東芝(6502)の半導体事業が海外ファンドによって買収されようとしています。本連載では前回、日産自動車(7201)と三菱自動車(7211)がフランスのルノーに“食い尽くされる”懸念について取り上げたばかりですが、海外ファンドに買収されてしまうのは外国企業に飲み込まれるよりも「はるかにタチが悪い」のだとか。その理由を投資のプロも愛読しネタ元にしている刺激的な金融メルマガ『闇株新聞プレミアム』が解説します。
買収に名乗りをあげているのは
いずれも外国企業+海外ファンド連合
報道によると、東芝が分社化した半導体事業会社の買収に手を上げているのは、ウェスタン・デジタル(米)、ブロードコム(米)、鴻海グループ(台)、SKハイニックス(韓)だけであり、いずれも外国の事業体です。
これらの事業体は用意できる資金に限界があり、いずれも海外ファンドと共同で入札することになります。今のところ組み合わせが確定しているのはブロードコムとシルバーレイク(米)だけで、どの事業体と組むかはわかりませんがKKR(米)とベインキャピタル(米)が参戦の意向を示しています。
では、パートナーとなる事業体はともかくとして、KKR、シルバーレイク、ベイン・キャピタル(実力順に並べるとこの順番です)の各ファンドは、東芝の半導体事業を買収してどうするつもりなのでしょう?
こうした買収案件のスキームは基本的にどの海外ファンドも変わりませんので、「定石」として説明します。
仮に買収金額が東芝の要望通り2兆円で決まると、事業体が2割(4000億円)、海外ファンドが8割(1兆6000億円)を出資することになるでしょう。海外ファンドが出資する1兆6000億円のうち、彼ら自身の資金はせいぜい3割程度(4800億円)で、残りの7割(1兆1200億円)は金融機関からの負債(借り入れ)です。この手の案件に資金を貸す金融機関は、一時的な「つなぎ融資」も含めて金利以外にもかなりの手数料を取ります。
買収の具体的の手順としては、まず事業体と海外ファンドがそれぞれに出資金を出して「特別目的会社(SPC)」を設立し、そこが半導体事業会社の全株式を取得するカタチになります。
買収後の半導体事業会社の経営は事業体が中心となりますが、大株主はあくまで8割を出資する海外ファンドです。そのため、経営がうまくいかなければ海外ファンドが事業体を「解雇」してしまうこともありえます。
半導体事業会社は買収費用の
買い入れを自ら返済させられる
そして、ここからがポイントなのですが、海外ファンドは特別事業会社を1兆1200億円の負債もろとも、半導体事業会社と合併させてしまうのです。
つまり、半導体事業会社は自分たちを買収するために使われた資金を、自分たちでせっせと返済させられることになるのです。過酷なリストラや資産の売却などが行われ、利益が出れば借金返済に充てられ、設備投資は徹底的にケチられます。
そうしてしばらくすると(最近は1~2年が多いようです)、海外ファンドは半導体事業会社を再上場させ、保有株の一部を売り出して当初の自己資金分(4800億円)の大半を回収してしまいます。半導体事業会社は負わされた負債がほぼそのまま残り、それから何年も返済に追われることになるでしゅう。
海外ファンドに買収された場合の、東芝の半導体事業会社の命運はだいたいこんなものです。企業価値の向上などは完全に後まわし、海外ファンドにとって東芝の半導体事業会社は単なる投資対象に過ぎないのです。
もしかしたら、東芝の現経営陣はその辺が理解できていないかもしれませんが、東芝に対する貸金回収を急ぎたい日本の金融機関は「完全に理解している」はずです。
[参考記事]
東芝は自ら「破滅の道」を突き進む!決算短信を出さず、危機感もまるでない(2017年5月18日公開)
東芝(6502)よ、なぜそれほどに死に急ぐ!?「地獄の扉」は開かれた、生還する唯一の策は…(2017年4月21日公開)
東芝の半導体事業といえば、日本にとっても「虎の子」でもあったはず。経営難の東芝が手離すのは当然としても、海外ファンドの手に落ちると骨の髄までしゃぶり尽くされ、ボロ雑巾のように捨てられてしまう……しかも、再びその株を売りつけられるのが日本の投資家とはことばもありません。刺激的な金融メルマガ『闇株新聞プレミアム』ではこれからも、他のメディアが取り扱わない経済界の裏側を、独自の視点・切り口で解説していきます。
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