに、その期間はマーケット需給にプラスに寄与し、その後、投資家に配当金を拠出するために7月に売る。1年を通してみれば「プラス・マイナス」はゼロとなる。
マーケット参加者の心得として、このような売りに気を取られることなく、淡々と企業に向き合って株式投資を考えていただきたい。これらはあくまでも一時的な売り圧力に過ぎず、マーケット動向を決めるわけではないからだ。
9月6日セミナーは必聴。逆業績相場もそろそろ最終盤
さて、太田忠投資評価研究所とダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチ(DFR)がコラボレーションして投資助言をおこなっている「勝者のポートフォリオ」。おかげさまでパフォーマンスは好調で、会員数も大きく増加している。資産運用で大きな飛躍がしたいと真剣にお考えの方はぜひどうぞ。ひとりで悩まず、素晴らしい仲間たちと一緒に資産運用に取り組んでいきましょう。早ければ早いほど成果は大である。
9月6日(水)20時より毎月恒例のWebセミナーを開催する。今回のテーマは『逆業績相場もそろそろ最終盤へ』。マーケットはどんどん進んでいる。来たるべき金融相場に向けて「勝者のポートフォリオ」ではテンバガー候補銘柄への投資を開始。テンバガーが生まれるロジックや銘柄発掘方法のスペシャル講義もスタート。コラムでは個別銘柄の話はなかなかできないが、セミナーでは今後大きく株価の上昇が期待できる銘柄も存分にお話する予定だ。会員限定だが、10日間無料お試し期間中でも参加可能。セミナー当日14時までのお申込み(15時URL配信)。誰でも参加できるのでぜひどうぞ。なお、会員の方は後日アーカイブでの視聴ならびにプレゼンテーションPDFもご利用いただけるようになっている。
●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。
※この連載は、ワンランク上の投資家を目指す個人のための資産運用メルマガ『太田忠 勝者のポートフォリオ』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、メルマガ配信の他、無料期間終了後には会員専用ページで「勝者のポートフォリオ」や「ウオッチすべき銘柄」など、具体的なポートフォリオの提案や銘柄の売買アドバイスなどがご覧いただけます。原則毎月第一水曜夜は、生配信セミナーを開催。
国内外で6年連続アナリストランキング1位を獲得した、
トップアナリスト&ファンドマネジャーが
個人投資家だからこそ勝てる
「勝者のポートフォリオ」を提示する、
資産運用メルマガ&サロンが登場!
老後を不安なく過ごすための資産を自助努力で作らざるを得ない時代には資産運用の知識は不可欠。「勝者のポートフォリオ」は、投資の考え方とポートフォリオの提案を行なうメルマガ&会員サービス。週1回程度のメルマガ配信+ポートフォリオ提案とQ&Aも。登録後10日間は無料!