5月30日、米ニューヨーク州地裁の陪審員はトランプに対して、有罪の評決を下しました。米大統領経験者が刑事裁判で有罪の評決を受けるのは史上初めてのことです。
読者のみなさんはこのニュースをどう受け止めたでしょうか?
今回は日本ではあまり紹介されていない、トランプ有罪についての見方を紹介したいと思います。結論としては、この評決は、米大統領選に臨むトランプにとって相当有利な出来事となりました。
[参考記事]
●前大統領トランプ起訴! でも白黒つけるのは難しい。トランプ当選か、落選か、有罪か、無罪かによって、考えられるシナリオは?
トランプのやったことは通常なら軽犯罪にすぎないのだが…
トランプは、2016年の米大統領選挙の前にアダルトビデオ女優への支払いを法的経費として記録したことにより、マンハッタンの裁判所でビジネス記録を改ざんした罪で有罪の評決を受けました。
この事件は通常なら軽犯罪にすぎませんが、検察官がこれを連邦政府の税法・選挙法と無理やり結びつけたため、米国のメディアでは、フランケンシュタイン訴訟と呼ばれることもあります。
ちなみにこの検察官、アルヴィン・ブラッグは2021年のニューヨーク郡地方検事の民主党候補指名選挙を勝ち抜き、その後の本選で共和党側の候補を破りましたが、その選挙期間中、「トランプ狩りをする」と宣言していました。
「前大統領でも有罪にできることで、司法システムはうまく動いている」という民主党側の主張はおかしい
今回の評決を受けて、民主党側は、前大統領でも有罪にできることで、司法システムはうまく動いていると評価しています。
しかし、私はそうは思いません。
軽犯罪を大きく扱うということは、司法システムを政治的に使うことに他なりません。起訴するかどうかは、社会全体への影響と将来への影響を考えて決めるべきことです。
この裁判は、私から見ると、ある程度、政治的なものであることが明らかです。裁判官はバイデン政権に寄付しており、その家族は民主党で活動しています。検察官も民主党の影響が強いです。
この裁判が全国から集められた陪審員や、政治的にバランスの取れた検察官によって行われたものであればよかったのですが、そうではありませんでした。アメリカの地方裁判所は、陪審団は普通、地元、すなわち市・郡のレベルで選ぶので、全国から選ぶことはシステム的にありえないことでしたが、トランプの訴訟は全国にかかわる話なので、ある意味、システムの欠陥です。アメリカの州は独立の国みたいなものなので、こういうことになってしまいがちです。
トランプが有罪になったことに驚きはない。裁判が極めて民主党寄りの地域で行われたからだ
ここで日本の映画、黒澤明監督の『羅生門』を例に説明してみたいと思います。
この映画は同じ殺人事件の当事者たちと目撃者たちのそれぞれ異なる証言を繰り返し描き、人間のエゴを追求した映画でした。ポイントは、真実は1つではなく、いくつかあるのが普通ということです。
今回のトランプの件も、ニューヨーク州のようなディープ・ブルー(非常にリベラル・民主党寄り)の地域で裁判が行われたので、トランプが有罪になったことに驚きはありません。
ディープ・レッド(非常に保守的・共和党寄り)の地域で裁判をやれば、評決は全然違うものになっていたと思います。アメリカはそのような二極化した国になっています。
検察官は裁判ではトランプに勝ったかもしれないが、政治的な戦争では負けそうだ
ここで、共和党の元大統領候補でいつもはトランプをかなり批判するミット・ロムニー上院議員の2つの発言を紹介したいと思います。
「あなたは同意しないかもしれませんが、もし、私がバイデン大統領だったら、司法省が起訴した際にトランプ前大統領を即座に恩赦したでしょう。なぜか? それはこのような恩赦は、恩赦した人物を大物にし、恩赦された人物を小物にするからです」
そもそもバイデン大統領が米大統領選に立候補するのは自分自身の野望によるものです。バイデン大統領は党のことを最優先に考えていないと思います。
バイデン大統領が持つ米大統領選へのメインメッセージは、「自分はトランプではない」というだけのことです。これは魅力的なことではないと思います。
紹介したいミット・ロムニーのもう1つの発言は次のとおりです。
「アルヴィン・ブラッグ検察官は通常の手続きどおり、トランプに対する訴訟で和解すべきでした。しかし、彼は政治的な決定を下しました。ブラッグは当面の戦いには勝ったかもしれませんが、政治的な戦争では負ける可能性もあります。民主党はトランプの火を酸素で消せると思っていますが、これは政治的失策です」
ある共和党の中央幹部は、ブラッグは再優秀共和党員賞をもらうべきだと皮肉を込めて発言しました。彼は個人のエゴで、戦闘には勝ちましたが、戦争では負けそうです。
[参考記事]
●トランプが大統領になる可能性はより一層高まった! 司法がトランプの立候補を妨害して内戦になる話は、支持する立場で全く別物。中台戦争は短期でなさそう
トランプ政権誕生の可能性が高まった今、投資家はどうすべきか?
このような展開を受け、ビジネス界の人たちはすでに次期米大統領はトランプと見て、その準備を開始し、トランプと仲良くしようとしています。
では、投資家はどうすべきでしょうか?
[参考記事]
●バイデンよりトランプ大統領のほうが株が上がる! カカオ豆暴騰でチョコレート会社に投資のチャンスってどういうこと!?
●トランプ大統領復活が現実的な話に…。トランプ政権が誕生したら米国経済、米国株はどうなる? 投資家はどう行動するのがいいのか?
トランプ政権になると、不確定要素が増えます。しかし、アメリカが不透明な状況になる時こそ、アメリカに投資しなければいけません。なぜかというと、アメリカに問題が出てくれば、アメリカの傘下にある国の方により大きな問題が出てくるからです。
[参考記事]
●アメリカの問題が波及して世界が危なくなる時に、一番安全なのはアメリカ! シャットダウンや利上げなどの短期的なリスクは、むしろチャンスになる
もしも、アメリカがダメになるのなら、その周辺の同盟国の方が先にダメになると思います。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
※メルマガ「ポール・サイの米国株&世界の株に投資しよう!」募集中! 米国株&世界の株の分析が毎週届き、珠玉のポートフォリオの提示も! 登録から10日以内の解約無料。