中国の審計署(日本の会計検査院に当たる)は大手国有企業20社に対する調査で、18社に不正計上が発覚したと公表しました。売上高の水増しは2015年までの数年間で日本円にして約3兆円に上るとのこと。中国共産党が所有する国有企業の腐敗を自ら公表したのにはどんな思惑があるのか、刺激的な金融メルマガ『闇株新聞プレミアム』が読み解きます。
世界最大の企業グループ所有者
中国共産党で繰り広げられる暗闘
不正が公表された18社には、中国最大の石油天然ガス会社「中国石油天然気」、今年6月にスイスの農薬最大手を買収した「中国化工」、3大自動車メーカーの一角で日産やホンダとの合弁企業もある「東風汽車」、中国最大級の鉄鋼製造グループ「宝武鋼鉄」、世界有数の船舶メーカー「中国船舶重工」などが含まれます。
これらは中国政府(国務院)が直接所管する「中央企業」と呼ばれ、資本は中国共産党の国有資産監督管理委員会が独占、経営も党幹部が行っています。中には「ペトロチャイナ」のように上場しているところもありますが、たいていは資産や事業のほんの一部を売り出しているだけで、すべては党の所有財産です。
中央企業は再編が進み現在は101社になっています。これに地方政府の所管企業や、所有権と経営権のどちらかを中国政府か地方政府が所有する企業も加えたいわゆる「国有企業」の総数は30万社に上ります。
これは中国全土に約1600万ある企業の2%に過ぎませんが、中国経済の約20%を動かしているとも言われます。改めて考えると中国共産党とは「世界最大の企業グループの所有者」であり、常にその支配権(つまり利権の配分権)を巡って内部で暗闘を繰り返していることになります。
中国共産党がこの「巨大な財布」をガラス張りにするはずがありません。今回、審計署が中央企業の不正計上を公表したのは、5年に1度の中国共産党大会に向け習近平が綱紀粛正を前面に出しながら、中央企業の主導権を江沢民派から一気に奪い取ってしまおうと画策していると見ることができます。
今秋の中国共産党大会後の人事で
江沢民派の勢力をそぐのが狙いか
現在、中央政治局常務委員7名のうち、張徳江(序列3位)、劉雲山(同5位)、張高麗(同7位)の3名が江沢民派です。
張徳江は中国東北部・朝鮮半島の利権を掌握しており、劉雲山は北朝鮮(金正恩)の交渉窓口です。さらに張高麗は江沢民が支配する石油閥が必ず1名確保する政治局常務委員のポストについています。いずれも習近平が切り込めていなかったり、是が非でも奪い取っておきたい利権です。
習近平は、胡錦濤の流れを引く李克強首相(序列2位)ともしっくりいかず、明らかな盟友は綱紀粛正を任せる王岐山(同6位)しかいません。
今秋の共産党大会では、内規の年齢制限(常務委員就任時に67歳以下)により、習近平と李克強以外の5名が交代となります。習近平は内規を変えて王岐山を留任させ、李克強を祭り上げて後継首相に据えようとも考えているようです。
李克強は5年後の共産党大会時も67歳で、再選されてトップになる可能性もあるため、習近平が「ここで力を削いでおきたい」と考えても不思議ではありません。
さらにここにきて、綱紀粛正の責任者である王岐山にも不正蓄財のスキャンダルが出ました。暴露したのは米国に亡命した中国人スパイです。王岐山が今秋で引退するにしては、不穏な動きではないでしょうか。
今秋の共産党大会ではポスト習近平を争う2人の新任常務委員が昇格します。少し前には胡春華(広東省書記)と孫政才(重慶市書記)が「当確」と考えられていましたが、ここにきて流動的となっています。胡春華は李克強率いる共青団、孫政才は江沢民に近いとされている人物です。
こうしたドロドロの抗争は今秋の共産党大会まで続きます。国有企業の不正告発はあてこすりのように、今後も出てくる可能性があります。
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